
立て続けにフィリピンを襲う大きな地震
この記事の投稿日である2025年10月14日(火)からさかのぼること2週間前の9月30日(火)、セブ島北部沖の海域でマグニチュード6.9という大きな地震が発生しました。1
震源地に近く大きな被害が報告されているボゴ(Bogo)市は、セブ市から約100km(車で2時間半程度)の距離にあるセブ島北部における中心的な町です。
また、10月9日(木)午前10時30分には、ルソン島北部の山岳地域で日本の軽井沢のような避暑地として有名なバギオ(Baguio)がある「コルディリラ(山岳)行政地域」(Cordillera Administrative Region, CAR)内のベンゲット(Benguet)州の西隣りに位置する「ラ・ウニオン(La Union)州プゴ(Pugo)」から北東2キロの地点を震源とする深さ約10kmでマグニチュード4.4の地震が発生しました(当初のマグニチュード4.8から訂正)2。
さらに、10月11日(土)午後5時32分には、ルソン島中部で首都マニラの北西に位置するサンバレス(Zambales)州のボトラン(Botolan)町の深さ102キロを震源地とするマグニチュード5.1の地震が起こり、ブラカン(Bulacan)州、ラ・ウニオン(La Union)州、ヌエバ・エシハ(Nueva Ecija)州、タルラック(Tarlac)州、パンガシナン(Pangasinan)州など広域で揺れが感じられました。3
一方、フィリピン南部のミンダナオ島のダバオ付近では、10月10日(金)午前9時44分にマグニチュード7.4、同日の午後7時12分にマグニチュード6.7という大きな地震が2つ立て続けに発生しています。456
フェイスブックなどのSNSでは被災時の動画が多数投稿されており、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
セブ島では2週間経った今も余震が続いており、10月13日(月)にはマグニチュード5.8の余震により14人が負傷したとの報道もありました。7
2013年のボホール島地震
私がセブに初めて来たのは2014年6月です。
2013年11月4日に発生した台風ヨランダ(国際名:ハイエン, 平成25年台風30号)は、レイテ島などで死者・行方不明者8,000人以上、被災者1,600万人、負傷者3万人近く、家屋の倒壊・全壊約110万棟という甚大な被害をもたらしました8。
セブ市にも被害が及び、当時私が泊まったホテルでは、屋上の屋根が一部壊れたままの状態でした。
また、その3週間ほど前の10月15日午前8時12分に起きたボホール島地震はマグニチュード7.2で、死亡者222人、行方不明者8人、負傷者976人を出し、404,107世帯、190万人以上が被災しました。セブ島でも12人が死亡、96人が負傷しています。910
当時、セブ市街地観光で訪れたサントニーニョ教会は壁が崩れ、仮の補修工事が行われていたことを覚えています。

今回のセブ北部地震
今回の地震は、セブ市街地に限ってみれば、2013年の地震と比較して被害は少なく、建物の倒壊などの大きな被害は報道されていません。
しかし、セブ市にある公立病院のセブ市医療センター(CCMC)では、全ての患者が屋外に避難する様子がSNSや報道で報じられています。(下記写真)
私は日本と行き来する生活のため、セブにいない時もありますが、これまで震度1から2くらいの地震は数回経験しています。
今回は、私の住んでいるマボロというエリアでは震度3程度の揺れを感じました。
ホテルやコンドミニアムなどの高層階では、恐怖を覚えるほどの、かなりの揺れを感じたのではないでしょうか。

親戚も被災
実は私の妻の実家はセブ島北部のタブエランで、同じく北部のメデリンやサン・レミジオにも親戚が暮らしています。
私の住んでいる地域(セブ市マボロ)では停電も断水もありませんでしたが、北部地域では停電が発生していたようです。
メデリンの親戚とは翌日まで電話もつながりませんでした。
すべての親戚と連絡が取れ、幸いなことに人的被害はなく、建物の倒壊なども免れたとのことですが、余震が強く、屋外に避難して寝ているとのこと。
多くの店が閉まり、水や食料が足りないという状況を受け、被災2日後にセブシティに住んでいる親戚が集まり、車を持っている一人が運転して被災した親戚に物資を届けることになりました。
うちからも義母と義弟が同行し、渋滞を避け、夜中に出発しました
フィリピン文化バヤニハン(Bayanihan)
日本の場合、行政による災害対応の体制はかなり整っているといえます。
大規模な災害では、当該自治体の職員もまた被災者となり、拠点となる施設も損壊する場合があります。
このため、状況に応じて自衛隊などへの出動要請に加え、都道府県や、ほぼすべての市町村は他県の自治体や一般企業などとの「災害協定」を結んでおり、被災していない地域から、迅速に救援活動を行う準備を整えています。
それでも、2024年1月1日に起きた能登半島地震では、多数の崩落や陥没等で主要道路が通行不能となり、孤立集落が解消されたと発表されたのは被災から2週間近く経った1月19日のことでした11。
一方、フィリピンは、装備を含め災害救助体制は日本と比べると弱いといえます。
以前もお話しましたが、フィリピンではバヤニハン(Bayanihan)という相互扶助の精神による助け合いが広く行われています。
セブ島の北部は大きな産業もなく、家族の中からセブシティに出稼ぎに来ている家庭がたくさんあり、今回の地震でも、大勢が私達のように故郷に物資を届けようとしました。
北部への経路は島の西と東にそれぞれ1本道があるだけです。
さらに、タブエランについては、町の北へつながる橋が大きなダメージを受け通行止めになったり、山間部の道路で土砂崩れが起こり、それらの除去に時間がかかったりしました。
多くの人が車で被災地に向かったため、渋滞が発生し、親戚の家にたどり着くまでにかなりの時間がかかったようです。
10月13日(月)の余震
10月13日(月)真夜中の1時5分に大きな余震がありました。12
私は、まだ寝入っていなかったため気がつきましたが、震度でいえば2くらいだと思います。
この日、お昼すぎに妻が役所(LTFRB:フィリピンの陸上交通許認可規制委員会)へ手続きで行ったのですが、この地震のためかは分かりませんが、建物に亀裂が入っているのが確認されたため、職員が全員支所に移ったとのこと。
車で10分程の支局に行ったのですが、書類は全部に役所に置いたままということで全く手続きできず、後日出直しとなりました。
日本だったら震度2程度であれば平常運転だろうと思いますが、結構混乱します。
一方、姪っ子たちが通う学校も、9月30日の地震で校舎に亀裂が入り、修理が必要とのことで10月12日現在もまだ自宅待機が続いています。
復旧は、一体いつになることやら…。
つくづく建物の耐震性が日本とは段違いであることを実感します。
地震が起きたら机の下?それとも逃げる?
今年(2025年)の3月にミャンマーで起きた地震では、震源から1,000km以上離れたタイの首都バンコクで建設中のビルディングが倒壊し、手抜き工事が疑われ、その後、関係者が逮捕、起訴されているようです。1314
今回のセブやダバオの地震関連のSNSの動画をみても、ビルディングの中でも地震発生後、揺れが続いている状態でも、すぐに屋外に避難する人が多いことに気が付きます。
日本だったら、少なくとも屋外に出られるような震度であれば、揺れが納まるまでは、落下物などの危険もあり、ビルの中にいた方が安全という認識があると思います。
小学校の頃の避難訓練でも、まず机の下に隠れるようにと教えられたような。
しかし、フィリピンでは、鉄筋コンクリート造りの建物のなかで、震度4くらいであっても倒壊の危険がないとは言い切れません。
フィリピンにももちろん建築基準法はあって、耐震構造が求められていますが、手抜き工事がされているかどうかまでは分かりません…。
逃げるか留まるかの判断は難しいところです。
日本のODAに期待
ここでは詳しくは触れませんが、フィリピンでは、1,185億ペソ(約3千億円)ともいわれている(まだまだ増えるかもしれません)洪水対策予算が「幽霊事業」に消えたとされている汚職問題が議会でも追求され、デモが起きるなど揺れています。15
汚職で事業が実施されていないというのは問題外ですが、工事が行われたとしても、治水や耐震といった土木・建設技術は長年の経験と技術向上の積み重ねによって培われてくるもので、一朝一夕に真似できるものではありません。
日本のODAはインフラ整備においても、例えばセブ島ではマルセロ・フェルナン橋(第2マクタン橋)などの事業が評価されています。
最近は海外の途上国へのODAがバラマキであり、「そんな金があるなら減税したり国民のために使え!!」といった論調が見られます。
しかし、ODA予算はピーク時の平成9年度(1997年度)と比べ半減16しているとともに、2024年度予算で見ると無償資金協力は1,562億円で前年比4.4%減の一方、人的支援を中心とする技術協力が3,227億円(前年比-0.2%)、借款が2兆2,824億円(+20.1%)となっています。17
借款というのは、途上国のインフラ整備などに低金利で長期で貸し付ける「有償資金協力」です。低金利といっても、これまで日本のインフレ率や経済成長率は微々たるものでしたから、そんなに悪い話ではないでしょう。
先程のマクタン第2大橋も関連事業を含め約65億円の円借款です。そして、日本企業の鹿島建設などが受注しているのです。18
フィリピンは安全保障上も日本にとって重要な国です19。
私が土木事務所にいた頃は、毎年どんどん予算が減っていって、このままだと、日本の土木業界とともに技術力も衰退の道をたどるなあと感じていました。
2024年度の日本企業による海外工事受注額(海外建設協会(海建協)の会員企業52社)は、前年度比12.6%増の2兆5808億円となり、2年連続で過去最高を更新しました。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた20年度を底に4年連続で受注額を伸ばし、24年度は特に現地政府の自己資金による公共事業の受注が前年度比1.5倍の1兆2209億円と大幅に増えています。20
このように海外進出も進める形で、技術協力も含めてODAを行うかたちであれば、単に「バラマキ」ではなく双方にとってメリトのあるウインウインの関係が築けるのではないかと思います。
フィリピン在住者として期待したいと思います。
2025年セブ島地震の概要
日時
2025年9月30日(火)21時59分43秒(太平洋標準時)(協定世界時13時59分43秒)、
震源地
フィリピン 中部ビサヤ地方のセブ州 ダーアンバンタヤン東海岸沖11km(6.8マイル)
震源の深さは5km(3.1マイル)。(下記の地図を参照のこと)

規模
マグニチュード6.9米国地質調査所(USGS)とフィリピン火山地震研究所(PHIVOLCS)はともに、モーメントマグニチュード 6.9であると報告した。
この地震はセブ島北部で記録された最大の地震であり、 2013年以降で同国で最も多くの死者を出した地震となった。
地震は中部ビサヤ地方全域で感じられたほか、西ビサヤ地方、東ビサヤ地方、ミンダナオ島、南ルソン島(特にビコル地方)の一部でも感じられた。
数千回に及ぶ余震が記録されている。
フィリピン海地震研究所(PHIVOLCS)は、ボゴ市で地表の断層と断層崖を記録し、新たにボゴ湾断層と命名された断層が地震の震源地であることを確認した。
被害
少なくとも70人が死亡、559人が負傷した。
インフラへの被害総額は30億ペソ(6,091万米ドル)にも上る。教会や病院を含む多くの建物や家屋が倒壊し、セブ市など遠方でも被害が発生した。
津波注意報が発令され、広範囲で停電が発生し、土砂崩れによる被害も発生しました。これを受け、ビサヤ諸島の複数の地域で学校が休校となった。
<参考>
「M 6.9 – 10 km E of Bateria, Philippines(フィリピン、バテリアのM 6.9 – 10 km 東)」(USGS)
「2025 Cebu earthquake(2025年セブ地震)」(Wikipedia)
被害状況




脚注)
- 「【安全対策情報】地震発生による注意喚起(9月30日)」(外務省海外安全ホームページ) ↩︎
- 「Magnitude 4.4 earthquake strikes La Union, rattles Baguio, other areas(マグニチュード4.4の地震がラ・ウニオンを襲い、バギオなど他の地域も揺れる)」(ABS CBN 2025.10.09) ↩︎
- 「Magnitude 5.1 earthquake strikes Zambales, nearby provinces(マグニチュード5.1の地震がサンバレス州と近隣州を襲う)」(SunStar 2025.10.12) ↩︎
- 「フィリピン南部沖で2つの強力な地震が発生し、少なくとも7人が死亡(Two powerful quakes strike off southern Philippines, killing at least 7 people)」(AP 2025/10/11) ↩︎
- 「【安全対策情報】地震発生による注意喚起(10月10日夕刻)」(外務省海外安全ホームページ) ↩︎
- 「(再送)【安全対策情報】地震発生による注意喚起(10月10日)」(外務省海外安全ホームページ) ↩︎
- 「14 injured after 5.8 magnitude aftershock jolts Bogo, Cebu(セブ州ボゴでマグニチュード5.8の余震が発生、14人負傷)」(CDN 2025.10.13) ↩︎
- 「平成25年台風第30号」(ウィキペディア) ↩︎
- 「NDRRMC Update SitRep No. 35 re Effects of Magnitude 7.2 Sagbayan, Bohol Earthquake(国家災害リスク軽減管理評議会(NDRRMC)がボホール島マグニチュード 7.2 サグバヤン地震の影響に関する状況報告No. 35を更新)」(reliefweb 2013.11.04) ↩︎
- 「フィリピン:10月15日、ボホール州でマグニチュード7.2の地震が発生。求められる緊急支援」(unicef 2013/10/24) ↩︎
- 「能登半島地震 (2024年)」(ウィキペディア) ↩︎
- 「Cebu quake: Magnitude 5.8 aftershock was expected – Phivolcs(セブ島地震:マグニチュード5.8の余震が予想されていた)」(SDN 2025.10.13) ↩︎
- 「ミャンマー地震 (2025年)」(ウィキペディア) ↩︎
- ユーチューブ動画「不正鉄筋に加え「エレベーターの構造欠陥」も ミャンマー地震で崩壊したタイ・バンコクの高層ビル 中国企業の幹部を逮捕」(TBS NEWS DIG) ↩︎
- 「Flood control projects controversy in the Philippines(フィリピンの洪水対策プロジェクトをめぐる論争)」(Wikipedia) ↩︎
- 「変化する日本の対外援助政策 ―経済支援から戦略的援助の強化へ―」(一般社団法人 平和政策研究所 2023.08.06更新) ↩︎
- 「2024年版開発協力白書 日本の国際協力」(外務省) ↩︎
- 「第 2 マクタン橋(II)及びメトロセブ道路整備事業」(JICA(ジャイカ)独立行政法人 国際協力機構) ↩︎
- 「深化する日本とフィリピンの安全保障協力-近年の日比安保協力の状況と部隊間協力円滑化協定・実施法案-」(参議院常任委員会調査室・特別調査室 2025.04.14) ↩︎
- 「海外建設受注が2年連続過去最高、25年度見通しは米トランプ政権影響も堅調に推移」(日経 XTECH 2025.06.18) ↩︎
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