「怒り」「沈黙 -サイレンス-」「チャンネルはそのまま!」
以前お話したように「Netflix(ネットフリックス)」は配信を行っている国によって作品が異なっています。例えばフィリピンでは『風の谷のナウシカ』などのジブリ作品を観ることができます。一方で海外作品はとんど日本語字幕がついていません。(「Netflix」オリジナル作品はほぼすべてついています。)
そこで私はVPNというものを利用して両方の作品を見られるようにしています。(「セブでNetflixの1ヵ月無料体験登録してみました」参照)
また、スマホなどモバイルのみで、すべての作品ではありませんがダウンロードすることができます。ですから、家でダウンロードして外出先で視聴することやフィリピンのようにネット環境が良くない環境でも深夜にダウンロードして翌日に観るといったこともできます。
また洋画を観ることは英語の勉強にもなりますが、パソコンのブラウザ「google chrome」の「Netflix 同時字幕で英語学習」(月額97円)という拡張機能を使うと、同時字幕で観ることがきる(元の作品に英語と日本語字幕がついている場合)ほか、英語勉強のためのいろな機能がついています。(パソコンのみの機能でスマホなどでは利用できません)
今回は日本のネットフリックスで観られるおすすめの3本をご紹介します。
『怒り』
- 写真は公式サイトの東宝WEB SITE から
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作品概要
2016年9月17日公開
監督 李相日(「フラガール」「悪人」ほか)
出演 渡辺謙、森本未来、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、宮崎あおい、妻夫木聡ほか
原作 吉田 修一
【PG12(12歳未満の年少者の観覧には、親又は保護者の助言・指導が必要)指定作品】
「犯人未逮捕の殺人事件から1年後、千葉、東京、沖縄という3つの場所に、それぞれ前歴不詳の男が現れた。サスペンス。未成年者の飲酒及び簡潔な性愛描写などがみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。(2時間21分)」(映倫「指定理由」から)
みどころ
そうそうたる役者が揃っています。オールスターキャスト的な作品はあきらかに「名前に頼っているな」という作品もありますが、この作品は内容もしっかりしています。
3人の身元がはっきりしない若者を軸として、それぞれのストーリーが展開されています。個々のエピソードのボリュームもあり、場面転換が多く、その点での好みは分かれるかもしれません。私は群像劇が好きなのでこういったタイプの作品は好みです。
中盤辺りから犯人が誰かという謎を深める描写で(多少前のめり気味の演出で)サスペンスとして盛り上がるのですが、犯人が誰かというよりも、身元の不確かな若者3人と彼らと関係する人たちが、それぞれの事情を抱えながら生きていく人間ドラマが丁寧に描かれている作品となっています。
原作は「リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件」にインスピレーションを得たとのことです。
2007年(平成19年)に千葉県市川市で英国人女性英会話講師が殺害され、当時大変大きなニュースになりました。
「事件当日、被害者と同居していた女性からの情報により容疑者を職務質問するなど確実に捕らえられるはずの機会が2度もありながら取り逃がす」という失態が報道され、警察による汚名返上をかけた必死の捜査にもかかわらずなかなか犯人逮捕にはつながりませんでした。
当時私のいたセクションにも警察が指名手配のポスターを持って来て、管内の巡回の際など「気がついたことがあれば情報提供してほしい」と協力依頼があったことを覚えています。
事件発生から2009年11月に市原容疑者が逮捕されるまで、2年7か月に渡り全国指名手配され、最終的には1,000万円の懸賞金もかけられ、目撃情報が続々寄せられましたが、その多くは別人に関するものでした。市橋達也は整形を重ねながら逃げ延びていたのです。
日常生活の身の回りで犯人と疑われた人が大勢いたことになります。
協力者がいるのではないかとか、すでに自殺しているのではないかとか、さまざまな憶測をよびましたが、整形外科医の情報提供が転機となり、より正確な情報が寄せられ犯人逮捕につながります。
その有力情報を提供した彼を2ヶ月ほど雇用していた建設会社はバッシングを受けたとのこと。今だったらもっと激しかったでしょう。
この作品はいろいろな角度から見ることができますが、親子関係や性的マイノリティーや沖縄の人々らが抱える現代社会の問題などを背景として、登場人物がそれぞれの事情を抱え生きていくなかでの「人を信じることの難しさ」を考えさせられます。
観終わった後に後味の悪さだけが残ったり、途中までは盛り上がるのにラストでがっかりする映画も多くあるのですが、この作品は途中観ていて辛くなるシーンもありますが、深く余韻の残る作品となっています。
沈黙-サイレンス-
作品概要
- 写真は公式サイトから
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この作品は日本が舞台ですがアメリカ映画です。
公開 2016年(日本は2017年)
原作 遠藤周作
監督 マーティン・スコセッシ (『タクシードライバー』、『レイジング・ブル』、『ハスラー2』、『ディパーテッド』、『シャッターアイランド』ほか)
出演 アンドリュー・ガーフィールド(『ソーシャル・ネットワーク』ほか)、リーアム・ニーソン(『シンドラーのリスト』ほか)、アダム・ドライヴァー(『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のカイロ・レン役ほか)、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシほか。
リーアム・ニーソンは作品にハズレの少ない名優です。30年以上前、二十歳の頃に映画館で観た『ミッション』(1987年公開)にも宣教師役で出演しています。(この作品は、18世紀、スペイン植民地下の現在の南米奥地を舞台に、先住民へのキリスト教布教に従事するイエズス会宣教師たちの苦悩や苦闘する姿が描かれており、カンヌ国際映画祭のパルム・ドールも受賞しています。)
PG12(12歳未満の年少者の観覧には、親又は保護者の助言・指導が必要)指定作品
「江戸初期の日本におけるキリシタン弾圧を、ポルトガル人宣教師の目を通して描く。ドラマ。簡潔な数々の処刑の描写がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。(2時間41分)」(映倫「指定理由」から)
あらすじ
「17世紀、江戸初期。幕府による激しいキリシタン弾圧下の長崎。日本で捕らえられ棄教 (信仰を捨てる事)したとされる高名な宣教師フェレイラを追い、弟子のロドリゴとガルペは 日本人キチジローの手引きでマカオから長崎へと潜入する。
日本にたどりついた彼らは想像を絶する光景に驚愕しつつも、その中で弾圧を逃れた“隠れキリシタン”と呼ばれる日本人らと出会う。それも束の間、幕府の取締りは厳しさを増し、キチジローの裏切りにより遂にロドリゴらも囚われの身に。頑ななロドリゴに対し、長崎奉行の 井上筑後守は「お前のせいでキリシタンどもが苦しむのだ」と棄教を迫る。そして次々と犠牲になる人々―
守るべきは大いなる信念か、目の前の弱々しい命か。心に迷いが生じた事でわかった、強いと疑わなかった自分自身の弱さ。追い詰められた彼の決断とは―」(公式ホームページから)
みどころ
この作品は興行的には大失敗(大赤字)だったそうです。上映時間は長く、山場となるシーンを盛り上げるための音楽も全く流れません。宗教・信仰を題材としており、殉教、棄教といった内容を考えると無理もありません。
同じく日本を舞台にしている『ラストサムライ』のようなフィクションとして楽しめる娯楽作品(これはこれでツッコミどころはあるものの楽しめましたが)とは対照的で、リアリティを感じさせる重厚で静かな見ごたえのある作品となっています。
完成までの間に製作サイドからの興行的な懸念があったのではないかと思うのですが、完成させた監督の執念が感じられる作品です。
潜伏キリシタンと信仰
この作品の舞台であるトモギ村のモデルとなった長崎市外海(そとめ)地区や五島などは、2018年に世界遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の一部です。
(この「潜伏キリシタン」という名称ですが、私の世代ですと日本史の授業で「隠れキリシタン」と習いました。しかし今は「かくれキリシタン」は「明治時代に禁教が解かれた後にもカトリックに復帰せず従前の信仰をつづける人」を指す言葉でもあることから、世界遺産登録にあたっては「禁教の時代に信仰を守り続けた人々」に限定する「潜伏キリシタン」という呼称が使われています。)
1614年(慶長19年)の全面禁教以降1873年(明治6年)にキリシタン禁制が廃止されるまで、250年以上に渡り「潜伏キリシタン」の信仰は続きました。
世界遺産登録の際にあたって「潜伏キリシタンは、一見すると日本の在来宗教のように映るが、キリスト教のエッセンスを維持した独特な宗教的伝統を生み、その後 2 世紀にわたって信仰を維持し禁教を生き抜いた」と述べられています。
つまり、密かに信仰を維持するために、様々な形態で他の宗教と共生を行い独自の信仰形態を形成していたということです。
1587年の豊臣秀吉の「バテレン追放令」に始まる禁教政策は当初から強力な弾圧であったわけではありません。
「日本にキリスト教は根付くのか?」という問いも作中で取り上げられていますが、キリシタン大名もいた戦国時代の信者数は40万人とも50万人ともいわれているそうです。(「キリスト教ハンドブック」から)
最近の推計では1600年頃の全国の人口は1,400万人から1,940万人(ウィキペディアから)とのことですから、在来の仏教等が危機感を持つくらい急激に信徒が増えていたことは間違いありません。
そして、当時、世界を二分することで合意し植民地支配を進めたカトリック教国のスペインとポルトガルは植民地支配と布教を合わせて進めており、秀吉や江戸幕府が南蛮貿易を行いたい一方で、キリスト教に対して警戒心を抱いていことは確かです。
結局、幕府はオランダと敵対するスペインやポルトガルを排除し、「自分たちは貿易のみを行い領土拡大や布教の意図はない」という姿勢を示したプロテスタントの国であるオランダとのみ交易を続けることになります。
こういった歴史の背景を知るには正戦論や聖戦論、聖絶などキリスト教倫理や教義の理解も必要かもしれません。
神の沈黙
ロドリコは「主よあなたはなぜ黙ったままなのですか?」と神に問いかけます。(公式ホームページ予告編)
しかし、この作品は「神が沈黙していることを描いた作品」ではない。つまり「神は沈黙されているのではない」ということは原作者である遠藤周作が述べています。それが「どういうことなの」かがこの作品の大きな主題となっています。
ところが「宣教師の棄教」という題材もあってか、原作の出版時はカトリック教会などからの批判があったそうです。(殉教は名誉なこととされ、棄教はもってのほかですから、当然といえば当然かもしれません)
それを受け遠藤周作は後の自書で「彼等が転んだ(棄教を示すこと)あとも、ひたすら歪んだ指をあわせ、言葉にならぬ祈りを唱えたとすれば、私の頬にも泪が流れるのである」と記したとのこと。
フェレイラ、ロドリゴ、ガルペ、キチジローそして潜伏キリシタンの村人たち、彼らに対し神は何を思っておられるのか?
ネットでは公開当時の多くのレビューがあげられています。「人間の弱さと信仰」「救い」「信仰と行為」とは?など人にとって異なる捉え方があるであろう、コントラバーシャルなテーマ性をもった作品です。
チャンネルはそのまま!
最後は、うってかわって、明るくコミカルなテレビドラマです。
- 公式サイト https://www.htb.co.jp/channel/
- 写真は公式サイトから
作品概要
2019年日本民間放送連盟賞の番組部門テレビドラマ番組最優秀賞を受賞し、後日、2019年日本民間放送連盟賞のテレビ部門全体においてグランプリも受賞した。同賞でドラマがグランプリを受賞するのはこの作品が史上初。
制作年月日 2018年6月25日、北海道テレビ放送(HTB)の開局50周年記念作品(テレビドラマ)
総監督 本広克行
主演 芳根京子、飯島寛騎、TEAM NACSの 安田顕、大泉洋、 森崎博之 、音尾琢真、戸次重幸ほか
あらすじ
札幌にあるローカルテレビ局の新人記者・雪丸花子(芳根京子)は入社以来、失敗続き。同期のアナウンサーのデビュー戦では、花子がニュース原稿を書き上げたのは放送開始ギリギリで、しかも信じられないほどの誤字だらけ。危うく悲惨な放送事故を起こすところだった。
同期の報道記者・ 山根一(飯島寛騎)も、毎度毎度の花子のおもり役にうんざり顔だ。そんな雪丸花子は、このテレビ局(HHTV北海道★テレビ)に謎の「バカ枠」で採用されたという。一体「バカ枠」とはなんなのか?
トラブルメーカーの花子だが、不思議と彼女の周りにはスクープがあり、感動が生まれる。花子の一言で気象予報士は開眼し、花子の行く先に逃走中の放火の容疑者が現れたりする。マスコミに距離を置くカリスマ農業技術者 (大泉 洋)やライバル局(安田 顕)でさえ、いつの間にか花子の旋風に巻き込まれてしまうのだった。(公式ホームページから)
みどころ
本広監督作品である「踊る大捜査線」もところどころにユーモアを交え、かつシリアスなシーンも印象的でメリハリがあって好きでした。
この作品もちょっとむちゃくちゃな若者が体当たりで頑張っている姿は共通している点があります。
また情報部長役の藤村忠寿さんは大泉洋さんが全国区で知られるようになったきっかけでもある『水曜どうでしょう』(知られているベトナム編もネットフリックスで観られます)のチーフディレクター。
同じくディレクターだった嬉野雅道さんとのユーチューブチャンネルの『藤やんうれしーの水曜どうでそうTV』では『水曜どうでしょう』についてひろゆき氏との対談していますが、この作品の舞台となるテレビ局そのままの「なんかだか自由で楽しそう」という雰囲気がにじみ出ています。HTB(北海道テレビ放送)の社風なのでしょうか。
「若いうちは失敗してもいいし、むしろ沢山あった方が良い」とはよく言われます。でも、現実では失敗が許されないピリピリとした雰囲気に満ち満ちている職場も多いのではないでしょか。
でもそれは当然のこと、スタッフの失敗によって、会社が大ダメージ受けることもありえます。
一方、そういった致命的なミスの確率はかなり低く、ほとんどが許容され、むしろ良い方向に導く可能性もあります。
このバランスは難しいですね。
そしてこの作品ではチームワークが描かれています。チームワークというのは便利な用語でパワハラ上司であっても協調性のない者でも使う言葉で「お前が言うな」とツッコミを入れたくなることもありますが…
ドラマでは「互いの尊重」が失敗したときのフォローや新しいアイデアに繋がっていく、そしてそれは相手をよく見ることによる「気付き」といったことから生まれるということも描かれています。
この作品を見終わって、ふと昔読んだ漫画の「なぜか笑介」(1982年から1991年まで小学館の『ビッグコミックスピリッツ』に連載)を思い出しました。「三流私大出の主人公大原笑介(しょうすけ)が一流商社である五井物産食品部食品3課に入社し、様々な失敗を繰り返しながらも次第に成長していく姿を描いた作品」(ウィキペディア)です。
結局アニメ化もドラマ化もされなかったようで、ネットでもレビューも全く見当たらなかったのですが、本作品の主人公のように失敗やドジを踏みながら頑張っていてとても面白かったなあ。
とにかく笑えて楽しめて主人公を応援したくなる作品です。
おわりに
先日また別の土地を見に行きました。タクシービジネスにも進展がありました。その話は別の機会に。11月までもう少しです。ニューノーマルになるだろうか?待ち遠しい。