まだ少し頭痛が残っているなかですが、ちょっと真面目な話題です。
ネットで法務省のHPで海外進出企業や在住邦人の抱える法的問題を法律の専門家つまり弁護士による支援の方策について調査研究が報告されています。法務省の調査研究というとまじめで堅苦しそうですが内容は非常に実務的で生活にも密着した内容でアンケートの回答などはリアルな実体験が述べられていたりしてとても参考になります。
シンガポール、タイ、インドネシアそしてフィリピンそれぞれの国について報告書が作成されています。フィリピンは平成27年度と平成28年度の二回にわたって報告書がまとめられているので、すでにご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、私は最近知ったのでまだご存じない方のためにご紹介します。
また、私はフィリピン以外の国の事情は知らないのですがこれらの他国と比較するとフィリピンでの生活やビジネスでの問題点の特色が分かって面白いです。その報告書の名称は
法曹有資格者による日本企業及び邦人の支援の方 策等を検討するための調査研究 (フィリピン共和国)
内容はボリュームもあるので今回は簡単に内容を紹介するにとどめたいと思います。詳しくは法務省HPをご覧ください。
この報告書では冒頭で趣旨について『近年,東南アジア諸国に進出する日本企業や邦人が増加していますが,東南アジア諸国における法の運用の実態については,我が国において情報が必ずしも十分ではありません。法務省では,日本企業の海外展開を法的な側面から支援するための調査研究を法曹有資格者に委託して行っており,その調査結果を掲載しています。』と述べられています。
また、『フィリピンは、英語が法定公用語であり、理想的な人口ピ ラミッドと人口ボーナスに下支えされた堅調な経済発展、投資優遇制度の存在、平均 年齢が低く安価な労働力、日本からの距離の近さ等も手伝って、投資先としての注目 度が高まっている』とあります。
一方『フィリピンは発展途上国としての側 面も未だ強く残っており、司法・行政の不透明さがあることは否めない。文化や習慣 の違いも手伝い、日系企業及び在留邦人の中には、フィリピンでは法治が機能してい ないと感じる者も決して少なくない』とされています。まったく同感です。
内容について私自身感心があったり今後考えていこうというポイントをざっとあげると
- 現在は非常に親日的である
- 在留邦人、企業とも堅調に増加している
- 邦人援護件数の多い在外公館ランキング上位の 常連である
- 汚職、不正
- 制度運用の予測不可能性(突然かつ頻繁に制度が変わる)
- 役所事務の遅延、不正確等の不安定さ
- 担当者により対応が違う属人的行政運用
- コネクション偏重傾向による影響
- 犯罪被害、被告となるリスク(特に労務関係)
- 労働力のみの請負は 禁止され、日本のような派遣労働制度は認められていない
- 大統領選挙(政権交代)による影響
- 外資規制違反
- 労務問題、Endo
- 日本人とのトラブル
- 賃貸トラブル
などなどです。
この報告書はなかなか自分では調べるのが難しいフィリピンの司法制度や会社法、外資規制、ビジネスに関わらず生活における法律問題などの解説もされており、フィリピンビジネスに興味のある方、駐在予定の方、ビジネスはしないけれどもロングステイに興味をある方にも参考になる情報がたくさんあり一読されることをお勧めします。
内容は実際にセブで暮らしビジネスを始めて共感できるものが多いです。
・『憲法をは じめとする法律、規則類や政府により出される通達や公示、ビジネスにおける契 約書やマニュアル等は基本的に全て英語である。日常会話に支障が無いレベ ルの英語を解する人材は豊富であっても、行政文書や契約のような高度な英語を 解することができるのは高等教育を受けた者に限られる。』
・『汚職がはびこっていることは、深刻な問題である。ただ、その根底には、上記 のような社会的な格差や制度的な事情に加え、圧倒的な経済格差と貧困の問題が あることを認識すべきである。これらは、日本法弁護士が入っていったところで 根本的に解決できるというものではないことは明らかである。だからといって、 綺麗事を並べて、その通りに動かないことを嘆いて非難しても何ら問題は解決し ないし、現実に流されるままに不正な手続に手を染めることも許されるものでは ない(そうであれば、現状と何も変わらない)。』
内容は結構ボリュームがありますがとりあえず平成28年度報告書のの最後の方のページのアンケートだけでも見ておくと大体のフィリピンでの生活やビジネスにおけるトラブルがイメージできるかと思います。とくに『9 フィリピンで一番困った出来事を具体的に教えてください』を読むだけでもフィリピンでの生活は日本とは全然異なる問題で苦労することが分かります。ましてはビジネスともなればなおさらです。
「あるある」だらけのアンケート
別紙で意識調査結果集がまとめられています。
2商工会議所会員企業アンケート、セミナー受講企業アンケート、会計事務所コンサルティングアンケートなどがあり、続いて在留邦人アンケートが記載されていますが、すべてリアルで興味深い内容です。
アンケートの主な項目は
- Q.7 フィリピン生活でストレスを感じる事項
- Q.9 フィリピンで一番困った出来事を具体的に教えてください(①トラブ ルの内容、②相談先、③対応方法、④弁護士の必要性)
- Q.10 フィリピンで、日本人同士のトラブルを経験したことがある人は、 差し支えのない範囲で具体的に教えてください
- Q.12 メイドやドライバーとのトラブルが生じたことがある方は具体的に 教えてください(①トラブルの内容、②相談先、③対応方法、④弁護 士の必要性
- Q.14 フィリピンでトラブルに巻き込まれない工夫をしている人は、工夫 の内容を教えてください
- Q.18 実際に裁判を起こした方は、差し支えない範囲で具体的に教えてく ださい(①トラブルの内容、②相談先、③解決方法、④弁護士対応)
- Q.19 裁判したいと思ったにもかかわらず、裁判を起こさなかった方は、 ①トラブルの内容、②相談先及び③裁判を起こさなかった理由を教え てください
- Q.21日本の弁護士のサポートの必要性を感じた経験
- Q.21-2 「はい」と答えた方は、日本の弁護士の必要性を感じたエピソード を具体的に教えてください
- Q.29 政権交代により困った出来事があれば教えてください
- Q.30 政権交代により生じたよい出来事があれば教えてください
- Q.31 フィリピン社会の腐敗を感じた経験がある方は、具体的に教えてく ださい
などです。
桃尾・松尾・難波法律事務所
実は私がセブでビジネスを始める前、あるビジネスセミナーで今回の27年報告書にも記載のあるこちらの事務所の弁護士さんによる講習を受けたことがあります。内容は労務管理で、「フィリピンは労働者保護の法律はしっかりしたものがあり訴えられると非常に面倒なことになる。むやみに解雇できない。しっかり記録を残すことが必要で、外国人にとって厳しい出国できなくなる措置が取られる場合もあるので注意が必要」というような内容だったと記憶しています。
周りを見るとフィリピンに労働法とかあるのだろうかと感じることも多いのですが、そこでいい加減でいいんだという気持ちでいると、地雷を踏んで大変面倒なことになってしまいます。十分に気を付けなければなりません。
それでもセブに住みたい
と、紹介しておいてなんですが、この報告書を読むとなんだかこんな国に住むのは大変とか、ビジネスなんて無理とネガティブな気分になってきそうです。将来的にセブでの宿泊サービス、観光や短期滞在、ロングステイのサポートをやろうとしているのに不安がらせてしまうかもしれません。しかし、問題点を隠しても仕方ありませんし、それらの問題点を踏まえて対策したうえでセブで安心して楽しく暮らせたらと思います。
このアンケートの回答者はほとんどがメトロマニラ在住者です。また、5年未満の駐在職員が多くを占めています。セブのような田舎にはすべてがそのまま当てはまるものではありません。そもそもこの調査及びアンケートは基本的には問題点を挙げるものですのでネガティブな意見に偏るのは当然です。
それでもこのアンケートの中で『Q.6 フィリピン生活の快適さ』で「とても快適32%」「少し快適59パーセント」「余り快適でない8%」「全く快適でない1%」というのは意外に快適に思っている人が多いという印象です。回答者に駐在員の方が多く、メイドを雇っている人も多いので日本より豊かな生活と感じる方が多いのかもしれません。
フィリピンはまだまだ色々な面で発展の途上にあります。そこがまた日本では味わえないおもしろさでもあります。もちろん犯罪などには巻き込まれないように細心の注意が必要です。日本にはないいい面などもあります。今後、沢山紹介していきたいと思っています。
では再び毎日更新を目指して体調を整えたいと思います。皆様も風邪にお気を付けください。