今回は、投稿動画から、私のおいっ子の様子を撮った「フィリピンの幼稚園のオンライン授業」と、それに関連して、ジェトロ(日本貿易振興機構)の「フィリピン 教育(EdTech)産業調査」を取り上げたいと思います。
フィリピンでは、昨年3月のロックダウン以降、いまも対面授業が禁止されたままです。
世界的にみても、このような対策を一年以上に渡って継続して行われている国は、他にあまり例を見ないのではと思われます。
ただ、日本においても.大学では多くの学校が長期に渡ってオンライン授業を実施しているようです。(1
2021年度は、「昨年度の対面授業が3割だった神奈川大は7割程度へ。慶大は平均5割程度に、早大は7割を目指す」とのこと。ほとんど対面授業を行われなかった大学もあるようです。2)
大学は全国各地から学生が集まるので、帰郷することで感染を広めたり、持ち込んだりする恐れも考えられ、また、不特定多数の学生同士の学校内外での接触も多いと考えられ、何より、危機管理として、「クラスターが発生した場合の報道によるリスクを恐れている」という面も大きいのではないかと思われます。
「感染防止にむとんちゃくな若者が感染拡大の大きな要因となっている」というような論調に及び腰になっているようです。
(コロ禍の当初に、そういった報道により、バッシング状態になった事例から、再開に慎重になったたのかもしれません)
このため、2020年度はオンライン授業が中心となる大学が多かったわけですが、フィリピンの場合は、日本と比べると、ネット環境の悪さや経済的な問題が多くあり、簡単にはいかない状況が生じています。
また、一体いつ、対面授業が再開できるのかという点についても、まったく見通しがたっていません。
1)「コロナ1年の学生生活を振り返る 全国キャンパるオンライン座談会」(毎日新聞 2021/04/05)
2)大学、春から対面授業復活も 激変する環境、学生に支援は?(神奈川新聞カナロコ 2021/0401)
フィリピンの幼稚園のオンライン授業
私と一緒に住んでいる長女の姪っ子は6歳で、義務教育課程の幼稚園生です。
一歳年下の甥っ子は義務教育課程前の幼稚園生で、昨年6月に入園したのですが、一度も学校に登校できていない状況です。(フィリピンの教育制度は、後述のジェトロ(日本貿易振興機構)の調査を御覧ください。)
姉の幼稚園と、弟の幼稚園は違う学校(どちらも公立幼稚園です)で、姉の方はオンライン授業は実施されておらず、自宅学習用の宿題のみで、時々、先生が各家庭を訪問します。このように、学校によっても対応はまちまちのようです。
弟の方は、昨年末くらいからオンライン授業が始まりました。では、その授業風景から。
フィリピンの一般庶民で、パソコンを所有している人はまだまだ少数です。しかしスマホの普及率は比較的高いので、こんな形で、オンライン授業を受けているケースが多いのではないかと思われます。
我が家は一応、ネットはGlobeのランドラインが引いてあるのですが、そうでない家庭は「ペソWi-Fi」といって、フィリピンでは一般的である携帯電話の「ロード」のように、プリペイド方式でネットを利用しています。
- 幼稚園生でオンライン授業というのは、かわいそうですが、しかたがありません。
- 早く、友達(今はまだ一度も会ったことおないのですが)と一緒に学べたらいいのですが。
- 今日は、食育も含めて野菜や果物の名前を覚える授業と、写真にあるように塗り絵をして、図形や色を覚える授業でした。
- 最初と最後は、お祈りをして、「さようなら」と手を振ってお別れします。
動画でもふれましたが、キリスト教が国民の93%を占め、その9割がカトリック教徒というフィリピンでは、授業の最初と最後にお祈りをしますが、それはカトリック方式です。
「守護天使の祈り」というもので、教育現場では、よく用いられる「祈り」のようです。
この「天使」に対する解釈や考え方というのは、カトリックとプロテスタントでは多少異なっているように思われます。
それは、カトリックの聖書とプロテスタントの聖書が異なっている(もう少し正確に言えば、私のカミさんも持っているカトリックの聖書には「第二正典」が含まれており、それらを旧約聖書(正典)の一部として読んでいますが、プロテスタントはそれらを外典、偽典として区別し、聖書(正典)としては読まれません)ことにもよります。
(さらに、カトリックの「第二正典」より範囲の広い、「旧約聖書続編」というものもあります)
「第二正典」には天使に関する記述がいろいろあります。また、本題からそれてしまいました。それはまた、別の機会に。
フィリピン 教育(EdTech)産業 調査から
2020年12月に日本貿易振興会(ジェトロ)の調査が公表されています。「フィリピン 教育(EdTech)産業 調査」
かなり、こまかい内容なのですが、図表が中心で作成されており、とても読みやすくなっています。以下に総論の部分だけ抜粋してご紹介します。
この報告書は、貿易振興を目的とするジェトロの調査ですから、日本の教育産業の企業などがフィリピンに参入する場合の資料として役立つように作成されています。
日本の少子化は、今後しばらく、急激に増加に転じるとは考えにくく、教育産業は飽和状態が続くと思われます。教育関係のデジタルコンテンツなどは、世界に目を向けていくことも必要です。
セブに来て、「KUMON(くもん)」(公文)の教室をいくつも見かけました。デジタルでなくとも、日本の教育メソッドが、世界に受け入れられるかもしれません。
柔道や剣道などの武道や、華道や茶道などの日本特有の文化や芸術などを組み入れたり、カリキュラムを取り入れたジャパニーズスタイルは十分に特色になりえます。(実際に、すでに取り組まれているでしょう)
私は、将来は、「寺子屋(寺子屋という名称は、その名の通り、仏教的要素が強いので、フィリピンではネーミングは考える必要がありますが)を開きたいな」、なんて思っています。
人口及び年齢構成
2020年におけるフィリピンの人口は約1億人で、今後も増加する見通しです。24歳以下の割合が約40%と、人口全体における若者の割合が高いのが特徴です。
一方、日本は2020年の人口は約1億2427万。前年から約50万人減少しています。65歳以上の高齢者数は約3,617万人で、総人口に占める割合は28.7%となり、過去最高の更新が続いています。
- フィリピンの人口ピラミッド(左が2020年、右が2025年の推計)
- 昔の日本のような、きれいなピラミッド型です。
- かといって人口爆発まではいかず、そのスピードは鈍化しています。(中間裕福層などでは子供が少ない家庭も増えています)
日本が2025年問題や2030年問題を迎える5年後、10年後でもまだまだ若い人材が豊富です。
さらに「コロナベイビーブーム」にみられるように、日本のように若い世代が子供を生むことや育てることに消極的という傾向も少なく、今、生まれた子供が大人になるのは約20年後(フィリピンの成人は18歳)ですから、フィリピンで少子・高齢化が問題となるのは、まだ先のことです。
ちなみに、日本の方はどうなっているかというと
- こちらが日本の人口ピラミッド( 「平成27年(2015年)国勢調査(抽出速報集計)」(総務省統計局)から)
今、後期高齢者(75歳)の年齢を迎えようとしている「第一次ベビーブームの団塊世代(1947年(昭和22年)〜1949年(昭和24年)生まれ)」としている世代(72~74歳(グラフの上の山))」を支えている、47~50歳(グラフの下の山)の「第2次ベビーブームの団塊ジュニア世代(1971年(昭和46年)から1974年(昭和49年)に生まれ)」が後期高齢者(75歳)となる25年後(2046年)は、どうなっているのでしょう?
その頃を「2050年問題」ともいいますが、人口ピラミッドは逆三角形になっているのでしょうか?それとも砂時計のような形になっているのでしょうか?(その頃、私はおよそ80歳、生きていれば年金も心配です)
教育に対する支出
「フィリピンの世帯における教育への支出比」は約3%と、低い割合に留まっています。一方、日本は、世帯年収に占める在学費用(子ども全員にかかる費用の合計)の割合が、平均15.9%となっています。1)
※在学費用は学校教育費(授業料、通学費、教科書・教材費など)と家庭教育費(学習塾・家庭教師の月謝、通信教育費、参考書等の購入費、おけいこごとの費用など)
世帯収入が高くなるほど教育への支出額および支出比が高くなる傾向にあり、学校教育とは別に補助教材等を購入・利用できるのも、中間層以上(世帯年収25万ペソ以上)の世帯に限られます。
低所得者層の教育への支出が低い理由としては、政府により補助金が支給されることで各家庭における支出が抑えられていること等もあげられます。
1)教育費が家計に与える影響は?(公益財団法人 生命保険文化センター)出典:日本政策金融公庫/令和2年度「教育費負担の実態調査結果」(2020年10月30日発表)
地域別光ファイバーインターネットの普及状況
情報通信技術省(DICT)による調査によると、光ファイバーインターネットを利用できるバランガイ(市(Cities)と街(Municipalities)を構成する最小の地方自治単位)は平均すると約29%で、多くの地域が50%以下となっています。
マニラ首都圏では、64%、セブ市のある「Region7」は41%と、大きな都市では光ファイバーインターネットが利用可能な自治体が多くなってきていますが、それ以外の地域との格差が生じています。
地域別利用可能なモバイル通信技術
フィリピン全土の約60%の地域において4G通信が利用可能であり、モバイルでは比較的高速なインターネットの利用が可能です。
特に、マニラ首都圏は94%、Region3は80%、Region4A等の地域では72%、で多くの地域で4G通信が利用可能となっています。セブ市のある「Region7」は、4Gが60.6%となっています。
フィリピンと他国における通信スピード比較
フィリピンのインターネットスピードは、日本やASEAN諸国と比較して遅く、ASEAN主要諸国の中では下から2番目です。
ちなみに日本と比べると、固定では日本の105Mbpsに対しフィリピンは26Mbps、モバイルは日本の33Mbpsに対し、フィリピンは17Mbpsとなっています。(2019年12月現在)
通信環境を改善するべく、フィリピン政府は、2017年よりフィリピン情報通信技術省(DICT)を通じて国家ブロードバンド計画を推進しており、フィリピン全土で高速インターネット通信を利用できるよう環境整備を進めています。
※大手財閥メトロ・パシフィック・インベストメンツ系の「PLDT」と、アヤラ傘下の「グローブ・テレコム」に続き、第三の通信会社として地場新興企業ウデンナ・グループと中国国有通信大手の中国電信(チャイナ・テレコム)の合弁会社である「ディト・テレコミュニティー」が8日、携帯電話サービスを開始しています。(「フィリピン、第3の通信会社がサービス開始 中国と合弁」(日本経済新聞 2021/03/08))
世帯におけるインターネット普及率
世帯へのインターネット普及率はフィリピン全体で約16%と低い状況となっています。
フィリピン全体では、約84%の世帯がブロードバンドインターネットを利用できない環境にありますが、マニラ首都圏における普及率は約32%と、フィリピン国内では最も高い普及率となっています。セブ市のある「Region7」は12.7%です。
ブロードバンドが家庭にない場合、スマートフォンなどを所有している場合はモバイル通信を利用しています。
個人におけるインターネット普及率
個人におけるインターネット普及率は世帯のそれと比較すると高く、約37%の個人が「日常的にインターネットを利用」しています。
フィリピンで日常的にインターネットを利用している個人の割合は約37%であり、マニラ首都圏における利用率は約65%と他地域と比較して高くなっています。セブ市のある「Region7」は38.5%です。
(恐らく、働いている人は、勤務先での利用も含まれているのではないでしょうか。モバイルでは、月額のモバイルプランを使っている人は、まだまだそれほど多くはなく、プリペイドの「ペソwi-fi」を利用している方が多いのではないかと思います)
EdTechに関連する政策
フィリピンの教育政策は、中等教育までの基礎教育を「教育省」が、高等教育を「高等教育委員会」が管轄しています。
新学期は6月から始まり、2学期制で6月~10月、10月~翌年3月となっています。
それまで6・4制の10年の義務教育だった教育制度が2013年の法改正により、義務教育が1-6-6制となり、 幼稚園が1年、小学校が6年、そして前期中学校が4年、後期中学校(高校に相当)が2年と大きく変わりました。
日本の義務教育期間は9年ですので4年間長くなっています。(もっとも日本の高等学校進学率は97パーセントを超えており(文部科学省HP)、一方フィリピンでは、未就学児童・生徒の問題が生じているようで、単純に比較はできません)
現在、フィリピンでは、小学校1年のグレード1から、グレード12までというように、「グレードいくつ」という言い方がなされます。
ちなみに、英語学校などは、TESDA(フィリピン労働雇用技術教育技能教育庁)が所管しています。
教育分野への政府支出
教育制度を大きく変えたとともに、フィリピン政府は教育を優先投資分野と位置付けており、国家予算全体における対教育予算比が高くなっています。
2020年度予算では、約6,830億ペソが教育分野に割り当てられ(予算全体の17%)、セクター別では最も多くの金額/割合を占めています。
予算額は2017年度~2020年度において、年平均成長率約2%の割合で上昇しています。
教育分野への政府支出
2020年度国家予算で約54億ペソがデジタル教育に費やされるなど、政府として教育のデジタル化を進めようとしています。
2020年度は、教育省(DepEd)の2019年度残存予算および2020年度予算のうち、合計約84億ペソが新型コロナウイルス対策費として投入されたことから、教育省(DepEd)予算は計画値と比較して縮小しています。
これに伴い、学校の建設、紛争地域に住む学生用教材の作成、奨学金プログラムなどへの予算が縮小されました。
一方、教育省(DepEd)は2020年7月現在、デジタル教育の促進については引き続き積極的に進める意向を示しています。
政府における教育分野の優先事項
フィリピン予算管理省(DBM)は、2020年5月に表した国家予算覚書で、2021年度予算における優先分野として、新型コロナウイルスの蔓延を踏まえ、対面接触を避けた教育を提供できるよう環境整備を行う方針を示しました。
具体的な内容は以下のとおりです。
フレキシブルラーニングの拡大
[インターネットが利用可能な地域においてはオンライン教育を推進し、それ以外の地域では、紙の教材を用いた在宅学習、ラジオやテレビを用いた学習、衛星通信を用いた学習等を推進する]
オンラインまたはオンライン・対面混合による成人教育機会の提供
[大規模公開オンライン講義(MOOC)や、その他教育プログラムを用いた成人教育を推進するとともに、オンラインプラットフォームへの投資を拡大する]
教育省(DepEd)の教材ポータルであるDepEd Commonsの改良等を通じたE-ラーニングプラットフォームの設置
[デジタル教育を促進するために、情報通信技術省(DICT)や教育省(DepEd)を含む複数の省庁で連携して、学習管理システムの開発を加速させる]
EdTech市場規模
2020年におけるフィリピンのEdTech市場規模は102~108億ペソであり、2019年~2025年において、年平均成長率(CAGR)約15~16%の割合で市場規模は拡大すると予想されます。
おわりに
フィリピンの教育について、国際調査で読解力や計算力の低さが指摘されていますが、教育制度改革の成果が出るのには時間がかかります。
また、「ほぼ一年中、日本であれば夏休み期間にあたるような暑さの中で授業を行う」という環境や、児童・生徒数の多さから「教師の数」が足りない、そして、「教師の質の確保」という問題など、さまざまな課題を抱えています。
コロナ禍を期に、オンライン化が進めば、講義形式の授業はオンラインで行い(スキルのある教師による講義で教室で聴くというのでも、教師不足の解決にはなりえます)、アクティビティやディッスカッションなどを対面式で行うというように、今後、授業方法も工夫がされていくのではないでしょうか。
これは、日本の「学校法人角川ドワンゴ学園 N高等学校・S高等学校」のようにオンラインを利用した次世代の教育環境と通じ、フィリピンも今後、急速に追いついていく可能性も秘めています。
海外旅行がまだそれほど一般的でない頃に、「中国は偽札が多く旅行客は注意しなさい」といわれた時代がありました。
しかし、いつの間にか、中国では屋台でさえ電子マネーが使えるようになり、一方、日本は「未だにwi-fiもろくに使えないし、現金しか使えない」と、外国人観光客に言われてしまうようになってしまいました。
教育でも世界大学ランキング2021では、中国の清華大学がアジアの大学としては初めてトップ20入りし、トップ100には中国の6校に対し、日本は韓国と並んで2校となっています。1)(このランキングが絶対ではありません、あくまで参考程度として)
リープフロッグ現象(既存の社会インフラが整備されていない新興国において、新しいサービス等が先進国が歩んできた技術進展を飛び越えて一気に広まること)はすでに実例があります。
日本には「米百俵」の精神というすばらしい故事がありますが、「教育こそ国力の要」です。
私自身、特別支援学校(以前の養護学校)や高校、大学の職員として教育現場を近くに見てきて、関心がありますし、フィリピンで暮らす者として、フィリピン政府の教育を重視している方針及び政策は間違っていないと思います。
これからも、見守っていくとともに、今後、草の根でできることをしていけたらと思っています。
1)「【THE世界大学ランキング2021】米国37、英国11、豪中各6、日本2大学…トップ100大学」(Globaledu 2020/09/08 最終2021/01/30)
※動画については、ヴィジェット欄に過去動画のリンクを貼っていますので、よろしくお願いします。