今日は、日本とフィリピン・ダバオでの若者の自立支援施設に関する記事から、「ひきこもり」問題など「自立支援」に関することを少し。
ひきこもりビジネス
「自立支援」というのは、私も以前携わった福祉行政では馴染みのある言葉です。2,000年ごろから貧困問題や介護、障害者、ひとり親など様々な分野で「自立支援」に関する法律や政策などが作られました。
しかし「自立支援」をうたった「ひきこもり」に関するビジネスでのトラブルも問題化しています。
「衆院法制局が見解 ひきこもりの引き出しビジネス『犯罪に該当する可能性が高い』」(Yahooニュース 2019/11/27)
この記事中、下記のような問題が指摘されています。
- ひきこもりの当事者が無理やり連れ出され(引き出し行為)、施設に監禁される。
- 施設において暴力等の人権侵害行為を受ける
- 支援の内容が不適切、あるいは何も支援が行われない
- 不当に高額な料金を取った上に、契約内容通りの支援を行わず、契約の解除を求めても返金しない
ミンダナオの「ダバオ・フリースクール」事件の概要
以前の投稿でこんなニュースを紹介しました。
「フリースクールの名を借りた『貧困ビジネス』か? 日本人運営のフリースクール ダヴァオで摘発」(DEGIMA NEWS)
Cops rescue 13 Japanese from human traffickers on Samal Island(GMA NEWS ONLINE)
2018年5月1日、フリースクールから脱走した4人の日本人生徒が現地警察に保護され、虐待を受けていた事を訴えたことから事件は発覚します。
逮捕されたのは、ミンダナオのダバオ市の近くにあるサマール島(レイテ島の隣にあるサマール島ではありません)で「ダバオフリースクール」を運営しており、広島県でNPO法人の空手道場の理事をしていた日本人男性(当時61歳)とその息子(35)、彼らの家事手伝いをしていたフィリピン人女性(56)の3名。
この事件で、13歳から21歳の男子10人、女子3人が保護されました。その内9人は未成年で、人身売買防止法や児童虐待などの罪で起訴され裁判となりました。
上記の「DEGINA NEWS」によると「同フリースクールは不登校などの青少年を教育する名目で運営していたが、在校生の保護者からは毎月10万ペソ(約22万円)という高額な月謝を得ていて、保護者の弱い立場を見たフリースクールに名を借りた貧困ビジネスではないかとの指摘がある。」とあります。
2つ目は最近のこんなニュースです。
「ワンステップスクール湘南校」損害賠償請求事件
「ひきこもり自立支援で「無理やり監禁」…男性7人「恐怖植えつけられた」と賠償求め提訴」(読売 2020/10/29)
「ひきこもり自立支援施設の手法は拉致・監禁、元生徒7人が初の集団提訴へ」(Diamond online 2020/10/25)
2020年10月28日、原告である元生徒7人が、ひきこもりやニート等の自立支援のための施設である「ワンステップスクール湘南校」を運営する団体とそのスタッフに対して、「引き出し行為」や「監禁」などに対する慰謝料計2,800万円の支払いを求めて提訴したもの。また、「日常的に小学生レベルの勉強や清掃などを場当たり的にやらされるだけで、自立支援とはかけ離れていた」とも主張しています。
一方、代表の広岡氏は自身のホームページ上の「訴訟問題についての反論」で「(本人の同意のない)連れ去りや監禁が事実無根であること」や、むしろ「原告7名は外部の人間による「勧誘」や「連れ去り行為」であった」などと反論しています。
気になる点について
この事件はこれから裁判になるので事実関係も含めてここでは触れません。そのうえで、少し気になったことを3つばかり述べたいと思います。
「ワンステップスクール」の「ホームページ」←(リンク切れ)を見ると
「『1つ屋根の下で、家庭の温かい愛情を注ぐ』をモットーに、自立支援専門スタッフが24時間体制でお子さまのケアをいたします。共同生活を通し、愛情、対話、カウンセリングなど、様々な方法を用い豊かな一歩を共に築きます。
また精神科医、臨床心理士によるメンタルケアをはじめ、企業による就労支援、学習および進路指導、資格取得等のサポートを行い、健全な社会参加ができることを支援しています。」とあります。
ひとつは「名称」で、このホームページではテレビ放送された番組の動画もアップされているのですが、この番組中で、代表者は「若者教育支援センター」 と名乗っています。この団体の名称は「一般社団法人 若者教育支援センター」というものです。
また、番組による「施設」とのテロップがあります。こういった名称は説明がないと視聴者に公的な機関をイメージさせてしまうかもしれません。(もちろん違法ではありません)
次に、その動画では、今回訴えられた「ワンステップ湘南」も映されており、「精神科医、看護師、臨床心理士、社会福祉士などが常駐している」説明が入ります。
「ひきこもり」には専門的なアプローチが必要です、ホームページでももうたっている宣伝通りに、精神科医などのケアが適切に行われていたかどうかは気になるところです。
あとは、ホームページでは「無料相談会」のお知らせはあるのですが、具体的な費用についてのアナウンスが見当たりません。これもその事自体は違法ではありませんが、冒頭の「ひきこもり引き出しビジネス」に例示されているように金銭トラブルの事例も指摘されており、いくら位なのか、どのようなシステムなのかが気になるところです。
フリースクールとトラブル
ひきこもりの自立支援の為の施設は児童自立支援施設のように厚生労働省所管の法律の基づくものではありません。
フリースクール」という形態で行われることが多いと思われます。
「フリースクール」というと、私の世代だと「戸塚ヨットスクール」が思い出されます。この事件は刑事事件ですが、これ以降もフリースクールの事件はいくつも起こっています。
フリースクールの経営は官庁への許認可も届け出も必要ありません。
文部科学省初等中等教育局児童生徒課から「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」令和元年10月25日という通知が出され、その中に「民間施設についてのガイドライン(試案)」が示されているだけです。
つまりフリースクールで何か問題があった場合はあくまで当事者同士で対応しなくてはなりません。
そのような事からか、ひきこもりビジネスに関しては文部科学省や厚生労働省ではなく、消費者庁が注意喚起しています。
消費者庁 「ひきこもり支援を目的として掲げる民間事業の利用をめぐる消費者トラブルにご注意ください!」
なぜひきこもり支援がトラブルにつながるのでしょうか。
「親に対する暴力や金の無心などで手に負えなくなりにより親が強引な引き出しを容認してしまう」、「公的第三者等によるチェック機能が働かない」、「当事者が精神疾患を持っている場合がある」、「宿泊施設という閉鎖的な環境内でのことで表面化しにくい」など、いろいろと考えられます。
現行の公的支援システム
ひきこもりの定義ですが「社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊)を回避し、原則的には6か月以上にわたっておおむね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない)」をいいます。また調査対象年齢も中高年層(40歳~64歳)までと広くなっています。
ニートが若年層で就職意欲が無い者を指すものであるのに対し、ひきこもりは年齢にかかわりなく、さらに家族以外の人間関係や社会との関わりを強く閉ざしている点に着目されます。
ひきこもりの問題は就学年齢であれば「不登校」でもありますが、「生活困窮者自立支援法(制度)や「子ども・若者育成支援法(制度)に基づく対応がとられます。
私が福祉分野で仕事をしていた頃はこういった法律はまだありませんでした。行政はなかなか手が回らないというのが実態かもしれません。
(参考リンク)
厚生労働省HP
ひきこもりの状態にある方やそのご家族への支援に向けて
「ひきこもり地域支援センター」の設置状況リスト
自立相談支援機関 相談窓口一覧(平成30年4月1日現在)
「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」(上記ホームページ内)
内閣府HP
「子供・若者育成支援」(こども家庭庁)
「子供・若者白書」(内閣府)
「子ども・若者育成支援推進法」(e-GOV法令検索)
「ひきこもり支援者読本」(内閣府)
ひきこもりビジネスだけでない問題
最近のニュースからも虐待・暴力や、わいせつ行為などの人権侵害は施設に限らず、学校や家庭、職場などありとあらゆる所に存在することが分かります。もちろん日本に限ったことでもありません。
これらは、外部に干渉されにくい空間で親と子、職員と利用者、教師と生徒などといった上下関係や従属関係がある環境において、心理的・構造的に起こりやすいのかもしれません。
「es[エス]」という1971年にアメリカのスタンフォード大学で実際に行われた「スタンフォード監獄実験」を題材にしたドイツ映画を思い出します。後にアメリカでリメイクもされましたが、怖い映画でした。
- 3歳児の口にペット用トイレの砂入れ虐待死 母親を再逮捕…両親による虐待はなぜ防げなかったのか(FNNプライムオンライン 2020/10/22)
- 一晩で40回以上、殴る蹴るを繰り返していた 高齢者向け住宅の虐待で市の調査チーム(神戸NEXt 2020/11/13)
- 真冬に裸、風呂に沈められ…「殺してくれた方が」虐待の残像、今も(児童養護施設)(西日本新聞 2020/11/3)
- 社会福祉法人の理事長から「性暴力やハラスメント」 元職員らが東京地裁に提訴(毎日新聞 2020/11/13)
ベビーシッターの犯罪歴確認へ わいせつ事件相次ぎ厚労省(KYODO 2020/11/9)←リンク切れ- オーストラリア警察、子ども46人を虐待ネットワークから救出 14人逮捕(BBC NEWS 2020/11/11)
- 教会の性的虐待ホットラインに通報6500件 被害者の9割が未成年 フランス(AFP=時事 2020/11/13)
私は教育、福祉行政に携わるなかで学校、障害者施設、精神科病院、高齢者施設、簡易宿泊所(ホームレス緊急一時宿泊施設)、などを見てきました。それらの殆どは献身的な管理者やスタッフによって運営されていた印象があります。
問題が起きるケースは稀だとは思います。しかし研修や行政、第三者によるチェックは必要なのかなとは感じます。
こういった事件は組織ぐるみというケースもあるでしょうが、管理者の目の届かない所で一個人によって行われる場合もあり得ます。
「そんな自立支援施設に行くくらいならセブに来んね」
(「来んね」は九州方面でよく使われる方言だと思います。意味は「来なさい」とか「来てね」とか「おいでなさい」とかでしょうか。子供の頃、長崎の祖母やおばと電話すると語尾の「ばってん」以外は7~8割方は何言っいてるのか分からず、ただ相槌を打っていたのを思い出します。)
家庭内暴力を伴うなど深刻な状況に対しては民間の団体ではなく児童虐待やDV被害のような警察と連携した行政の関与が必要だと思います。(あるいはNPOなどと行政が協力し合う形で)
そうでない場合、もし自立支援をうたう施設で「引き出しビジネス」や「監禁・虐待」が行われているのであれば、そんな施設には行くべきではなく、むしろセブ(別にセブでなくとも、また、フィリピンでなくともいいのですが)で過ごすほうがよほど自立支援につながるのは、と思います。
人間関係のしがらみやプレッシャーによるストレスは少なく、英語を勉強したりダイビングを習ったり海の中で漂ったり泳いだり。ネット環境は今ひとつですがIT関係を学べる場もたくさんあります。
しかし、こんなことを言うと、ツッコミが来そうです。
「家から外に出れないから『引きこもる』のであって、家の外に出れないのにましてや海外なんていけるわけないだろう」
その通りです。海外旅行できるくらいなら苦労はしない。うつ病の人に「たまには太陽の陽を浴びるために散歩に出たら」と声をかけるようなもので、それができないから辛いわけです。
家からでも動画はみれます。最近はフィリピンや世界各地から現地のありのままの姿を伝える動画も増えてきているように思います。
昭和のころの風景のように、子どもたちも「お金はなくとも夢と笑顔」にあふれ、無理をせず明るく生きる。そんな生活が映し出されているかもしれません。
興味を持てる動画がひとつでもあればいなあと。もし無いのであればコロナが収束して家を作り始めることができたら、そんな動画も撮ってみたいと思っています。
何十人、何百人に1人でも日本じゃないなら行ってみようと思うのであればいいなと思います。旅行滞在費は問題になるビジネスよりはるかに安上がりでしょう。
すると「そんなフィリピンで働きもしない人達を見たら、働こうとしなくなるではないか」という意見もでてきそうです。
セブに来て学校の寮から出て一人暮らしを始め、平日も街なかの裏路地を歩くようになると驚きました。男女比でいうと男性、年齢比でいうと、30代くらいからの人が昼間から至るところでたむろっているのです。日本であれば、皆普通に仕事をしている時間です。
まだその光景を不思議に思っている頃でした。私のフィリピン友人のプロビンス(田舎の故郷)にある親戚の家を尋ねた時がありました。
セブの市街地では家は城壁のような壁で囲まれていたりしますが、それとは異なりオープンで、広い庭には親族や近隣住人20人以上の人々が机と椅子を並べスナックを食べ認知症の友人の祖母を囲んで楽しそうにしていました。
その中に「日本人がいるよ」と言われ、その方と話をしたのですが、話を聞くと特に彼らとは親戚関係でもなく、何となく親しくなってフィリピンに来るとそこに遊びに来ているのだとか。
「何て自由なのだろう」、またそんな外国人を気にせず自然に受け入れている事にも驚きを覚えたのでした。
全てをひとくくりにして考えてはいけませんが、日本では自ら島国根性であるとか、村社会という言葉を使うことがあります。
日本人のおもてなしの心は素晴らしいですが他者への思いやりで、やはり少しよそよそしさはあるのかなという気がします。
以前「天国にいちばん近い島」の森村桂さんのお話をしました。森村さんは就職した先での失敗や適応のなさに自信を喪失しており、南の島の人たちが週に何日かしか働かなくて、あとは自由に寝たり食べたりして暮らせることへのあこがれが旅立ちを決意したひとつの理由でした。ある意味、逃げとも言えます。
また、以前「うつ」の話をしました。私自身がそうでしたが、ひきこもりの人にとっても「一旦、逃げる場所」があっていいと思います。それはできるだけ今まで苦しんできた現実社会から遠い方が。
おわりに
すくなくとも「貧困ビジネス」のように、ひきこもりの人々を食い物にするような「ひきこもりビジネス」はあってはならない、と願います。
繰り返しになりますが、「ひきこもり」の問題も他の福祉問題同様に専門家の知識・知見が必要です。
タクシービジネスも6年目にして、ようやく落ち着く目処がたちました(詳しくは別途の機会に)。将来は、自立支援であったり、それ以外でも、セブで何か活動をしたいという方の手伝いなどができたら、などと考えています。
フィリピンの11月は台風シーズンです。マニラなど大きな洪水被害がでています。コロナに加えて大変な状況です。これ以上被害が広がらないことを祈ります。