はじめに
長年勤めた公務員を46歳で早期退職し、2014年に初めてフィリピン セブの地に足を踏み入れてから、早いもので、今年で丸9年になろうとしています。
そこで、今まで投稿した「9年間の振り返り」を、整理したうえ、再投稿いたします。
今回のブログは2017年12月5日の投稿(※1)と2017年12月7日(※2)、2020年2月14日の投稿(※3)の該当部分をまとめたものです。
(※1)現タイトル「『FREETEL』のプラスワン・マーケティングが民事再生申し立て」:旧タイトル「セブで始めたタクシービジネスについて」
(※2)現タイトル「セブでビジネスやるなら不動産関係?」:旧タイトル「セブで始めたタクシービジネスについてーその2」
(※3)現タイトル「フィリピン(スモール)ビジネスで思うこと」:旧タイトル「タクシービジネスを始めてみたら【セブの5年間を振り返る6(最終回)】」
新体制での再スタート(2017年)
ビジネスパートナーの失踪
ジョリーとルイーズがギブアップするという話があったときは、まさかその後に失踪するなどとは思いもよりません・・・。
ちょうど役所から会社設立の認可が降りた時期で、さらに台数を増やそうとしており、新車の準備やタクシービジネスのハンドリングであたふたしているときに、失踪した二人と連絡を取るため、共通の友人に協力を仰いだり、残された帳簿の再計算や確認などの対応に追われるのでした。
この問題は、前回お話したように、何とか解決に向かい、現在も使途不明金の支払いが分割で続いています。
メンテナンスをどうするか?
メカニックも辞めてしまったことから、とりあえずの課題はメンテナンスをどうするかです。
新車に関しては、まだそれほど故障は起きていないのは幸いでした。
オンボロ・ビオスの修理を近所のフリーのメカニックに頼んだのですが、工賃だけで5,000ペソ以上要求されたりと試行錯誤です。
今は修理屋に頼んでいますが、簡単な修理の工賃は300~500ペソ、時間のかかる作業でもそんなに請求されたことはありません。
メンテナンスを任せられるパートナー
そんなおり、会社設立で世話になっている弁護士から、「車に詳しい友人がいて、仕事を探している人物がいるので採用しないか」という話が・・・。
それが、従業員というより、3人目のビジネスパートナーとして今に至るまで力になってくれているデゥサールです、
彼の義理のお父さんはデベロッパーの会社を経営していて、将来的にアパートやゲストハウスなどのビジネスを始める際には、手伝ってもらえたらと思っています。
彼自身、不動産販売の仕事もしていて、私のユーチューブでも物件を紹介した動画があるので、よろしければ、御覧ください。
ビジネスパートナー選びで大事なこと
2人のビジネスパートナーを通じて、ビジネスパートナーは、バックグラウンドが大事だと感じます。
外国人単独でビジネスを行うことが難しいフィリピンでは、仲良くなったフィリピン人から美味しい話を持ちかけられて、騙されたというような話も聞きます。
家族や親戚、友人関係を広く知っておくことが必要です。
さて、デュサールですが、現在は15台まで増えた車両の修理記録もちゃんとつけて把握してくれ、単に修理をするだけのメカニックを雇うより、車両メンテナンスについては安心できます。
将来的には自前のリペアショップを経営できたらいいのですが、それはまだ先の話・・・
こうして、マネジメントはカミさん、メンテナンスはデュサールという、現在と同じ新体制となったのでした。
実際にやってみてタクシービジネスはリスキー?
何事も「想像と実際にやってみるのとでは大違い」と思ったことはないでしょうか?
ネットでは、フィリピンに関する質問に対し、どう考えても、「実際に経験しておらず、想像だけで言ってるな」と思える、あきらかにトンチンカンな答えが見られることがあります。
また、限られた自分の経験を、それを全てのことに当てはまるかのように述べている例も見られます。
もっとも、現代社会においては、ネットや世の中に溢れるさまざまな情報を、適切に活用できる基礎能力である「情報リテラシー」が必要とされており、氾濫する誤った情報(フェイク)のなかから正しい情報を得るということは、受け手の問題でもあるかもしれません。
さて、タクシービジネスを始めた頃、今だったらネットで調べたり問いかけたかもしれませんが、当時はそんな情報収集能力はなく、口コミで意見を聞いたのでした。
概ねネガティブなものが多く、様々なリスクを指摘されました。
ビジネスを始めるにあたって、懸念された主なものについて、実際はどうだったかをあげてみます。
ドライバーの運転技術が低く事故が多いのでは?
日本だとタクシーを運転するためには普通二種免許が必要で、「第一種運転免許を受けて、運転経歴が(停止期間を除いて)3年以上経過していること」という条件があります。
学科試験の合格率は約54%、実技は普通一種免許と同様に教習所でも取得できますが、試験場での一発試験の合格率は10%以下といわれるほど厳しいものです。(※1)
当時、フィリピンでは、一般の運転免許を取得するにあたり実技試験はなく、筆記試験も制度上はありましたが実質的には無いようなものでした。(※2)
タクシー運転手になる場合は、プロフェショナルライセンスが必要なのですが、「プロフェッショナル」という名前に騙されてはいけません。
ジョンの弟が免許を取ったときは、何と、学科試験も実技試験もない普通免許取得と同時にプロフェッショナルライセンスを取得できてしまいました(2015年当時)。
仮免許にあたるスチューデントライセンス(教習所の実技練習や試験、筆記試験もなく申請すればもらえる)を取得して、「プロフェッショナルライセンス」を持っているジョンにちゃちゃっと運転を習って申請し、簡単な面接を受けて取れたのでした。
これで、もうタクシーを運転できるのです。
つまり、プロフェッショナルライセンスがあるからといって、運転技術があるとは限りません。
前回お話した大事故で、不安は的中してしまいます。
その事故のきっかけがバイクの飛び出しだったように、フィリピンではとにかくバイクがらみの事故が多くあります。
以降、定期的に安全運転の徹底をミーティングで話すなどし、安全に対する意識を高めるよう努めてきました。
幸いにして、それ以降は、当方の過失による人身事故は1件もなく、今に至っていますが、今後も気を緩めることなく、続けていきたいと思っています。
※1)「タクシー運転手に必要な二種免許取得は難しい?費用・合格率を徹底解説」(バイトルマガジン BOMS 2023/11/23)
※2)現在は、運転免許取得の条件が厳しくなってきており、普通免許の取得にあたり、ドライビングスクールでの運転講習の受講や筆記テストが必須になってきたようです。
ドライバーが車を盗んだり、装備品を勝手に交換したりしない?
「車両がまるごと盗まれる」「新品のバッテリーが入れ替えられる」なんて話も聞いたのですが、このような問題は起きていません。
バッテリーや主要部品は、おおまかな交換期間が把握できます。また、保証期間内に切れる場合もあるのですが、当然、保証書と現物で確認します。
その他の部品もすべて、デゥサールが修理記録をつけているので不自然な故障があれば分かります。
車体とエンジンに関しては、タクシーの共用開始時に、車体に刻印されている番号を役所が記録・登録しており、盗難などされた場合は確認できるようになっています。
また、現在は全車両にGPSがつけられており、犯人が取り外さない限りは車両を追跡できます。
フィリピンでは犯罪歴証明書の提出を求められることも多く、捕まれば一生を台無しにするリスクを負うことになります。
少なくとも、プロフェッショナルドライバーライセンスを得ていて、普通に働いているドライバーは、働き口に困ることもない状況ですから、わざわざ犯罪を犯して捕まるようなリスクを負う行為をするケースは稀かと思います。
とはいっても元オーナーの経験談を聞くと、そのような実態はないわけではなく、日本でも従業員の犯罪はあります。
少なくとも、オペレーターとしては、「しっかり管理している」ということをことを示すことが大事です。
売り上げをごまかしたりされない?収入は確保できるの?
日本でも飲食店などで従業員が売上をごまかすといったことがあるようです。(※)
日本では、(個人タクシーでない)タクシードライバーは、一般的には通常基本給プラス歩合制ですが。フィリピン(セブ)の場合、従業員として雇用するケースはほとんどありません。
売上げを正確に把握することが困難ということもあり、ドライバーに車両を貸して使用料を得るというレンタカーシステムが主流です。
(役所では将来的にはドライバーの雇用制度を進めたいようで、バスでは基本給を導入しているケースもあるようです)
ですから、ドライバーは売り上げが大きければ、その分自分の稼ぎが多くなります。ドライバーの技量には結構違いがあるという印象です。
タクシーの使用料はバウンダリー(Boundary)と呼ばれます。
コロナのときは、バウンダリーが払えないというケースも生じました。
それはやむを得ませんが、普段でも「今日は客が少なかった」などと言って払わないというケースもあり、解雇したという他のオーナーの話も聞きます。
幸い、うちでは、大きなトラブルはありませんでした。
突然辞めたり休んだりしない?
人材の流動性が大きいフィリピン
以前、友人の従姉妹がフランチャイズチェーン店のハンバーガーショップを始めたということで食べに行ったことがあります。
24時間営業で、1,2名くらいのスタッフで回しているの小さな店なのですが、一人が突然辞めて他の従業員も急に休んでしまい、「オーナー自ら連続48時間働いている」とのことで、切った表情で話してくれました。
日本だと、バイトでも辞めたいと思っても簡単に辞められず、退職代行サービスなんていうビジネスが成立するようですが、フィリピンだとありえないと思います。
突然辞めるということは当たり前で、経営者を悩ませる問題のひとつだと思います。
日本と異なり、若い人材が多く、基本的には(会社に有利な)買い手市場だと思うのですが、人材の流動性はとても大きく、優秀な人材や真っ当な人材を確保することが大きな課題となっています。
タクシーとTNVS
タクシーの場合、近年の運輸ネットワーク車両サービス(TNVS)のグラブ(Grab)などの参入が大きな影響があります。
ユーチューバーの「アキラ先輩」がマニラでタクシービジネスをやめた理由として「ドライバーがみつからない」ことをあげていました。(※)
セブでもコロナ以降、ドライバーが辞めたあと、しばらく補充ができないなど、ドライバー不足を感じています。
ビジネススタート初期からのドライバーは一人も残っていません。
良いドライバーにはなるべく残ってもらうよう対応しているつもりですが、それでも、後述するように辞めてしまうドライバーも多いのが実情です。
※「【告白】僕はフィリピンでタクシー会社を潰しました。アキラ先輩フィリピン」
バッドドライバー
タクシービジネスがうまくいくか否かはドライバーにかかっています。
最初の頃、役所の前で自ら売り込みをしてきたドライバーを雇ったことがあります。
ところが、数ヶ月もしないうちに、役所から「お宅のドライバーがホテルの外国人観光客に不当な料金を請求したらしい」という連絡がありました。客から聞いたホテルの従業員が通報したようでした。
外国人観光客はすでに帰国してしまっており、ドライバー当人は否定したため、結局うやむやになり、真相はつかめなかったのですが、その後も素行の悪さがあり、後にジョンが話をして辞めてもらいました。
(タクシー運転手は従業員ではないのですがDOLE(Department Of Labor and Employment:フィリピン労働雇用省)により、従業員に準じた扱いが定められていて、基本的に、自由に解雇(契約解除)することはできません。役所に不服申し立てをされると指導やペナルティを受ける可能性があります。解雇するためには、処分が適当であることを証明する経緯や記録を残しておくことが大事です。)
また、フランチャイズを買った際に、前オーナーさんから「ドライバーがドラッグを使い事故を起こして大変だった。」という話も聞いたことがあります。
今は採用にあたっては基本的に紹介制をとっています。
話のスケールは大分異なりますが、最近、大谷選手のニュースがありました。信頼できる人物を雇うというのは難しいものです・・・。
ドライバーにとってのいい会社
会社としては「良いドライバーを雇いたい」と考えています。
一方、ドライバーは「いい会社(オペレーター)で働きたい」と思っています。
グッドドライバーを雇うためにはいい会社でなくてはなりません。
貸付け
フィリピンの場合、「お金を貸してくれる」会社はポイントが高いといえるかもしれません。
フィリピン人の貯蓄率や銀行口座保有率はかなり低く、江戸っ子のように「宵越しの銭は持たない」とよくいわれますが、実際にそう感じます。
家族が入院したり、急な出費が必要になると親戚や友人からお金を借りることになりますが、会社が貸してくれるならば、それに越したことはありません。
うちでも一定の期間勤務実績がある場合は、その期間に応じて限度額を決めて貸付をしています。
タクシー業は人間関係の悩みは少ない
せっかく雇ったドライバーも辞めてしまうことがあります。どんな理由で離職してしまうのでしょう?
私が公務員をやめた理由は、健康・体調面、職場の仕事・ストレス、人間関係などでした。
ドライバーの場合もやはり、健康面で辞めるケースはあります。フィリピン人は高血圧だったり、心臓に持病を抱えているケースが多いと感じますが、うちでも、2人ほど、心臓の具合が悪くて辞めています。
一方、タクシーの場合はドライバーはほとんどの時間を車で過ごし、自分で稼ぐので、ブラック企業にみられるような、社風や上司との人間関係によるストレスというような要因は比較的少ないと思われます。
同僚との人間関係も、一緒に働くということはないのですが、2人交代の24時間システムの場合、相手がガソリンを満タンにしないで引き継いだとか、ちゃんと清掃をしないなどでトラブルになるケースがありました。
こういったこともあり、うちでは、コロナで1人体制になって以来、全車両で24時間システムは廃止しています。
一番多い退職理由
退職の理由で多いのは、やはり条件のいいオペレーターに移るケースです。
最近ですと、レントオウン(Rent to own)というシステムを取り入れているオペレーターがあり、そちらに移ったドライバーがいました。
レントオウンというのは、コンドミニアムなどの不動産でもよく聞く手法で、当初は賃貸で借りるのですが、一定期間が過ぎるとそのまま取得することができるというものです。
タクシーの場合は、一定の期間を乗り続けると、更新した際に、古い車両を取得できるのです。
あとは、船員の採用試験に受かったからと辞めた例がありました。規模や種類にもよりますが、船乗りの仕事は一般的に待遇がよいようです。
配車アプリサービスの影響
先ほど触れたアキラ先輩の話にでてきますが、2015年ごろから配車アプリサービスを行うグラブやウーバー(※)といった輸送ネットワーク車両サービス(TNVS)に多くのドライバーが移ったことがありました。
また、セブにおいては、今後TNVSの台数が拡大される可能性もあり、そうなると、さらにドライバーが流出する恐れがあります。
うちのような小規模事業者だと、どうしても条件面では大規模オペレーターにはかなわない面があるのですが、ドライバー不足は年々深刻で、利益を削っても条件面でドライバーを確保しなければと感じています。
※2018年3月にウーバー(UBER)は、赤字の東南アジア事業を同地域の大手ライバル、グラブに売却し、フィリピンでも撤退しています。
「Philippine watchdog fines Grab, Uber for rushed merger, drop in service quality(フィリピン監視機関、急ぐ合併とサービス品質低下でGrabとUberに罰金)」(Reuters 2018.10.17)
マネージャーに大事なこと
計算・事務能力
ネットなどで、ビジネス経験者の話として、フィリピン人は数字に弱いという話題を聞くことがあります。
3年に1度実施されているOECDの国際学料調査(※)において、フィリピンは2018年は読解力は77カ国中で最下位、数学と科学はどちらも78カ国中77位、2022年の調査では読解力は81カ国中76位、数学が76位科学が81カ国中79位となっています。
フィリピンの教育や学力の問題は別の投稿で触れたいと思いますが、もちろん、あくまで平均値で、日本人より優秀な学生は大勢います。
また、スマホでも計算ができる現代では、日常生活で単純な計算力で支障がでるようなシーンはあまりないといえます。
私自身の経験としては、タクシービジネスにおいて、15台分の収入(バウンダリー)と、ドライバーの借り入れやセービング(積立金)といった計算と支出の帳簿をきちんと合わせるという作業で、以前のビジネスパートナーはきちんとできていない面がありました。
一方、今事務を行っているカミさんは、以前、計算が必要な業務を行っていたという経験もあり、実務能力には問題ありません。
もともと、スカラーシップ(奨学生)で、セブの中でも優秀な大学に合格し、卒業しているので十分な能力は身につけていると感じます。
結婚する際は、ビジネスはジョリーとルイーズに任せるつもりだったのが、2人の失踪により、予定外でマネージャー業を担うことになったのですが、むしろ適任だったといえます。
これはうれしい誤算でした。
(※)「国際学力調査で読解力最下位、数学と科学は下から2番目(フィリピン)」(ジェトロ2019/12/19)
「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」(国立教育政策研究所)
「『千円の2割引き』解けず…大学生の数学の学力低下が深刻、実社会で被る不利益も」(Business Journal 2023.09.20)
役所事務
英語力が必要
フィリピンの特徴として、役所関係の書類や公文書は、基本的にすべて英語です。これは、例えばタイとかベトナムなど他の東南アジア諸国のように独自の文字で書かれているのと比べると、外国人にとってはありがたい面です。
フィリピンは英語が公用語といっても、普段の会話は現地語がメインです。役所の文書というのは日本の場合でも、結構難しいところがあり、英文においても同様です。
フィリピンの識字率は96.3%(※)あるとのことですが、日本とはかなり状況が異なり、役所の文書を正しく読める割合というのはかなり低くなるのではないかと思います。
あくまで、私の印象ですが、誰でもビジネスにおいて、法律や役所の文書を読み、理解できるという訳ではなく、一般の高卒程度でも結構難しくて、大学などでかなりしっかりと学んだ英語力が必要と感じます。
煩雑さや遅延、賄賂、コネ
また、さらに、その役所事務は。資料要求も多く、煩雑な割に事務は遅く、イライラさせられることも多くあります。
あまりに遅いので、催促したら、書類が紛失していて忘れられており、机の奥から見つかって、事務が再開なんてこともありました。
以前は、お金とコネさえあれば役所事務はどうにでもなったとも聞きますが、私がビジネスを始めて翌年にドゥテルテ大統領になり、かなり変わったようです。
へたに賄賂で解決しようとして、逆に逮捕されたというニュースもあります。
以前のことは体感的にはわからないのですが、これまでのトラブル対応での経験から、賄賂やアンダーザテーブル(袖の下)で何でも解決できると考えるのはかえって危険と感じます。
とはいえ、職員と顔なじみになると、そうでない場合よりスムーズにことが進むケースも多いのも確かであり、人間関係も結構重要です。
(※)「フィリピン共和国(Republic of the Philippines)基礎データ」(外務省)
ドライバーのハンドリング
最後はドライバーとの対応です。
ドライバーは歴代のマネージャーより年上で、経験者ばかりで、態度も大きく、彼らを悩ませてきたこともあります。
最近は企業が「モンスター社員」に苦労するケースもあるようですが、雇用関係にある場合、雇用主が従業員に給料を渡す立場ということもあり、一般的に会社の方が上になるといえるでしょう。
このため、一般的にはモンスター社員よりブラック企業の方が問題になります。
タクシーの場合は、ドライバーは個人事業主で、ライセンス持っているドライバーは、比較的、転職もしやすいといえます、
その点で、ドライバーの立場は若干強いと言えるかもしれません。
そんな状況で、マネージャーは、年上で一癖も二癖もあるドライバーとうまくやっていくコミュニケーション能力も必要です。
コロナと役所のルール変更で危機(2020年~)
名義変更停止
ジョリーとルイーズが失踪して悪戦苦闘している2017年ごろに、フランチャイズの名義変更が停止されるというルール変更が行われました。
既存のフランチャイズの売買価格が高騰していたことも理由のひとつのようです。
役所に確認に行ったのですが、これは「名義変更ができない」ということで「フランチャイズの売買自体を禁じたものではないが、推奨はしない」とのことでした。
実は、以前にも、名義変更ができなかった時期があったようで、時期がきたら事務が再開される見込みはありますが、いつになるかはわかりませんし、その間は前オーナー名義ということでトラブルが生じないとは言い切れません。
この措置によって一時期は1台60万ペソ近くまでいったフランチャイズ代金は、かなり下がったのでした。
コンソリデーション(フランチャイズ統合)
そして、2019年ごろに、名義変更再開とコンソリデーションというルール変更が行われるというアナウンスがされます。
コンソリデーション(consolidation)は英語で統合という意味で、フランチャイズの統合ということになります。
フィリピンでは、新規交付された時期によって、ひとつのフランチャイズで1台だったり、3台というように異なっていても、1台分のフランチャイズさえ持っていれば事業を行えました。
しかし、このルール変更で、最低10台を1フランチャイズにまとめることになり、つまり、10台分のフランチャイズがないと事業が行えなくなります。
セブでは、1台とか数台分のフランチャイズしか持っていない小規模オーナーがたくさんいました。
そのままでは、フランチャイズの更新ができずに失効になってしまいます。
このため、小規模オーナーはフランチャイズを売却するか、オーナー同士で協同組合(Cooperative:コーポラティブ)を作ったり、加入したりすることになります。
協同組合の場合は、当然ながら自分の名義ではなく組合名義になってしまいます。
私のところは当時5台から10台まで増やし、2019年に何とか手続きを完了し、5年間の認可をもらえたのでした。
ところが・・・
その直後に今度は最低台数が15台になったというのです。
そうなると次の更新ができなくなる可能性があります。
このため、今年(2024年)の更新までに15台に増やす必要が生じたのでした。
なんだか綱渡りです・・・。
新型コロナで世界最長のロックダウン
そうこうしているうちに今度は新型コロナです。
ニュースでは中国のゼロコロナ政策が、かなり長期間に渡り、経済にも影響を与えたと報道されていました。
一方のフィリピンも、世界最長のロックダウンと呼ばれる政策をとり、特に都市部での経済活動への影響は大きく、公共交通機関も打撃を受けました。
セブでは、2020年4月から7月までは1週間ほどの一時再開期間を除き、ほぼすべての公共交通機関の運行が禁止され、完全に無収入となります。
その後はコミュニティ隔離措置がとられ、最も厳しい「ECQ(Enhanced Community Quarantine) 強化されたコミュニティ隔離措置」から、ときには逆戻りしながら、だんだんと緩やかな措置へと移行していきます。
隔離措置では、夜間外出禁止令や、日中でも子供やシニア(60歳以上)は外出禁止、買い物など必要最小限の外出は許可書を持っている者のみという状況が長く続きました。
やがてワクチン接種が始まりましたが、当初は中国製のワクチンであり、またフィリピンではいわゆる「デング熱ワクチン事件」によってワクチンへの不信感が高まっていたことにもより接種率はなかなか上がりませんでした。(※)
2021年6月22日、大統領が「ワクチン拒否なら投獄」と接種状況にいら立ちを表明していると報じられています。
その後、ファイザーなどのワクチン接種が始まり、ワクチン接種証明書がなければモールなどの施設に入れなかったり、多くの職場で実質的に働けない条件がつけられたり、学校でも対面授業への参加の条件とされるという、ほぼ強制というかたちで接種率が高まると、コミュニティ隔離措置も緩和されていきました。
それでも、乗客の数は少なく、他のオペレーターと情報交換をしながら、バウンダリー(タクシー利用料)の額もかなり下げた状況が続きました。
2022年3月31日、コロナ後初めて、セブ3市(セブ市・マンダウェ市・ラプラプ市は)の全てがアラートレベル1のニューノーマル(New Normal)となり、ワクチン接種者においては全く制約がなくなります。
この頃になると、外国人観光客の姿も増え始め、経済的にも、だいぶ回復してきたと感じられるようになります。
2022年9月にはマスクの着用義務が撤廃され、任意となります。
セブ市で公立学校の対面授業がほぼ完全に再開されたのは2022年の10月ごろでした。
マルコス大統領が緊急事態宣言の解除を宣言したのは2023年7月21日。同時にィリピン入国時の「ワクチン接種証明書」「陰性証明書」の提示が不要になり、観光もコロナ以前と全く同じ条件となりました。
このころになって、他のオペレーターの状況も踏まえ、ようやく、減額していたバウンダリーを平常時の額に戻したのでした。
ただし、以前24時間システムだった車両も12時間システムにしたため、トータルの収入としては、コロナ前と比べ、少なくなりました。
「デング熱ワクチンの経緯」(J-stage)
「フィリピンで予防接種の接種率が低下」(インターナショナル ヘルスケアクリニック 2018/02/07)
「フィリピンにおけるワクチンの不平等──パンデミックとワクチン接種プログラムが不平等をいかに悪化させたか」(京都大学 東南アジア地域研究研究所 2024/02/27 )
「フィリピン大統領「ワクチン拒否なら投獄」、接種状況にいら立ち」(REUTERS 2021/06/21)
またまたルール変更であと5台必要!!タイムリミットがせまる
するとまたルール変更が・・・。
最低台数が10台から15台になるというのです。
何とかフランチャイズは14台分手に入れ、車もローンで3台を購入しました。
しかし、このローン返済で収入が減り、新しいフランチャイズが変えません。
リチャードが2台分のフランチャイズを売りたいというオーナーさんを見つけてくれましたが、現金で支払う余裕がなく、待ってもらうことに。
とりあえず2024年以降でも大丈夫という話だったのですが、急展開で、古いタクシー車両の年数制限(13年)が2023年いっぱいで、それまでに手続きを終えなければなりません。
まず、銀行からフランチャイズ代を借り受けます。
次に車両ですが、3台分借りていたトヨタ系列のローン会社はなぜか新規はダメとのこと。
このため、何とかみつけたBPI銀行のカーローンを使うことに。
こうしてギリギリの年末に無事手続きを終えたのでした。
ローン返済が終わったら次の段階へ
というわけで、現在、フランチャイズと4台分のカーローンの返済をしていて、これが終わるのが再来年の2026年です。
日本のタクシーは毎年車検があることもあり、耐用年数に決まりはないようですが、一般的には3~5年で更新されることが多いよう。
一方フィリピンでは最長13年という決まりがあります。
私がセブに来た10年ほど前は、本当にボロボロの車体も結構見かけましたが、最近はだいぶ少なくなってきました。
13年にはまだ余裕がありますが、古くなると故障も多くなり、修理費が増えると同時に、修理期間中は無収入なので収入は減っていきます。
タクシーは新車から年数が経つにつれ、だんだんと収入は減って、支出(修理代)が増えていき、利益がだんだん少なくなっていきます。更新のタイミングは難しいところですが、初期に購入した車両から順次更新していくとともに、新しいビジネスもスタートさせていきたいと思っています。
おわりに
フィリピンは非常に暑い日が続いています。
セブも同様で、私はこの時期は9回目になるのですが、今までで一番暑いと感じます。
熱中症の死亡者もでているようですし、日中に屋外で働いている人は本当に厳しいでしょう。
学校も、以前はこの時期(4月、5月)は夏休みだったのが、新型コロナによる再開時期の影響で休みでなくなっていますが、とても授業ができる環境ではありません。
休校や、隔日授業、早朝6時に授業スタートで午前中で終了といった授業時間変更と苦肉の策をとっています。
子どもの絶対数が減っていいる日本と比べフィリピンは子供の数はとても多いという点では恵まれているのですから、20年後、30年後のことを考え、教育に力を注ぐことが、フィリピンの未来にとって大事であり、チャンスでもあると思うんですが・・・。
日本はゴールデンウィークももうすぐ終わりです。円安でなかなか海外旅行が厳しい状況ですが、夏休みなど、ぜひセブにもお越しください。