今回は「DOLE」の話です。
スーパーマーケットなどで見かけるこれではありません。
これまでの投稿でも「ドーレ(DOLE)」の話題はありましたが、実際に行ったことはありませんでした。
先日、妻と、リチャード夫婦と一緒に、初めて訪れました。
ドーレとは
DOLEとは、労働雇用省(Department of Labor and Employment)の略称で、フィリピンにおける労働・雇用に関する規制・監督を行う官庁です。
特に、立場の弱い労働者の保護を目的として、雇用に関するガイドラインの発効や規制を行なっています。
労働紛争は、まずドーレによる調停である「Single-Entry Approach(SEnA))」から始まります。
和解が成立しない場合は、中央労使委員会(National Labor Relations Commission、NLRC)の労働仲裁人(Labor Arbiter)による「仲裁(Arbitration)手続」の対象となります。多くの紛争はここまでで決着しますが、最終的に裁判に持ち込まれるケースもあります。
セブのドーレは「Region VII」(中央ビサヤ:Central Visayas)が管轄区域になります。
ドーレ(DOLE)の場所(セブ市)
外国人雇用許可(AEP)と特別就労許可(SWP)
ドーレは、外国人にとっては、フィリピンで働く際に関わりのある役所です。
外国人がフィリピンで働くためには「労働ビザ(9G)」などを取得する必要がありますが、ビザとは別に「労働許可」が必要になります。
6か月以上の就労を希望する外国人は、労働雇用省(DOLE)発行の「外国人雇用許可(Alien Employment Permit:AEP)」を、6か月を超えない範囲で就労を希望する外国人は入国管理局(Bureau of Immigration:BI)発行の「特別就労許可(Special Work Permit:SWP、3か月有効で1回限り延長可能)」を取得する必要があります。1
ドーレに行った理由
さて、今回、私がドーレに行った理由は、ドライバーに関する問題への対応です。
今までもお話してきたように、タクシービジネスにとって最も重要なのはドライバーです。
フィリピンの一般的なタクシービジネスのシステムは、レンタカー方式と呼ばれ、オペレーターがドライバーに車両を貸し出し、「バウンダリー」という利用料を受け取るスタイルです。
つまり、オペレーター(オーナー)とタクシードライバーとの関係は、雇用主と従業員ではなく、ドライバーは自営業者になります。
しかし、労働者として扱われる面もあり、ドライバーがドーレに駆け込むこともあります。
一般の会社だと給料の未払いなどのケースも多いと思いますが、タクシーの場合はやはり解雇に関するトラブルが多いかと思います。
雇用者からの一方的な解雇は違法とされており、法律で認められた「解雇する理由」がある場合は、解雇は可能ですが、退職金(Separation pay)を支払う義務があります。
私の場合、幸い、今までドーレに申し立てられた経験はないのですが、今までも問題のあるドライバーの対応に苦慮するケースはあり、トラブルになる前にドーレに相談に行こうということになったのです。
セブのドーレへの相談
ドーレは、一般的には雇用主が「賃金を払わない」、「違法な解雇をした」、「違法な労働環境を放置している」ような場合の労働者の苦情の窓口として知られていますが、あくまで使用者と労働者の調整機関なので、雇用者側が相談に行っても問題ありません。
そもそも、「タクシードライバーは労働者に準ずる扱い」という話も、法的根拠とか聞きたいところです。
もっとも、私の英語力だと直接、職員と難しい話をすることは困難ですし、実際には、すべてセブアノ語(現地語)で妻とリチャードが会話をしたのでした。
所内には多くの人が訪れていましたが、それほど待ちませんでした。
フィリピンらしく担当職員は明るく非常に話し好きで(トカティブ)、妻などが時折質問し、9割以上は彼が話し続ける感じです。
タクシー関係の労働問題は、結構レアケースかと思っていたところが、そうでもないということはよく分かりました。
フィリピンの労働紛争や労働争議
私がセブに来た10年くらい前の頃、英語学校の先生から、「英語教師を目指すうえで、やはり公立学校の教師になりたい」という人は多くて競争率も激しいと聞き、実際に採用試験に受かって退職した先生もいました。
一方で、当時は公立学校でも給料の未払いがあるという話も聞きました。
公務員でさえそんな状況ですから、その後出会った知人から「給料が未払いだった」という経験や,サラリーは最低賃金を下回っているなんていう話も。
日本では「ブラック企業」という言葉が一般的に使われていますが、フィリピンは、もっと劣悪な労働環境だと思ったものでした。
日本では労働組合の組織率も下がり、ストライキもあまり聞かなくなりましたし、ブラック企業で違法行為があっても泣き寝入りなんてことも多く、退職さえさせてもらえず「退職代行」なんてビジネスまで生まれるご時世です。
また、日本では2021年の「パートタイム・有期雇用労働法」などにより、「同一労働同一賃金」が義務化2されたものの、労働者の4割近くを占める非正規雇用者3は正規雇用者と比べ、様々な面で「雇用の格差」が存在すると指摘されています。
さらに、雇用関係ではなく請負契約などに基づくフリーランスの権利を守るために2024年には「フリーランス法」が施行されています。4
一方、フィリピンの特徴として、憲法で「国は、労使の間における責任分担の精神を推進するとともに、調停を含む紛争解決による自主的解決を優先し、労使双方に規則の遵守を求め産業の平和を目指す」と定められており、労使間の自主的解決を基本理念として、労使間の対話の場を国が積極的に整備し、争議行為(ストライキなど)や裁判となる前に解決する紛争解決制度の充実に力を入れています。5
そして、意外にも労働法は「労働者保護の観点が強い」という特徴があるそうです。6
「労働力のみの請負」は禁止されていたり、「通常雇用 (Regular Employment)」、「簡易雇用」、「プロジェクト雇用」 、「季節性雇用」及び「定期雇用 (Fixed-term Employment)」という5つの雇用形態がありますが、少なくとも1年間サービスを提供した従業員は、そのサービスが継続されているか断続的であるかに関わらず、「通常雇用」とみなされ、契約期間は設けられず、合法でない限り解雇はできなくなります。
また、6か月の「試用期間」を設けることが認められていますが、6か月を超えた場合、雇用者は当該労働者を通常雇用 へ移行させる義務が生じます。7
このため、雇用者が5 か月間等の短期雇用を繰り返す、「Endo(エンド):end-of-contract)」と呼ばれる行為を行い、訴えられるケースもあります。
巨大な利権問題や環境破壊などが注目されるニッケル製錬事業において、日系企業が、このような6か月未満の雇用と解雇を繰りすなどにより、労働問題が生じたこともあります。
- 「鉱物資源に呪われた国フィリピン(1)〜資源産業の社会影響と資源に歪められた40年〜」「鉱物資源に呪われた国フィリピン(2)〜大きな懸念と希望〜」(国際人権監視NGO Stop the Attacks Campaign (SAC))
- 「フィリピン・ニッケル製錬事業で労働問題―不当解雇も 日本企業は早急な問題解決に向けて積極的な対応を!」(2020/01/24 認定特定非営利活動法人 FoE Japan)
また、2000年に始まったトヨタ自動車株式会社の海外子会社である「フィリピントヨタ社労使紛争」は、日本企業の海外進出が増大するなか、海外における労使紛争として注目されるとともに、国会においても、この問題が取り上げられました。
- 「OECD多国籍企業行動指針に関するトヨタ自動車株式会社及びトヨタ・モーター・フィリピン社に対する問題提起に係る最終声明」(平成31年(2019年)4月11日 経済協力開発機構(OECD)多国籍企業行動指針に係る日本連絡窓口(NCP)
- 「トヨタ自動車株式会社のフィリピンでの労使紛争に関する質問主意書」(平成17年(2005年)4月28日提出 衆議院)
日系企業の場合、裁判になると、原告が雇用主側の外国人に対して出国禁止措置を求め、裁判所が認めると、出国できなくなるというケースが結構あると聞きます。
完全移住しているのならいいですが、日本に家族などがいる場合など、外国人にとってはけっこう厳しい措置です。
今後のこと
そして、ドーレへの相談も終わり、ひとつ課題ができて、その後、ドライバーとの契約について弁護士に相談しに行ったのでした。
最終的には、再度ドーレ(DOLE)に確認するつもりなのですが、これまでにお話したように、フィリピンの役所は、担当者や事務所によって異なったり、1年後に変わっていたり、また、全く別のセクションから横槍が入ったりと、確認したからといって100%安心できるものではありません。
このへんは、いつもながら悩ましいところです。
結果などについては、また別の機会にお話できるかもしれません。また、フィリピンの労働法などについても、よく調べて別途投稿したいと思っています。
セブは今日はシヌログフェスティバルのグランドパレードです。
日本はすっかり冬模様かと思いますが、皆様、インフルエンザや新型コロナなどにお気をつけください。
【脚注】
- 「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用」(ジェトロ) ↩︎
- 「同一労働同一賃金特集ページ」(厚生労働省) ↩︎
- 「正社員61.9%、パート・アルバイト27.1%…日本の雇用形態の現状をさぐる(2024年公開版)」(2024/11/25 Yahoo news 不破雷蔵) ↩︎
- 「公正取引委員会フリーランス法特設サイト」 ↩︎
- 「2018年 東南アジア地域にみる厚生労働施策の概要と最近の動向(フィリピン)」(厚生労働省) ↩︎
- 「フィリピンの投資環境/2024年2月 第19章 労働事情」(国際協力銀行) ↩︎
- 「フィリピンの投資環境/2024年2月」(株式会社 国際協力銀行) ↩︎
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