只今サイトのデザインを更新中です。作業中はレイアウトが崩れるなど見にくくなる場合があります。

海外移住と住所と住民登録(1年の滞在で住民票を抜く?抜かない?海外移住者にとって知っておくべきことを元公務員が説明します)

目次

はじめに

前回は、「住民票を『抜く』場合と『残す』場合の違い(メリット・デメリット)」について取り上げましたが、今回は、住所住民票に関する知識やトラブルについて解説します

海外移住や海外留学、海外出張などで出国する際に「国外転出届を出して住民票を抜くか抜かないかは自由」であるとか「1年以上滞在する予定であれば必要」のように説明されることがあります。

また、海外から転入するにあたり、「1年以上滞在する予定でないと転入届を受け付けてもらえない」場合もあれば、簡単に認められる場合もあるようです。1

(本稿では、「1年問題」と呼びます)

このように、役所によって対応が異なることで「一体何が正しいのか?」「何だかすっきりしない」「もやもやする」と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

私は以前、住民基本台帳に関係する業務に携わっていたことがあるので、このような疑問や根拠について、これまでネットなどではあまり詳しく説明されていなかった内容もお伝えできると思います。

どうぞ最後までお付き合いください。

注)サムネイルの写真は「山形市で『書かない窓口』始動 マイナンバーカードを活用、手続き簡素化」(山形新聞 2024/01/05)←リンク切れ

表記および用語

  • 「要領(ぎょうせい)」〔要領〕 判例や行政実例は主に「株式会社ぎょうせい」が出版している「住民基本台帳事務処理要領」を参照しています。その場合、出典引用は「要領(ぎょうせい)」または〔要領〕と表記します。
  • 「要領(通知)」 総務省通知の「住民基本台帳事務処理要領」は「要領(通知)」と表記します。
  • 「住基」 「住民基本台帳」および「住民基本台帳法」は「住基」と表記する場合があります。
  • 「国保」 「国民健康保険」および「国民健康保険法」は「国保」と表記する場合があります。なお、「国保」は地域住民を対象とする「市町村国保」と同業同種の個人事業の自営業者などによる「組合国保(国民健康保険組合)」がありますが、当記事においては「国保」は「市町村国保」を指します。
  • 「判例」 正確にいうと「判例」は「最高裁判所」の判決、「裁判例」はそれ以外の裁判所の判決を指し、区別しますが、当記事では一般的に使われるようにこれらを含めて全て「判例」と表記します。
  • 「通説」 法理論ないしは法解釈において、学説上多数に支持されている説をいいます。
  • 「日本人」 「日本国籍を有する者」は「日本人」と表記します。
  • 「外国人」 「外国籍を有する者」「日本の国籍を有しない者」は「外国人」と表記します。
  • 「住民登録」「住民票」 「住民登録」は、住民の住所や家族構成などを記録したもので、「住民票(写し)」は、「住民登録」に基づいて発行される証明書のことです。昭和42年に「住民基本台帳法」が制定されるまでは、昭和26年に施行された「住民登録法」による「住民登録」が行われていました。当記事では前述の「住民基本台帳法」に基づく記録を指します。
  • 「転入届」「国外転出届」住民基本台帳法では、国外に転出をする旨の転出届を「国外転出届」といい、このことにより、いずれの市町村においても住民基本台帳に記録されていない者を「国外転出者」といいます(法第17条)。一方「転入届」においては、国内および海外からの転入に区別はありません。
  • 遡及(そきゅう) 過去にさかのぼって法律の効果等が影響・効力を及ぼすことを指します。

<全般的に参考となる参考図書・Webサイト>

なぜ役所によって対応が異なるのか?

今回の話は役所でのトラブルも含まれるので、行政について知っておくと理解しやすくなると思います。

地方分権と市町村の事務

日本の行政は、長い間、国が政策を決定し、地方自治体がそれに従う中央集権体制でした。

このシステムは「明治以降の近代化」「戦後の経済復興」「高度経済成長」などを実現する上で大きな役割を果たしましたが、一方で、地域の多様性や住民のニーズに対応しきれない側面もありました。2

近代国家においては、政府に権力を集中させるのではなく、地域のことは地域で考え解決する「民主主義の学校」とも呼ばれる地方自治の重要性が認識されるようになっていきます。

日本では、戦後、「GHQ(※1)によって中央集権の権化ともいえる内務省は解体されたものの、依然として国の影響力は強いままでしたが、2004年に施行された地方分権一括法により地方分権が大きく前進します。

法律上、国と地方公共団体の立場は対等で、国は地方公共団体の事務に関して、法律又はこれに基づく政令で定められた関与しか行うことはできません。3

地方公共団体の事務は、「国や都道府県が本来果たすべき役割に係るもので、国や都道府県がその適正な処理を特に確保する」必要がある法定受託事務と、それ以外の自治事務があります。4

自治事務は「法律・政令に基づかずに任意で行う事務」もありますが、住民基本台帳法に係る事務は「法律・政令により事務処理が義務付けられる事務」です。

つまり地方公共団体は、国による指示の下ではなく自らの責任において法律に基づき住民基本台帳事務を行うことから、全国共通ではなく、各自治体によって解釈や対応にばらつきが出てしまう場合があるのです。

(例えば、市町村が行う国民健康保険に係る事務は自治事務ですが、同じように役所に窓口がある国民年金5法定受託事務(及び協力連携事務)なので、事務を行うにあたり、国(厚生労働省)及び日本年金機構(※2)に確認する場合があるなど、国との関係に若干の違いがあります。)

(※1)GHQ」 連合国軍総司令部(General Headquarters)の略称、第二次大戦後、米英など連合国軍が占領下の日本で非軍事化、民主化政策を実施するため設置されました。初代最高司令官はマッカーサー米元帥で、1952年4月のサンフランシスコ講和条約発効で日本の主権が回復するまでGHQによる占領政策は続きました。(コトバンク

(※2)日本年金機構」 厚生労働省の外局だった社会保険庁を廃止して設立された非公務員型の公法人(特殊法人)で、「年金事務所」を全国に配置し、公的年金制度の運営を担っています。

<参考Webサイト>

「処分」とは?

行政の処分とは、国民に義務を課したり権利を付与したりするような、私たち国民の権利義務に直接具体的に影響を及ぼすことが法律的に認められている役所の行為を指します。6

役所の処分と聞くと、建築許可申請生活保護申請など、申請に対する許認可を思い浮かべる方が多いと思いますが、今回取り上げる住民基本台帳法に基づき国外転出届転入届受理する行為処分にあたります。7

処分に不服がある場合

各市町村が行った処分が誤っている場合もあります。処分不作為(※1) に不服がある場合は、行政不服審査法に基づいて、不服を申し立てる(審査請求)ことができます(費用はかかりません)。8

この場合、個別法に特別の定めがある場合を除き、原則として、処分庁最上級行政庁(例:大臣、都道府県知事、市町村長等)が審査請求先となり、処分庁等に上級行政庁がない場合は、処分庁が審査請求先となります(法第4条)。9

行政不服審査の結果に納得できない場合は、行政事件訴訟法に基づいて裁判を行うこともできます。対象範囲が異なる場合もありますが、行政不服審査を経ずに裁判を行うことも可能です。(※2)10

いずれにしても、争いが続く場合、最終的な判決の場所は最高裁判所となります。

なお、裁判では行政側が負けることもありますが、行政には行政裁量(※3)が認められていることもあり、一般的に、行政に対して勝訴することは難しいといわれています11

(※1)不作為」 不作為とは行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分その他公権力の行使に当たる行為をすべきにかかわらず、これをしないことをいいます。

(※2)行政不服審査」 従来、不服申立てに対する裁決を経た後でなければ出訴ができない旨(不服申立前置)を定める法律が96本あり、さらにそのうち「異議申し立てと審査請求」、「審査請求と再審査請求」という2重前置を定める法律が21本あり、「住民基本台帳法」もその一つでしたが、国民の裁判を受ける権利を不当に制限しているとの批判もあり、「住民基本台帳法」に関しては2014年(平成26年)の法改正により廃止されました。

(※3)行政裁量」 行政裁量とは、法律が行政機関に独自の判断余地を与えて、一定の行政活動に自由を認めていることをいいます。行政事件訴訟法では裁量処分の取り消しに関して以下のように定めています。「行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。」(行政事件訴訟法 第30条)

<参考Webサイト>

「法規命令」「行政規則」とは?

法律に係る細かいルールや技術的な事項は、通常、内閣が制定する政令や各省大臣が発する省令など、行政機関が定める法規命令に委任されます。これらは、国民や裁判所も拘束します。12

一方、行政規則は行政内部の基準を定めるもので、上級行政機関から下級行政機関に対する命令である通達などがあります。13

行政規則は国民の権利義務には関係しないため裁判所も拘束しません14

「行政実例」とは?

行政機関が、法令の適用などに関する疑義について、関係所轄行政機関15 に対して意見を求めたり照会する場合があります。その回答を、照会者だけでなく通知・通達質疑応答などによって行政運営の参考として公表した事案などを行政実例」といいます。16(※1)

今回取り上げる「1年問題」の理解においては行政実例が重要となります。

地方分権では、自治体の独自性や、自治体間のある程度の差異は予定内ですが、一定の範囲で「共通する判断基準」があった方が、混乱を防ぐとともに効率的です。

特に、新しい法律が施行されたり法改正が行われた場合など、法律を所管する国の省庁による説明会や質疑応答が行われたり、標準的なガイドライン(※2)準則(※3)が示されることがあり、これにより、法解釈など、自治体間で一定の共通認識が形作られます。

しかし、前述の行政規則と同様に行政実例も国の見解を示したものにすぎず、法的な拘束力を持たないため、これに基づいた処分を行った自治体が、裁判で敗訴するケースもあります17

(※1) 「行政実例」 行政規則や行政実例は、各省庁などのホームページで公表される場合もありますが、通常、多くの官公庁は、古い行政実例については法令関係の加除式書籍を購入し、事務の参考としています。主な出版社として「ぎょうせい」「第一法規」「中央法規出版」「新日本法規」「日本加除出版」などがあります。

(※2) 「ガイドライン」 ガイドラインという用語は、法律上明確に位置付けられているものではなく、行政法上の位置付けや法的性格についても、これに触れている文献は少ないのが実情です。「国の行政機関が公表したガイドライン等の実態把握のための調査研究報告書」(平成27年度総務省行政評価局請負調査)

(※3) 「準則」 例えば「国民健康保険条例準則について(厚生労働省)」、「火災予防条例準則」「地方公営企業の設置等に関する条例の準則について(総務省)」などのように「条例準則」といって、国から条例の例(ひな型)が示されることもあります。

役所の案内を読んでみよう

法律や制度を説明する際には、「誤解を与えてはいけない」ことが重要なので、文章が長くなりがちです。

また、多くの法律や制度では例外規定など非常に難解な構成になっています。それらを説明すると、複雑で理解しにくくなるということもあります。

しかし、「役所の文書は分かりにくい」、「読む気にならない」などの批判もあり、ホームページなどの広報では簡潔かつ誰でも理解しやすい文章が求められます。

その結果、例外規定細かい内容は「原則として」「通常は」「一般的に」「など」の表現で簡潔にまとめられますが、実際にはそれらの部分が重要だったり、ポイントとなることもあります。

また単に省略されてしまうこともあるので、注意が必要です。

  今回のテーマに関する役所の案内をピックアップしましたのでご覧いただき、最後に、あらためて振り返ってみたいと思います。

まず、国外転出の場合です。

海外に1年以上出張等で引っ越しをされるときは、転出の届出が必要です。(中央区)

国外へ転出される方は、転出の届出が必要です。観光やビジネス、短期留学といった短い期間(見込み1年未満)の出国では届出は必要ありません。(吹田市)

海外が生活の本拠となる場合には、国外転出届が必要です。(海外が生活の本拠となる場合とは、海外で働く、海外の学校に入学する等の理由で出国して、1年に数回日本に戻るような場合(海外にいる期間の方が長い場合)です。)(荒川区)

1年以上海外で暮らし、生活の本拠地が海外に移る場合は転出の手続きが必要となります。1年以下で戻ってくる場合、必要ありません(船橋市)

次に、海外からの転入の場合です。

海外から中央区に引っ越しをしたときは、14日以内に中央区の窓口で転入の手続きが必要です。(中央区)

海外から帰国し、概ね1年以上にわたって国内に居住する場合には、転入の届出が必要となります。
※海外に生活の本拠を有する日本人が日本に一時帰国した場合には、その滞在期間が1年以上にわたる場合を除き、原則として海外の居住地に住所があるとされておりますので、あらかじめ御承知おきください。(川崎市)

国内に1年以上滞在される予定の方は、転入の手続きをしてください。休暇による一時帰国など生活の本拠地が国外である場合には、住民登録は行えません。(調布市)

外国から帰国し、1年以上にわたり日本国内に滞在予定の方は、帰国の日から14日以内に転入届をしてください。
ただし、外国に住所を移している方が一時帰国している場合で、一時帰国の期間が1年未満であるときは、住所は外国にあるものとして扱いますので、転入届の受付はできません。(境港市)

「住所」と「生活の本拠」

そもそも、住民登録を行うための「住所」とは何でしょうか?

ここでは、特に海外転出海外からの転入の理解に必要となるポイントをできるだけ簡単に述べます。

住民基本台帳法の住所の重要性

一般的に、地方公共団体という概念には、「一定の区域(場所的構成要因)」「住民(人的構成要件)」「各種の自治行政の権能(法制度的構成要件)」の3つの要素が必要とされます。18 

住民は、その属する普通地方公共団体のサービスをひとしく受ける権利を有するとともに、その負担を分任する義務を負い、19 地方公共団体の主権者という重要な立場を担っています。20

このため、市町村は住民基本台帳を正確に記録し、住民を確定させる必要があります。21

「生活の本拠」とは?

住民基本台帳法に「住所の定義」は書かれていませんが「住所とは、地方自治法に規定する住所と同一であり、民法第22条と同様に各人の生活の本拠をいう」とされています。22

「およそ法令において人の住所につき法律上の効果を規定している場合、反対の解釈をなすべき特段の事由のない限り、その住所とは各人の生活の本拠を指す。」(最高昭29.10.20「基本選挙人名簿異議決定取消請求」昭和29(オ)412)〔選挙法〕〔要領〕

生活の本拠とは、「全生活の中心」で「日常生活ある程度の継続性をもって営まれている」場所とされています。

「公職選挙法九条二項の住所とは、その人の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものと解すべく、私生活面の住所、事業活動面の住所、政治活動面の住所等を分離して判断すべきものではない。」(最高昭35. 3.22) 〔選挙法〕〔要領〕

「公職選挙法二〇条に掲げる「住所」とは、一般的にいえば、 事実上居住して、その者の日常生活ある程度の継続性をもつて通常営まれている場所を指すものと解すべきである。」(大阪地昭20.5.31)〔選挙法〕〔要領〕

なお、現代の複雑化した生活環境では、何をもって生活の本拠と判断すべきか極めて困難なケースも生じ得ますが、個人の生活の実質関係を考慮して個別具体的に決定するほかはありません23

つまり、「〇〇日、〇〇か月以上の滞在なら生活の本拠である」というような一律の基準はありません。

「住所はその地を生活の本拠とする意思とその意思の実現すなわちその地に常住する事実があるか否かによって決めるべきであり、いかなる状況があればかかる意思があり、また事実があると認めるかは事実問題(※)であり、一定の具体的標準はない。」(大審大9.7.23)〔要領〕

(※)「事実問題」 裁判では、まず事実関係を確定し、その事実に法律を適用して判断されます。この事実関係の確定に関する問題が「事実問題」です。「法律問題」と対比されます。

「意思」と「客観的居住の事実」

住所の認定にあたっては、かつては、意思説客観説との争いがありました。

意思説は、「住所の設定又は変更には定住の事実の他に定住の意思必要とする」という説で、客観説は、「住所の設定には定住の事実のほかに、特に定住の意思があることを要件としない」とする説です。

現在では、「客観的居住の事実を基礎とし、これに当該居住者の主観的居住意思を総合して決定する」とされています。24

住所(生活の本拠)の認定に関する判例

「住所とは一般の生活関係においてその中心をなす場所をいうのであるが、その場所はその人がそこを右のような中心とする意思を有しかつその意思を実現した事実がなければならない。」大審昭2.5.4〔選挙法〕〔要領〕

「意思能力を欠く者」や「租税回避を意図する者」などの住所25 について見れば、意思を強調しすぎることはできませんが、どちらが生活の本拠かという判断において意思が根拠となった判例もあります。

「事実上の居住地が二つ以上ある場合には、その者の意思を重視して住所を決すべきである。」(宇都宮地昭29.4.26)〔選挙法〕〔要領〕

「居所」と「住所」

居所とは「人が多少の期間、継続して居住するが、土地と密接の度合いが住所ほどにいたらない場所」26 で、仮住所とは「当事者がある行為について住所に代わるべきものとして選定した場所」27 です。

民法では「居所や仮住所についても住所とみなす(第23、24条)」としています。

これは、住所が債務の履行地や民事訴訟の管轄などの対象となることから、民法上の法的安定性を早期に確立するためです。28

一方、住民基本台帳制度では、住所は「生活の本拠」に限定され、居所現在地(※)などは住所とみなされず、住民登録はできません。

これは、住民は市町村との権利義務関係などが発生するため、一定の関係を有する者に限定せざるを得ないためです。29

つまり、住民基本台帳法上の住所には、居所仮住所現在地以上の市町村との関係性が求められるのです。

(※)「現在地」人が現時点において存在する場所。刑事訴訟法上、裁判所の土地管轄は、犯罪地又は被告人の住所、居所若しくは現在地によるとされています (刑事訴訟法第2条1項)。「住所・居所・現在地」(図解六法)

判例で見る住所の認定

「要領(ぎょうせい)」には多くの判例が掲載されており、事業場所、勤務地、住み込み先、学生の寄宿先、療養先などが生活の本拠か否かについて争われています。

これらのケースでは、いずれも、住所が「ある」とされる場合もあれば「ない」とされる場合があります。

ひと月の居住日数が少なくても、仕事場事業所がある住まいよりも自宅家族が住む場所の方が生活の本拠と認められているケースが多くあります。

滞在日数だけで判断されるのではなく、家族の有無地域との社会的関係性など総合的に考慮して判断されています。

いずれの判例においても「1年」や「期間」を「住所(生活の本拠)」の明確な要件とする例は見られません。

勤務地・事業場所に住所が認められた判例

「国鉄職員で、その生家のある甲村から乙村の駅に転勤し、結婚後乙村で間借りして勤務している者及びその妻の住所は、乙村にある。」(仙台高秋田支部昭28.9.17)〔選挙法〕〔要領〕

「甲市にある株式会社の取締役社長として、同市の会社役員住宅に妻と起居している者の住所は、乙村に家族が居住し農業を営んでいても、甲市にある。」(旭川地昭27.4.22)〔選挙法〕〔要領〕

勤務地・事業場所に住所が認められなかった判例

「甲市において商業を営み、店番のため一月の半ばを店舗で寝泊まりしていても、乙村の家屋に居住する者の住所は、乙村にある。」(仙台高昭27.12.26)〔選挙法〕〔要領〕

「父から生計の補助を受け、勤務地である甲市で下宿生活をし、ときどき両親のもとに帰る独身者の住所は、両親のいる乙市にある。」(仙台高昭27.12.26)〔選挙法〕〔要領〕

船舶居住者の住所

NHK朝の連続ドラマシリーズ「あまちゃん」のヒロインの祖父は、「マグロの延縄漁はえなわりょうなどを行う漁師で、年末から年始の間の10日間ほどしか、奥さんの待つ自宅に帰って来ない」という設定でした。

このように、1年に10日しか住んでいない自宅は祖父の生活の本拠といえるのでしょうか?

船舶居住者に関する判例

「ある市町村の地先海面にして陸地に接近している場所に一定の碇繋所(※)を有する船舶内に居住する者の住所は、もし、その船舶が日常業務の関係上碇繋所を離れ、ときには他市町村の区域に航行することがあつても、業務を終われば直ちに碇繋所に帰来するのであれば、碇繋所所在の市町村にある。」(大審昭7.8.2) 〔選挙法〕〔要領〕

「所得税法上の『住所』とは、個人の生活の本拠、すなわちその者の社会生活上の諸問題を処理する拠点となる地をいうものであり、船員の場合は、配偶者その他生計を一にする親族が居住し、あるいはその者が勤務外の期間中通常滞在する地が右『住所』に該当するというべきである。」(東京高昭59.9.25)〔税法〕〔要領〕

船舶居住者は、時折、各地の港に停泊し短期間過ごすことがありますが、一年の大半を海の上で過ごす場合もあります。このような船舶居住者に関する判例では、家族や居住地や自宅などを住所と認めています。

判例では、期間年間の滞在日数帰宅の頻度だけをもって「住所(生活の本拠)」の要件とする記述は見られませんが、後述する行政実例では1年という期間について触れられています。

(※)「碇繋所ていけいじょ」碇はいかり のことで、繋はつなぎ止めること。錨を下ろして他の船と繋ぎ止めて停泊する場所のこと。

海外渡航者の住所

海外渡航者に関する判例もいくつかありますが、「家族の所在地・単身か否か」「一時的か、今後も永続的に居住する意思があるか」「家財道具の所在地」「滞在頻度」などによる判断がみられます。

海外渡航者に関する判例

「出かせぎのために一時外国に移住しても、住所を移転したものではない。」(行政大13.4.1) 〔選挙法〕〔要領〕

「妻を伴って渡米し、アメリカ各所を転々として勤務している者の住所は、アメリカにある。」(行政昭9.2.14)〔選挙法〕〔要領〕

住所はひとつ?(単一説と複数説)

住所はすべての法律で共通であり、一つに限定されるのでしょうか?

住所単数説(単一説)は、一人には一つの住所しか存在しないと考えるものです。

一方、住所複数説は、一人につき複数の住所があり得るというものですが、注意しなければならないのは、「法律関係ごとに住所観念があるという点です。30 つまり、一つの法律関係における住所は一つに限定されます

住所の数に関する判例

「選挙に関する住所は、一人につき一箇所に限る。(最高昭23.12.18)」〔要領〕

現在では、重層的・多面的に複雑な生活関係の下では、生活の中心は複数であり得るのであって、問題となった法律関係につき最も深い関係のある場所をもって住所とすべきと考えられています。31

なお、例えば住民登録の住所が他の法律でも有効であることを形式主義といいます。公職選挙法の選挙人の把握では住民基本台帳の住所情報を使いますが、そのような法律的な効果はなく、公職選挙法における住所の認定は、あくまで公職選挙法において判断されます。32

住民基本台帳上の住所と公職選挙法上の住所が異なる場合があるとした判例

住所を移転させる目的で転出届がされ、住民基本台帳上転出の記録がされたとしても、実際に生活の本拠を移転していなかったときは、住所を移転したものと扱うことはできないのである。(平成9年(1997年)8月25日「当選無効事件」最高裁判所判決

住民基本台帳」や「所得税法」などは条文に「住所」の定義が書かれていません。定義がない場合は民法から定義を「借用」するとされています。33

しかし、民法が適用される場合でも、個々の法律関係によって異なる住所が認められることもあり得るため、借用したからといって同じ住所になるとは限りません。

複数の住所」の問題に関しては、後述する「海外と日本の二拠点生活」の項目で、あらためて触れたいと思います。

<参考サイト>

所得税法の住所とは?

住所に関する説明では、所得税法住民基本台帳法など異なる法律が混同されるケースもあるため、注意が必要です。

とはいえ、民法借用している法律における住所の定義は、どれも「生活の本拠」であるため、共通点や参考にすべき点はあります

所得税法については、海外在住者にとっては非居住者扱いになるかどうかなど、深い関わりがあります。国税庁が詳しい解説を公表しているので、少し長文になりますが、そのまま掲載します。

居住者と非居住者の区分

所得税法の居住者は国内に「住所を有している」か「現在まで引き続き1年以上居所を有している」者とされています。

「住所を有している」要件が「1年以上」ということではなく、居所であっても「1年以上」居住していれば居住者になるという点にご注意ください。

なお、日本が「租税条約」など、何らかの税務に関する条約、協定を結んでいる国は155か国にのぼり、租税条約を結んでいる国との間では、居住者と非居住者の判定において、二重課税を回避し、租税公平を実現するために、どちらの国が課税する権利を持つかが明確に定められています。34

居住者と非居住者の区分

国内法による取扱い
所得税法では「居住者」とは、国内に「住所」を有し、または、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいい、「居住者」以外の個人を「非居住者」と規定しています。
「住所」は、「個人の生活の本拠」をいい、「生活の本拠」かどうかは「客観的事実によって判定する」ことになります。
したがって、「住所」は、その人の生活の中心がどこかで判定されます。
なお、一定の場合には、その人の住所がどこにあるかを判定するため、職業などを基に「住所の推定」を行うことになります。「別紙 住所の推定
「居所」は、「その人の生活の本拠ではないが、その人が現実に居住している場所」とされています。

租税条約による取扱い
租税条約では、わが国と異なる規定を置いている国との二重課税を防止するため、個人および法人がいずれの国の居住者になるかの判定方法を定めています。我が国が締結している租税条約の一例として、個人については、①恒久的住居の場所、②利害関係の中心がある場所、③常用の住居の場所、④国籍の順で判定し、どちらの国の「居住者」となるかを決めます。

No.2875 居住者と非居住者の区分」(国税庁)

居住者・非居住者の判定(複数の滞在地がある人の場合)

日本と外国の2か国以上に滞在地がある場合における、居住者非居住者の判定に関する説明です。

居住者・非居住者の判定(複数の滞在地がある人の場合)

(「居住者と非居住者の区分(No.2875)」と重複する部分は省略します。)

日本の居住者かどうかの判定(住所または居所の有無)
日本の居住者に該当するかどうかは、国内に住所または居所があるかどうかという判定が必要となります。
国内に「生活の本拠」があるかどうかについては、住居職業資産の所在親族の居住状況国籍等客観的事実によって判断することになっています。
なお、国の内外にわたって居住地が異動する人の住所が国内にあるかどうかは、一般に職業などを基にした「住所の推定」により判定を行うこととなります。

租税条約による判定
日本に住所があるかどうかは、上記日本の居住者かどうかの判定(住所または居所の有無)のとおりですが、外国(A国)の居住者となるかどうかは、A国の法令によって決まることになります。
A国の法令の規定によりA国の居住者と判定され、日本でも居住者と判定された結果、日本と外国の両方で居住者となり、双方の国で課税される可能性があります(これを「双方居住者」と呼んでいます。)。
このような場合、日本とA国との間に租税条約があれば、その規定に従って、いずれの国の居住者であるかを判定します。
なお、必要に応じ、両国当局による相互協議が行われることもあります。
(注) 滞在日数のみによって判断するものでないことから、外国に1年の半分(183日)以上滞在している場合であっても、わが国の居住者となる場合があります。
1年の間に居住地を数か国にわたって転々と移動する、いわゆる「永遠の旅人(Perpetual Traveler, Permanent Traveler)」の場合であっても、その人の生活の本拠がわが国にあれば、わが国の居住者となります。

No.2012 居住者・非居住者の判定(複数の滞在地がある人の場合)」(国税庁)

1年の間に居住地を転々と移動する「パーマネントトラベラー」であっても、日本に生活の本拠があるケースもあり得るとしています。船舶居住者のケースと同様に、このようなケースでは海外には「住所(生活の本拠)」はないと思われ、日本に、自宅や家族、家財道具、預金、財産、社会的関係性などがあれば、居住日数が少なくとも「生活の本拠」があると認められる可能性が考えられます。

住所の推定

国の内外にわたって居住地が異動する人の住所が国内にあるかどうかは、住所の推定により判定を行うこととなります。

この推計は、将来に向かって「国内に住所を有する」あるいは「国内に住所を有しない」かを判断するもので「1年以上」という基準が示されています。

留意すべき点としては、職業や「推測するに足る事実」が必要であり、「1年以上滞在する」といった意思は要件とはされていません。

別紙 住所の推定

1 国内に住所を有する者と推定する場合
国内に居住することとなった個人が、次のいずれかに該当する場合には、その者は、国内に住所を有する者と推定されます。
(1) その者が国内において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること
(2) その者が日本の国籍を有し、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有すること、その他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が国内において継続して一年以上居住するものと推測するに足る事実があること
※ 上記により国内に住所を有する者と推定される個人と生計を一にする配偶者その他その者の扶養する親族が国内に居住する場合には、これらの者も国内に住所を有する者と推定されます。

2 国内に住所を有しない者と推定する場合
国外に居住することとなった個人が、次のいずれかに該当する場合には、その者は、国内に住所を有しない者と推定されます。
(1) その者が国外において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること
(2) その者が外国の国籍を有し、または外国の法令によりその外国に永住する許可を受けており、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有しないことその他国内におけるその者の職業および資産の有無等の状況に照らし、その者が再び国内に帰り、主として国内に居住するものと推測するに足る事実がないこと
※ 上記により国内に住所を有しない者と推定される個人と生計を一にする配偶者その他その者の扶養する親族が国外に居住する場合には、これらの者も国内に住所を有しない者と推定されます。

別紙 住所の推定」(国税庁)

業務の都合により1年未満で帰国したり、海外勤務が1年以上となった場合の居住者・非居住者の判定

「1年以上の海外勤務の予定」で非居住者と推計されたところ、結果的に「1年未満」で帰国した場合や、逆に「1年未満の海外勤務の予定」で居住者と推計されたところ、結果的に「1年以上」経ってから帰国した場合も、遡って区分が変更されることはなく、その日(事情が変わった日)以降から変更されます。

【照会】
 1年以上の期間の予定で海外支店勤務のため出国した者が、業務の都合により1年未満で国内勤務となり帰国した場合、所得税の納税義務者の区分はどうなりますか。
 また、1年未満の予定で出国した者が、業務の都合により海外の勤務期間が出国の日から1年以上にわたることとなった場合、所得税の納税義務者の区分はどうなりますか。

【回答】
 事情の変更が生じたときに居住者・非居住者の再判定を行うこととなりますが、遡及そきゅうして居住者・非居住者の区分が変更されることはありません。
 当初1年以上の海外勤務の予定で出国した者は、出国の時から非居住者として取り扱われますが、その勤務期間が1年未満となることが明らかとなった場合には、その明らかになった日以後は居住者となります(出国時に遡及して居住者となることはありません。)。
 また、当初1年未満の海外勤務の予定で出国した場合には、出国の時においては居住者として取り扱われますが、その後事情の変更があり海外勤務が1年以上となることが明らかとなった場合には、その明らかとなった日以後は非居住者となります。

業務の都合により1年未満で帰国したり、海外勤務が1年以上となった場合の居住者・非居住者の判定」(国税庁)

契約期間が1年未満の外国人プロスポーツ選手の居住形態(居住者・非居住者)の判定

居住者、非居住者の判断は個別の事情に応じて行われるため、明確に区別できないケースも多くあり、実際に申告漏れなどのケースも発生しています。

Jリーグ外国人選手 イニエスタら3選手、計21億円の所得申告漏れ」(note USCPAShinyaTominaga@”将来”税理士 2024/03/23)
女子プロゴルファーの李知姫選手が3億円申告漏れ 日本の「居住」認定 大阪国税局」(産経新聞 2015/12/09)

契約期間が1年未満の外国人プロスポーツ選手の居住形態(居住者・非居住者)の判定

【照会】
私は、海外出身で日本国籍は保有していません。今般、プロスポーツ選手として日本のチームと契約して来日し、日本国内で活動しています。
①日本でのプロ契約の期間は、11か月です。
②シーズン中、家族を帯同していません。
③シーズンオフには住居を引き払って帰国します。
このような場合、私の居住形態は、日本の居住者又は非居住者のどちらになるのでしょうか。

【回答】
居住者・非居住者の判定に当たっては、個々の事実関係を踏まえ、総合的に判断することとされているところ、上記のような場合、一般的には、非居住者に該当すると考えられます。

【解説】
所得税法においては、居住者とは、日本国内に「住所」があるか、または現在まで引き続いて1年以上「居所」がある個人をいい、「居住者」以外の個人を「非居住者」と規定しています。
ここでいう「住所」は、「各人の生活の本拠」をいい、国内に「生活の本拠」があるかどうかは、住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍等の客観的事実によって判断することとされています。
ご質問の場合、日本国籍を保有していないことや、
①日本でのプロ契約の期間は、11か月であること
②シーズン中、家族を帯同していないこと
③シーズンオフには住居を引き払って帰国すること
から、一般的には、国内に住所(生活の本拠)がある又は継続して1年以上の居所を有しているとはいえないため、非居住者に該当すると考えられます。
ただし、
契約期間が1年未満であっても、実質的に複数年間の契約と同視できるような場合
常に家族を帯同して行動していないとしても、家族の国内での滞在期間が長期間(シーズンの大半)である場合や、家族が日本で通学をするなど長期間の滞在を前提とした事実がある場合など、実質的に家族を帯同しているものと同視できるような場合
シーズンオフに帰国しているものの、その住居にあった荷物等について、その住居に置いたままにしている場合や、日本国内の事業者等に預けている場合
など、実質的に上記①~③に該当しないと認められる場合には、居住者に該当すると判断されることがあります。

契約期間が1年未満の外国人プロスポーツ選手の居住形態(居住者・非居住者)の判定」(国税庁)

<参考Webサイト>

その他の法律の住所

公職選挙法の住所

日本国民で満18歳以上であれば選挙権を得ることができます(ただし、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでの者など権利を失う条件に該当する者を除きます)。

しかし、市区町村長・市区町村議会議員の選挙は、「引き続き3か月以上その市区町村に住所のある者」、知事・都道府県議会議員の選挙は、「引き続き3か月以上その都道府県内の同一の市区町村に住所のある者等(※)」という条件があります。35

なお、実際に投票するためには、市区町村の選挙管理委員会が管理する選挙人名簿に登録されていなければならず、当該市町村の区域内に住所を有する年齢満18年以上の日本国民で、住民基本台帳に引き続き3ヵ月以上記録されている者が、選挙人名簿に登録されます。

公職選挙法第21条第1項

選挙人名簿の登録は、当該市町村の区域内に住所を有する年齢満十八年以上の日本国民(中略)で、その者に係る登録市町村等(中略)の住民票が作成された日(中略)から引き続き三箇月以上登録市町村等の住民基本台帳に記録されている者について行う。

また、被選挙人である市議県議に立候補するためは、選挙人と同じく「当該市町村の区域内に住所を有すること及び住民基本台帳に引き続き3か月以上記録されている者」という住所要件36 があり、立候補者の居住実態が争われることがあります。

選挙における住所に関する行政不服審査裁判では、「シャワーの回数」37 や「電気、ガスの使用料」、「居住地の広さ」38、「近所の住民の証言」など、細かく居住実態が確認されます。39

この期間は以前は「1年」や「半年」だった時期もありましたが、現在は「3か月」となっており、その根拠について、衆議院の委員会質疑で答弁されています。
(以下は口述筆記のため、若干文言を整理しています。)

第51回国会 衆議院 公職選挙法改正に関する調査特別委員会 第3号(昭和41年(1966年)4月5日)

山下委員
「同一市町村内に3か月住居すれば選挙権が得られる、こういう3か月という基準というものは一体どこにその基準の基礎を置くのでありますか。」

長野政府委員
「少なくとも3か月くらい住所を有する格好でなければ、自治体の責任のある有権者としての態度なり行動なりというものは、そのくらい経って初めて選挙権という資格を与えるにふさわしい行動なり何なりになってくるのではないかという最低限の期間だというふうに考えられておると思います。」
「もう一つは、選挙人名簿に登録をする観点から申しましても、少なくとも3か月くらい住所を有しているということでないと、その市町村の住民として選挙管理委員会が確認をする場合に非常に不明確になる場合が多いわけでございます。したがいまして、3か月という住所要件があって初めて住所の確認をするに足る資料なり生活実態なりというものがはっきりする。したがって、名簿調製の技術上の必要からも3か月というものが要求をされているというふうに、両方から3か月というものが考えられておると思います。」

第51回国会 衆議院 公職選挙法改正に関する調査特別委員会 第3号 昭和41年4月5日

このように、3か月」という期間は「住所(生活の本拠)」の要件として法律に定められているわけではありませんが、住所の有無を確認するに足る生活実態の期間の目安となっているという考え方もあるといえます

また審査請求や裁判では当然のことながら一定の期間の継続した居住実態が「住所(生活の本拠)」の判断に求められるわけですが、その最低限の期間とも考えられます。

(※)引き続き3か月以上その都道府県内の同一市区町村に住所を有していたことがあり、かつ、その後も引き続きその都道府県の区域に住所を有する者を含む。

相続税法の住所

相続税法も、所得税法と同様に、非居住者の場合に非課税になる場合があることから、裁判などでも「住所(生活の本拠)」の有無が争いとなることがあります。

なお、贈与税法という法律はなく、相続税法に含まれており、行政側が敗訴した裁判として有名な「武富士事件」では贈与における原告の住所が争われました。40

平成20(行ヒ)139 贈与税決定処分取消等請求事件 平成23年(2011年)2月18日(最高裁判所第二小法廷)

 判示事項
香港に赴任しつつ国内にも相応の日数滞在していた者が,国外財産の贈与を受けた時において,相続税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)1条の2第1号所定の贈与税の課税要件である国内(同法の施行地)における住所を有していたとはいえないとされた事例

裁判要旨
香港に赴任しつつ国内にも相応の日数滞在していた者が国外財産の贈与を受けた場合において,当該贈与を受けたのが上記赴任の開始から約2年半後のことであり,通算約3年半にわたる赴任期間中の約3分の2の日数を香港の居宅に滞在して過ごし,その間に現地での業務に従事していたなど判示の事実関係の下では,上記期間中の約4分の1の日数を国内の居宅に滞在して過ごし,その間に国内での業務に従事していた上,贈与税回避の目的の下に国内での滞在日数が多くなりすぎないよう調整していたとしても,その者は,当該贈与を受けた時において,相続税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)1条の2第1号所定の贈与税の課税要件である国内(同法の施行地)における住所を有していたということはできない。
(補足意見がある。)

平成20(行ヒ)139 贈与税決定処分取消等請求事件 平成23年2月18日」(最高裁判所第二小法廷)

この裁判では、居住日数などの居住の事実が考慮され、「日本に居宅を所有し、海外では賃貸の住居であること」「日本で受ける役員報酬が海外より高額であること」「長男は海外で同居しているが、生計を一にする妻や二女が日本に居住を続けていること」「多額の預貯金等の資産が日本にあること」「日本に住民票を残していること」など国側による「日本に生活の本拠がある」という主張が退けられました。

武富士事件」では、平成10年(1998年)3月及び平成11年(1999年)1 月の2回にわたる贈与が問題となりましたが、この判決後の平成15年(2003年)に法改正が行われ、「日本人が贈与により財産を取得した時において日本に住所を有しない場合でも、贈与をした者が当該贈与前5年以内のいずれかの時において日本に住所を有していたことがある場合は、贈与された資産の所在を問わず贈与税の対象となる」と定められたため、法改正後は本件のようなケースでは原則として贈与税が課されることになりました。41

(※)さらに平成29年(2017年)の改正で5年から10年に延長されて現在に至っています。42

外為法の住所

外為法は正式名称を「外国為替及び外国貿易法」といい、「わが国と外国との間の資金や財(モノ)、サービスの移動などの対外取引」や、「居住者間の外貨建て取引」などに適用される法律です。

外為法居住者住所だけでなく居所を有する場合も該当します。また、特徴として、「日本人は原則として、その住所又は居所を本邦内に有する居住者と推定」され、「外国人は、原則として非居住者と推定」されることがあげられます。

日本人の場合、非居住者となるのは「外国にある事務所に勤務する目的で出国し外国に滞在する者(期間の定めはありません)」。また、「2年以上外国に滞在する目的で出国し外国に滞在する者」及びこれら以外で「外国に2年以上滞在するに至つた者」と、「2年」という期間も特徴的です。

また非居住者が事務連絡や休暇等のために一時帰国した場合の扱いについても定められており、その滞在期間が6か月未満であれば非居住者のままであり、6か月以上居住者となります。

外国為替及び外国貿易法(抄)

(定義)
第六条 この法律又はこの法律に基づく命令において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一~四(略)
居住者」とは、本邦内に住所又は居所を有する自然人及び本邦内に主たる事務所を有する法人をいう。非居住者の本邦内の支店、出張所その他の事務所は、法律上代理権があると否とにかかわらず、その主たる事務所が外国にある場合においても居住者とみなす。
非居住者」とは、居住者以外の自然人及び法人をいう。
七~十六 (略)
2 居住者又は非居住者の区別が明白でない場合については、財務大臣の定めるところによる。

外国為替に関する省令

(居住性の認定の申請手続)
第三条 居住者又は非居住者の区別について法第六条第二項の規定に基づく財務大臣の認定を受けようとする者は、別紙様式第一による認定申請書二通を財務大臣に提出しなければならない。

「居住者又は非居住者の区別が明白でない場合については財務大臣の定めるところによる」とされており、下記の「外国為替法令の解釈及び運用について(通達)」(財務省)が示されています。

「外国為替法令の解釈及び運用について(通達)」(財務省)

(居住性の判定基準)
6-1-5、6
1 個人(3に掲げる者を除く。)
個人の居住性は、当該個人が本邦内に住所又は居所を有するか否かにより判定されるが、その判定が困難である場合もあるので、次に掲げるところにより、本邦内に住所又は居所を有するか否かを判定するものとする。

⑴ 本邦人の場合
イ 本邦人は、原則として、その住所又は居所を本邦内に有するものと推定し、居住者として取り扱うが、次に掲げる者については、その住所又は居所が外国にあるものと推定し、非居住者として取り扱う。
(イ) 外国にある事務所(本邦法人の海外支店等及び現地法人並びに国際機関を含む。)に勤務する目的で出国し外国に滞在する者
(ロ) 2年以上外国に滞在する目的で出国し外国に滞在する者
(ハ) (イ)又は(ロ)に掲げる者のほか、本邦出国後外国に2年以上滞在するに至つた者
(ニ) (イ)又は(ハ)までに掲げる者で、事務連絡、休暇等のため一時帰国し、その滞在期間が6月未満の者
ロ イにかかわらず、本邦の在外公館に勤務する目的で出国し外国に滞在する者は、居住者として取り扱う。

⑵ 外国人の場合
(省略)

⑶ 家族の居住性
(省略)

外国為替法令の解釈及び運用について(通達)」(財務省)

【参考Webサイト】

「生活の本拠」には「1年以上」必要なの?

住民基本台帳法の住所の認定

「実務要領(ぎょうせい)」に収められている判例で最も多いものは公職選挙法関係で、次が税法、その他には国民健康保険法などとなり、住民基本台帳法関連はわずかです。

しかし、住民基本台帳法上の住所については、転入届転出届の提出や住民票の取得など、とても身近な手続きです。

国の通知では「住所の意義および認定」を以下のように定めています。

住民基本台帳事務処理要領(通知)

住民基本台帳法上の住民の住所は、地方自治法第10条の住民としての住所と同一であり、各人の生活の本拠をいうものである(法第4条)。
住所の認定にあたっては、客観的居住の事実を基礎とし、これに当該居住者の主観的居住意思を総合して決定する。住所の認定に疑義または争いがあるときは、事実の調査を行い、関係市町村とも協議のうえ、その真実の発見に努めるものとする。(以下省略)

行政実例では、以下のように、「1年」などの期間に関する言及がないものもあります。

受刑者の住所に関する行政実例

単独で世帯を構成していた受刑者の住所は、刑務所の所在地にあると認められる。」(昭和46年3月31日自治振第128号)〔要領〕

「刑務所に入所するまで家族と住所を一にしていた者の住所については、原則として家族の居住地にある。」(昭和46年3月31日自治振第128号)〔要領〕

<参考Webサイト>

判例では「1年」を「住所(生活の本拠)」の要件としているか?

下記のような最高裁判決があります。

寄宿舎(寮)に住む学生の住所に関する判例

最も短期の者でも一年間在寮の予定の下に右寮に居住している場合におけるそれらの者の住所は、寄宿舎所在地にある。(最高裁昭 29.10.20)〔選挙法〕〔要領〕

基本選挙人名簿異議決定取消請求 (昭和29年(オ)412)」(最高裁判所判例集

この判例の裁判要旨です。

大学の学生が大学附属の寄宿舎で起臥きがし、実家からの距離が遠く通学が不可能ないし困難なため、(中略)最も長期の者は四年間、最も短期の者でも一年間在寮の予定の下に右寮に居住し名簿調製期日までに最も長期の者は約三年、最も短期の者でも五ケ月間を経過しており、休暇に際してはその全期間またはその一部を郷里またはそれ以外の親戚の許に帰省するけれども、配偶者があるわけでもなく、また、管理すべき財産を持つているわけでもないので、従って休暇以外は、しばしば実家に帰る必要もなく、またその事実もなく、主食の配給も特別の場合を除いては寄宿舎所在村で受けており、(中略)それらの者については、選挙人名簿調製期日まで三箇月間は同村内に住所があったものと解するを相当とする。

このように、期間」は「住所(生活の本拠)」を認定するうえでの判断基準の一つとされています。

「1年以上」に触れられている行政実例

1年問題」に関する行政実例を見てみます。

以下の「職業訓練所への入所」や「入院患者」などのほか、「寄宿舎の学生」、「会社の研修所で合宿している者」、「児童福祉施設等の施設に入所する者」、「自衛隊学校の入校生」などについても同様に「1年」という基準が示されています。

ただし、「原則として」などが付記されており、絶対的な要件でないことは注意が必要です。

「1年」という期間に触れられている行政実例

問2 職業訓練法に定める職業訓練所に入所し、家族と離れて寄宿舎に居住しながら職業訓練をうけている訓練生の住所はどこにあると認められるか。
 特段の事情のない限り、訓練期間が1年未満の者については入所前の居住地、 訓練期間が1年以上の者については寄宿舎にあると認められる。(昭和43年3月26日自治振第41号)〔要領〕

問3 病院、療養所等に入院、入所している者の住所は家族のもとにあると認定することはどうか。
 医師の診断により1年以上の長期、かつ、継続的な入院治療を要すると認められる場合を除き、原則として家族の居住地にある。(昭和46年3月31日自治振第128号 振興課長から各都道府県総務部長あて回答)

「入院患者である夫の看病のために病院に寝泊りし、生活を営んでいる妻について、妻の生活実態から、病院が生活の本拠と判断され、かつ1年以上居住することになるのであれば、当該病院を住所地と認定して差し支えないものである。」(昭和59年2月3日 愛知県地方課あて)〔要領〕

海外出張者や留学生の住所に関する行政実例は以下のとおりです。

海外出張者の住所について
「海外出張者の住所は、出張の期間が1年以上にわたる場合を除き、原則として家族の居住地にある。」(昭和46年3月31日自治振第128号)〔要領〕

外国に留学する学生の住所について
Q
 昭和42年4月~昭和43年3月アメリカに留学する学生で昭和42年6月満20歳に達した者が居るが選挙人名簿の登録に関し、この者の住所は国内にあると解すべきか。

A 設問のように外国における居住期間が1年を越えず、かつ外国において全く独立の生計を営んでいる等特別の事情がない限り、国内に住所を有するものと解する。(昭和42年9月8日)〔要領〕

以下の「国民健康保険」に関する質疑応答では、上記の昭和46年の通知を根拠とした回答となっています。

「1年以上の海外生活者と国保の適用(事例問答)」〔国民健康保険関係〕

[問]
本市の住民Aは、外国漁船の指導員として隔年おきに、おおむね1年乗船し、日本を離れていますが、妻、子供2人は本市に居住しています。Aは、社会保険等に加入していませんので、現在、国民健康保険の被保険者となっていますが、このような取扱いで良いでしょうか。

[回答]
国民健康保険の被保険者となるには、市町村の区域内に住所を有することが要件の1つである(法第5条)。そこでAがT市に住所を有しているかを考えてみると、住民基本台帳法においては、1年以上海外にいる場合は転出の扱いをすることになつており(自治省振興課長通知・昭和46年3月31日自治振第128号参照)、Aが外国漁船に1年以上乗り組む者であれば、AはT市のみならず日本には住所を有しないことになるので、国民健康保険の被保険者となることができない。

この場合、Aの妻子は国民健康保険の被保険者となるが、世帯主は妻になると解する。なぜなら、Aと妻子は居住をともにしておらず、同一世帯を構成していないので、Aは生活費を仕送りしている場合でも、海外にいる間は、妻子との関係で世帯主とはなり得ないからである。

なお、Aが海外にいる間が1年未満である場合は、Aが世帯主となって被保険者となることは当然のことである。

このように、行政実例では国内の住所および海外転出に関して、「原則として」などと付記されているものの明確に「1年」という基準が示されています

なお、所得税法の住所の推計同様に、ここでの「1年」という期間は、単に「意思」のみではなく、仕事や留学など何らかの客観的事実に基づく予定等となっています。

ワーキングホリデーは1年以上でも住所を抜けない?

「ワーキングホリデー」の海外転出時の取扱いに関する案内

ワーキングホリデーの場合の国外転出届は、「1年を超える滞在予定の場合は、住民票を抜く必要がある」と案内している留学情報サイトがあります。

ワーホリ期間が1年を超える人の場合は別です。ワーホリビザが2年であるイギリスや、条件によって延長できるオーストラリアやニュージーランドへのワーホリをする人で、1年を超える滞在を考えている人は、住民票を抜いていく必要があります。(某留学情報サイト)

また、「1年」に触れず、「国外転出届は必ずしも必要ではない」とするWebサイトもあります。

ワーキングホリデーで海外へ出国される場合の転出届は、必ずしも必要ではありません。(某留学情報サイト)

一方、「1年以上の予定であっても出国前の日本に住所が残る」と案内している自治体があります。

ワーキング・ホリデーで海外へ出国(転出)した場合、ビザの区分が観光ビザの一種であり、その間の海外での滞在は「居住」ではなく「旅行」としてみなされます。そのため、賦課期日において1年以上の予定で出国中であっても、出国前の市区町村に住所があるものとして取り扱われ課税されます。(品川区)

ワーキング・ホリデーで海外へ出国した場合、ビザの区分が観光ビザの一種であり、その間の海外での滞在は居住ではなく旅行とみなされます。そのため、1月1日において1年以上の予定で出国中であっても、出国前の市区町村に住所があるものと取り扱われ課税されます。ワーキング・ホリデーで長期間海外へ出国される方は納税管理人を指定してください。(大阪府箕面市)

ワーキング・ホリデーで海外へ出国(転出)した場合は、「旅行」としてみなされるため、賦課期日において1年以上の予定で出国中であっても、出国前の市区町村に住所があるものとして取り扱われ課税されます。(岡山市)

いずれも、「1年以上の予定であっても出国前の市町村に住所がある」理由は、滞在期間にかかわらず、ワーキングホリデー観光ビザの一種であり、旅行であるためとされ、特に課税に関する注意が促されています。

案内をしている市町村の数はそれほど多くはありませんが、表現が似ているものもあるので、行政実例など何らかの根拠があるのかもしれません。

ワーキングホリデーの滞在は「観光ビザ」

日本は30か国とワーキングホリデーに関する協定を結んでいます。43 しかし、多くの国では1年を期限としており、オーストラリアでは1年のビザを3回まで更新が可能、ニュージーランドでは1年で3か月の条件付き延長が可能、イギリスでは2年間など、1年以上滞在できる国は限られています。

ビザの種類など制度は国によって異なりますが、税法上は、ほとんどのワーキングホリデーメーカー(ワーキングホリデービザを使って海外に滞在している人)は現地での”税法上の居住者”には該当しないようです。44

「1年以上」外国に滞在しても「観光ビザ」なら日本に「住所」がある?

例えば、日本国内で自宅などを「住所(生活の本拠)」としながら、そこを拠点に全国を旅行することは考えられます。

自治体の案内では、ビザ観光ビザの一種であることから旅行であり、居住実態に関わらず「生活の本拠」ではないとされていますが、判例行政実例では、ビザの種類だけで「住所(生活の本拠)と判断されるような例は見られません。

フィリピンに3年間滞在しても日本に「生活の本拠」がある?

フリーランスなど、フィリピンでリモートワークをしている方もいるかもしれません。

フィリピンでは、2024年7月にデジタルノマドビザの発行が決定しましたが、現在はまだ施行されておらず、「観光ビザ(短期渡航ビザ:9A )」での滞在となっています。45

フィリピンでの滞在は、日本人なら商用または観光の目的であれば、入国する際のビザは不要で、最大で30日間フィリピンに滞在することができます(30日間無査証短期滞在)。その後、観光ビザ(非移民ビザ:短期渡航者 9(A))で最長3年まで継続して滞在できます。

ワーキングホリデーについて、「日本に住所がある」としている市町村の見解が気になるところです。

<参考サイト>

外国人はなぜ3か月で住民登録できるの?

住民基本台帳における外国人の住所

平成24年(2012年)に外国人登録法が廃止されるとともに改正住民基本台帳法が施行され、3か月を超える在留資格を持つ中長期在留者(※1)」などの外国人住民住民登録の対象となりました。46

住民基本台帳法の対象者は、日本人および外国人を問わず、区域に住所のある者で、そのうえで外国人については適用除外の規定で「中長期在留者(※1)特別永住者など以外の者」は適用しないという規定になっています。

地方自治法

第十条 市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。

住民基本台帳法

第三十九条(適用除外) 
「この法律は、日本の国籍を有しない者のうち第三十条の四十五の表の上欄に掲げる者以外のものその他政令で定める者については、適用しない。

住民基本台帳法の「第三十条の四十五の上欄に掲げるもの」は以下の者です。つまり、以下の者以外は、住所がある場合でも、住民基本台帳法の対象外となります。

  • 中長期在留者(※1)(入管法第十九条の三に規定する中長期在留者)
  • 特別永住者(日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(「入管特例法」)に定める特別永住者)
  • 一時庇護ひご許可者(入管法第十八条の二第一項の許可を受けた者)又は仮滞在許可者(入管法第六十一条の二の四第一項の許可を受けた者)
  • 出生による経過滞在者(国内において出生した日本の国籍を有しない者のうち入管法第二十二条の二第一項の規定により在留することができるもの)又は国籍喪失による経過滞在者(日本の国籍を失った者のうち同項の規定により在留することができるもの。)

中長期在留者(※1)は3か月を超えた在留資格を持った者です。

つまり、法律では、外国人が3か月を超える在留資格を持つことが、「住所(生活の本拠)」の要件であるとは書かれていません

住所(生活の本拠)」がある者のなかに短期滞在者や不法滞在者(※2)がいるかもしれないけれど、いずれにせよ適用除外規定で対象外とする。という条文構成になっています。

(※1)中長期在留者」 在留管理制度の対象者となる中長期在留者とは、具体的には次の(1)~(6)のいずれにも該当しない外国人です。
(1)「3月」以下の在留期間が決定された人
(2)「外交」又は「公用」の在留資格が決定された人
(3)特別永住者(特別永住者には「特別永住者証明書」が交付されます。)
(4)「短期滞在」の在留資格が決定された人
(5)「特定活動」の在留資格が決定された、台湾日本関係協会の本邦の事務所(台北駐日経済文化代表処等)若しくは駐日パレスチナ総代表部の職員又はその家族の方
(6)在留資格を有しない人

(※2)不法滞在者」  不法滞在者は「不法残留者」と「不法入国者」を含みます。平成16年(2004年)1月15日の最高裁判決では不法残留者も住所を有する場合があるとされました。
 「我が国に不法に残留している外国人が国民健康保険法5条所定の「住所を有する者」に該当するとされた事例」(最高裁判所)
社会保障法判例 不法残留外国人が国民健康保険法第5条所定の「住所を有する者」に該当するとされた事例」(国立社会保障・人口問題研究所)

日本人は「1年以上」なのに外国人は「3か月超」?

改正された住民基本台帳法では、外国人を例外規定のような形で適用するのではなく、日本人と同様に「住所を有すること」を要件とした上で、中長期在留者などを除いた短期滞在者などを適用除外とする規定となっています。

ですから、「3か月を超える」在留期間の在留資格を有し、その区域に「居所」があったとしも「住所(生活の本拠)」でないというケースはあり得るかもしれません。

しかし、現実的には「3か月を超える」在留期間がある者は「住所(生活の本拠)」が認められているとともに、後述するように適正な居住管理の必要性から、むしろ住民登録を義務付けているといえます。

例えば、住民基本台帳と同様に規定されている国民健康保険の案内では次のようなものもあります

【質問】外国人なのですが、国民健康保険に加入できますか
【回答】 在留資格の期間が3カ月以上であれば、強制加入となります。
しかし、旅行者などの短期滞在者(在留期間3カ月未満)の場合は加入することはできません。
なお、在留資格が興行、文化活動、就学、研修、家族滞在、特定活動の場合には、在留期間が3カ月未満でも、3カ月以上の滞在が証明できる書類があるときは加入ができます。
※在留期間3カ月が判断基準となりますが、詳しくは、保険年金課または各支所へ問い合わせてください。(東近江市)

なぜ3か月(中長期在留者)を対象にしたのか?

では、何故「3か月」と定められたのでしょう?

規制改革推進のための3か年計画(平成19年(2007年)6月22日閣議決定)」47 に基づき、海外人材の受入れの促進という観点から、外国人登録制度を廃止し、適法な在留外国人も市町村が住民として正確な情報を保有して、その居住関係を把握するために、台帳制度の創設が検討されることになりました。48

「規制改革推進のための3か年計画(平成19年(2009年)6月22日閣議決定) 9 国際経済連携」

外国人の身分関係や在留に係る規制については、原則として出入国管理及び難民認定法に集約し、現行の外国人登録制度は、国及び地方公共団体の財政負担を軽減しつつ、市町村が外国人についても住民として正確な情報を保有して、その居住関係を把握する法的根拠を整備する観点から、住民基本台帳制度も参考とし、適法な在留外国人の台帳制度へと改編する。

結局、新たな「台帳制度」は設けず、外国人も住民基本台帳の対象とされることになります。

法改正時の国会答弁では、外国人住民に係る住民票を作成する対象者について、3か月を超える中長期在留者に限定されている理由に対し、以下のような回答がされています。

第171回国会 衆議院 総務委員会 第18号(平成21年(2009年)5月12日(火曜日))

伊藤(渉)委員
重ねて、外国人住民に係る住民票を作成する対象者について、3か月を超える中長期在留者に限定されておりますけれども、この理由は何か。この点をまず総務省にお伺いします。

久元政府参考人
住民基本台帳制度の目的でありますが、これは、市町村長が住民の居住関係の公証など住民に関する事務の処理の基礎として、住民に関する記録を正確かつ統一的に行うということを目的としております。
 こうした制度趣旨や、外国人登録制度を見直して適法な在留外国人の台帳制度へと改編することを定めた規制改革推進のための三カ年計画、これは平成20年3月25日に閣議決定されたものでありますが、こういう閣議決定を踏まえまして、観光目的で入国した短期滞在者等を除く、適法に3か月を超えて在留する外国人を住民基本台帳の適用対象としているところでございます。

第171回国会 総務委員会 第18号(平成21年5月12日(火曜日)」(衆議院)

住民登録外国人登録に代わる外国人の居住管理の手段という側面があり、廃止された外国人登録制度の対象者であった「3か月を超えて滞在する中長期在留者」は住民登録においても引き続き対象者とされた一方、外国人登録制度の対象外だった短期滞在者住民登録でも対象外とされました。

国民健康保険適用の外国人の住所要件は「1年以上」から「3か月超」に?

現在の国保の外国人の適用については次のような条文になっています。

国民健康保険法

(第5条(被保険者))
「都道府県の区域内に住所を有する者は、当該都道府県が当該都道府県内の市町村とともに行う国民健康保険の被保険者とする。」

適用除外とされる者は以下のとおりです。

(第6条(適用除外))
前条の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当する者は、都道府県が当該都道府県内の市町村とともに行う国民健康保険(以下「都道府県等が行う国民健康保険」という。)の被保険者としない。
一健康保険法の規定による被保険者。ただし、同法第三条第二項の規定による日雇特例被保険者を除く。
(以下二~九まで省略)
十国民健康保険組合の被保険者
十一その他特別の理由がある者で厚生労働省令で定めるもの

国民健康保険法施行規則 第1条(法第六条第十一号の厚生労働省令で定める者)

第一条国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号。以下「法」という。)第六条第十一号に規定する厚生労働省令で定める者は、次に掲げる者とする。
(以下省略)

この適用除外とされる「次に掲げる者」は、条文だと非常に分かりにくいのでホームページに掲載されている案内をご覧ください。

外国人の方の国民健康保険の加入について(さいたま市)

外国人の方の加入要件
さいたま市にお住まいの外国人の方で、次のいずれかに該当する方を除き、国民健康保険に加入しなければなりません。

  • 在留期間が3か月以下の方(
    ):在留期間が3か月以下で住民登録ができない外国人の方でも、在留資格が「興行」・「技能実習」・「家族滞在」・「公用」・「特定活動」(医療を受ける活動等、観光・保養を目的とする活動等を除く)の方で、資料により3か月を超えて滞在すると認められる方は加入できる場合がありますので、各区役所保険年金課(国保係)にご相談ください。
  • 在留資格が「短期滞在」又は「外交」の方
  • 在留資格が「特定活動」の方で、”医療を受ける活動”又は”医療を受ける方の日常生活上の世話をする活動”を目的として滞在する方
  • 在留資格が「特定活動」の方で、”観光、保養その他これらに類似する活動を行う18歳以上の方”または”その方と同行する外国人配偶者の方”
  • 日本と医療保険を含む社会保障協定を結んでいる国の方で、本国政府からの社会保険加入証明書(適用証明書)の交付を受けている方
  • 職場の健康保険に加入している方
  • 生活保護を受けている方
  • 75歳以上の方(後期高齢者医療制度の対象のため)
  • 不法滞在など、在留資格のない方

外国人の方の国民健康保険の加入について」(さいたま市)

このように、外国人も日本人と同様に「区域内に住所を有する」という要件があり、そこから「中長期在留者」でない「在留期間が3か月以下の者」などが適用除外になっています。

外国人が住民登録の対象でなかった時代の外国人の資格要件も、現在と同じで「区域に住所を有する」ことでした。

しかし、現在と異なるのは、法令ではなく通知により、「住所有していること」の要件として「1年以上の在留資格(期間)」があること、あるいは「1年以上の滞在が見込まれる者」としていたことです。

「外国人に対する国民健康保険の適用について(平成4年(1992年)3月31日通知)」(厚生労働省)<抜粋>

国民健康保険の適用対象となる外国人は、外国人登録法(中略)に基づく登録を行っているものであり、入国時において、出入国管理及び難民認定法(以下入管法という)(中略)の規定により決定された入国当初の在留期間が一年以上であるものであること。
2 入管法第二条の二の規定により決定された入国当初の在留期間が一年未満であっても、外国人登録法に基づく登録を行っており、入国時において、我が国への入国目的、入国後の生活実態等を勘案し、一年以上我が国に滞在すると認められる者も国民健康保険の適用対象となるが、一年以上我が国に滞在すると認められるか否かの判断は、別紙に掲げる資料等を参考にして行うものであること。
ただし、一年未満の滞在予定であった者が、在留期間の更新を行う場合には、その時点において、前記1または2の基準に適合するか否かを判断するものであり、当該外国人が、在留期間の更新により、結果的に、事実上我が国に一年以上滞在することとなったとしても、国民健康保険の適用対象とならないものであること。

外国人に対する国民健康保険の適用について(平成4年(1992年)3月31日通知)」(厚生労働省)<抜粋>

ですから、法改正前は3か月を超える在留期間がある者でも、「国保」の適用にならない外国人がいました。

この制度の切り替え時期の案内が以下のようになっています。

外国籍の皆さまへ,2012年7月9日から国民健康保険の加入要件が変わります(京都市)

外国籍の皆さまへ,2012年7月9日から、国民健康保険の加入要件が変わります。
  住民基本台帳法等の改正により、外国人登録制度が廃止され、3箇月を超えて日本に滞在する外国籍の方に住民票が作成されることとなります。これに伴い、国民健康保険の加入要件が次のとおり変わります。
7月8日まで 外国人登録を行っていて、日本に1年以上滞在する方
7月9日から 住民票が作成される方 
※住民票が作成されない方でも、在留資格が【興行】【技能実習】【家族滞在】【特定活動】【公用】で3箇月を超えて日本に滞在する予定である場合、日本における活動内容及び期間を証明する書類をお持ちいただければ国民健康保険に加入することができます。
加入の届出
以前から1年以上の在留期間で日本に滞在していて、国民健康保険に加入されていない方は、速やかに加入の届出をしてください。
 これまで、1年未満の在留期間のため国民健康保険に加入していなかった方は、2012年7月9日から同年7月23日までに住所地の区役所・支所保険年金課窓口(京北地域にお住まいの方は京北出張所保健福祉第一担当)において加入の届出が必要となります。(京都市)

このように、「住所を有する」という法律の条文(要件)は変わらないにもかかわらず、実際には、3か月を超えて1年未満の在留期間や滞在予定であった人の中で、「住所を有しない」という扱いから「住所を有する」とされたケースが生じたのです。

海外に滞在する場合も「住所」はひとつ?

外国人の「住所(生活の本拠)」はひとつ?

先に述べたように、「一つの法律関係において住所は一つ」であるというのが判例や通説です。一方で、法律は、「原則として、日本国内の領土の全域にその効力を及ぼす」とされます。49

では、これは「あくまで国内に一つということ」を意味し、日本と海外の両方に住所があるということはあり得るのでしょうか?

外国人を住民基本台帳法の対象とする法改正の前に、外国人が海外に「住所(生活の本拠)」を有している場合について検討されていました

(当時はまだ、住民基本台帳への登録ではなく、外国人台帳制度の創設が検討されていました。)

「外国人台帳制度に関する懇談会(平成20年(2008年)12月)」(総務省)

海外に家族を残して来日しているケースなど、海外においても生活の本拠を有しているケースも想定される。しかし、本制度における住所については、国内における権利義務関係を一義的に定めるものであることから、国内の住所について、その存否や位置を認定する必要がある。そこで、国内における生活の本拠住所としてとらえることとする。

外国人台帳制度に関する懇談会(平成20年12月)」(総務省)

このことを踏まえて、記載方法に関しても議論されていました。

住所・住民概念について

母国にも生活の本拠を有する可能性があるため、外国人の住民と日本国内の市町村との権利義務を決定づけるため、「本邦における住所」などの明確化が必要か。

住所・住民概念について」(総務省)

結果的に、法律に「本邦における」という記載は盛り込まれませんでしたが、外国人の場合、本国と日本の両方に生活の本拠があるケースが想定されていたことが伺えます。

国内の「デュアルライフ(二拠点生活)」と「住所」

昔から、裕福層などは「夏は避暑地で別荘暮らし」という生活スタイルはありましたが、最近議論になっているデュアルライフでは、季節だけでなく、週末を郊外や地方で過ごしたり、テレワーク(リモートワーク)により、住民票を置いている自宅ではなく、地方の借家で仕事をするなど、生活スタイルが多様化しています。

このような状況において、「居住実態を登録・把握することで、それに合った地方納税を可能にする仕組み、例えば週末に居住する自治体への部分的な地方税納税ができないか」や、「二地域居住を前提とした地方税の在り方、義務教育・高校教育の在り方を検討するなど、人の流れを作り出す自治体を後押しすべき」といった意見が提起されています。50

国内における二重の住民登録は、東日本大震災における東京電力福島第一原子力発電所の事故による長期避難者などでも問題となりましたが、選挙権の問題など、多くの課題があり、具体的な検討には至っていません。51

しかし、このような問題提起を受けて、2011年に施行された原発事故避難者事務処理特例法では、指定を受けた市町村から住民票を移さずに避難した住民に対し、要介護認定などの医療福祉関係や児童生徒の就学等の教育関係の事務(医療・福祉および教育関係の10法律219事務)が特例事務として避難先の市町村で受けることができるようになっています。52

海外から帰国して結果的に1年間滞在しなかった場合、住民票は遡って取り消されるの?

所得税法上の「居住者」「非居住者」の扱いは遡及しない

まず、所得税法を見てみますが、居住者非居住者の扱いは以下のようになっています。

業務の都合により1年未満で帰国したり、海外勤務が1年以上となった場合の居住者・非居住者の判定

【照会要旨】
 1年以上の期間の予定で海外支店勤務のため出国した者が、業務の都合により1年未満で国内勤務となり帰国した場合、所得税の納税義務者の区分はどうなりますか。
 また、1年未満の予定で出国した者が、業務の都合により海外の勤務期間が出国の日から1年以上にわたることとなった場合、所得税の納税義務者の区分はどうなりますか。

【回答要旨】
 事情の変更が生じたときに居住者・非居住者の再判定を行うこととなりますが、遡及そきゅうして居住者・非居住者の区分が変更されることはありません。
 当初1年以上の海外勤務の予定で出国した者は、出国の時から非居住者として取り扱われますが、その勤務期間が1年未満となることが明らかとなった場合には、その明らかになった日以後は居住者となります(出国時に遡及して居住者となることはありません。)。
 また、当初1年未満の海外勤務の予定で出国した場合には、出国の時においては居住者として取り扱われますが、その後事情の変更があり海外勤務が1年以上となることが明らかとなった場合には、その明らかとなった日以後は非居住者となります。

業務の都合により1年未満で帰国したり、海外勤務が1年以上となった場合の居住者・非居住者の判定」(国税庁)(所得税法施行令第14条、15条)

つまり、住所の推定により決定された場合は遡って修正されることはありません。(ただし、前述の通り、この推定は単に「意思」のみではなく、客観的事実に基づきます。)

事実発生主義とは

国民健康保険(国保)」の資格届出によって取得するのではなく、下記の資格要件を満たした場合に得ます。これを「事実発生主義」といいます。

(もっとも、実務的には、基本的に届出がないと市町村は資格を把握できないので、届出が事実発生日より遅れた場合は、遡って資格を取得することになります。)

国民健康保険法

(資格取得の時期)
第七条 都道府県等が行う国民健康保険の被保険者は、都道府県の区域内に住所を有するに至つた日又は前条各号のいずれにも該当しなくなつた日から、その資格を取得する。

このことについて、下記の行政実例があります。(内容は一部省略しています)

届出を怠った場合の療養費の支給について(昭和36年1月30日)

(別紙1)
(省略)被保険者の資格取得は事実発生主義をとっているので居住の事実のその時期に遡及して保険税を算定賦課しているが、これに伴い療養の給付を受ける権利についても被保険者資格取得の時期より当然有することとなるので、その間に給付事由があれば療養費払の申請をすることとなる。
この場合法第五十四条に該当しないので不支給と決定すべきと思われるが実際問題として国保の円滑なる実施と運営の観点から支給することが必要な場合もあるのでケースバイケースで処理してよろしいか御教示願いたい。(以下略)

(別紙2)
被保険者の資格を取得した日からその届出があつた日までの期間にかかる療養についての療養費の支給の申請があつた場合において、世帯主が資格取得の届出をしなかったことについてやむを得ない理由があると認められるときは、療養費の支給をするものであること。

届出を怠った場合の療養費の支給について」(保険発第九号の二各都道府県民生部(局)長(山口県を除く)あて厚生省保険局国民健康保険課長通知)

「届出」と実際の日が異なる4つのパターン

住民基本台帳法に基づく「住民登録」も「事実発生主義」です。

以下のような場合に、どのように事務処理されるのか、4つのパターンを市町村などの案内とあわせ説明します。

  1.  日本に住所(生活の本拠)があった者が、1年以上の海外滞在予定で国外転出届を出して転出したが、1年未満で帰国し、当該住所に再び転入した。
  2.  日本に住所(生活の本拠)がある者が、1年未満の海外滞在予定で国外転出届を出さずに出国したが、海外での滞在期間が1年以上になった。
  3.  海外に住所(生活の本拠)があった者が、1年以上の日本滞在予定で海外からの転入届を出したが、1年未満で海外に帰国(国外転出)した。
  4.  海外に住所(生活の本拠)がある者が、1年未満の日本滞在予定で海外からの転入届を出さなかったが、日本での滞在期間が1年以上になった。

1. 日本に住所(生活の本拠)があった者が、1年以上の海外滞在予定で国外転出届を出して転出したが、1年未満で帰国し、当該住所に再び転入した場合

ワーホリで1年滞在した後に他の外国へ行く方など、トータルで海外での滞在が1年を越える予定の場合は、手続きを行っておきましょう。もし1年以上滞在予定として海外転出届を提出し、万が一1年未満で帰国しても罰則はありませんし、まったく問題ありません。(某ワーホリ留学サイト)

1年以上の留学予定のため、住民票を外した後に、予定を変更し1年未満で帰国後、転入届を出しても特に罰則はありません(意図的に悪用するのはいけませんが)。(某留学サイト)

「1年以上の海外滞在予定」などの理由で国外転出届を出したということは、日本から「住所(生活の本拠)」を海外に移したということです。

その後、1年未満で帰国した際に、再び日本に「住所(生活の本拠)」を移すのであれば、一般的に、それまでの間が1年未満であっても、その間は海外に「住所(生活の本拠)」があり、日本には「住所(生活の本拠)」はなかったと考えられるので、帰国した日から「転入届」により「住民登録」をすればよく、海外転出時に遡って「国外転出届」を取り消す必要はありません。

仮に、海外での滞在期間が非常に短かく、その期間が「住所(生活の本拠)」としての継続性がなかったような場合は、「日本と海外の両方に住所がなかった」状態だったのか、もともと「日本に住所があった」のかが判断されます。もし、後者であれば、当初の「国外転出届」を訂正するなどして、遡及そきゅうして住民登録することになりますが、一般的には意思を考慮すると、前者として扱われると思われます。

2.  日本に住所(生活の本拠)がある者が、1年未満の海外滞在予定で国外転出届を出さずに出国したが、海外での滞在期間が1年以上になった場合

外国での滞在期間が短期間(1年未満)である場合は、転出の届出をする必要はありません。その後の事情で外国での滞在期間が1年以上にわたるようになったときは、その時点で転出の届出をしてください。(北見市)

海外転出時に「1年未満の滞在予定」など、日本に「住所(生活の本拠)」を残すという意思を持って出国した場合、海外の滞在地はあくまで「居所」として居住を開始していることになります。

基本的には、海外の滞在が1年以上になると判断した時点など、海外の滞在地を「住所(生活の本拠)」とする「意思」をもって住み始めた時点から、その海外の滞在地は「居所」から「住所(生活の本拠)」となり、一方の日本の「住所」はその時点から「住所(生活の本拠)」ではなくなると考えられます。ですから、そのタイミングで、「国外転出届」を出して、住所の移転を行うことになると思われます。

3.  海外に住所(生活の本拠)があった者が、1年以上の日本滞在予定で海外からの転入届を出したが、1年未満で海外に帰国(国外転出)した場合

厚木市での滞在期間が1年未満の一時帰国又は一時滞在である場合は、「生活の本拠」(住所)は国外にあるものとして取り扱いますので、転入手続は不要です。
滞在期間が1年未満であっても、特別な理由がある方については、転入届を受理できる場合がありますので、市民課までご相談ください。
転入から1年未満で、再度国外等への転出を届け出た場合、本来であれば、厚木市に住民登録する必要がなかった方であるとみなし、転入日に遡って、住民登録の取り消しをさせていただく場合があります。(厚木市)

海外からの転入届を出したものの、結果的に1年未満の滞在だった場合、厚木市は「住民票が取り消されることもありうる」と案内をしています。

日本に「1年以上滞在する」予定など、日本を「住所(生活の本拠)」とする意思を持って転入届が出され、日本での居住が始まり、1年未満で帰国(国外転出)により「住所(生活の本拠)」でなくなった場合は、それまでの間が住所(生活の本拠)であったのか、それとも居所であったのかが問題となります。

その居住が「住所(生活の本拠)」と認められる客観的居住の事実があれば、遡って取り消されることはありません。
しかし、その時点までの居住が「住所(生活の本拠)」でなく、居所であるのであれば、(本人が修正の届出を出すか、職権消除しょうじょ(※)による修正などにより)遡って住民登録は取り消されることになります。

これは、後述する「一時帰国」における問題と関連するパターンになるので、そこで詳しく述べたいと思います。

4.  海外に住所(生活の本拠)がある者が、1年未満の日本滞在予定で海外からの転入届を出さなかったが、日本での滞在期間が1年以上になった場合

これについては、特にネットで案内はみつかりませんでした。

転入届」を出さずに滞在した「居所」において、滞在している間に1年以上滞在する見込みとなったり、海外への帰国の予定がなくなるなどにより、海外の「住所(生活の本拠)」から当該「居所」に「住所(生活の本拠)」を移すのであれば、基本的には、その意思を持った時点から転入届により住民登録をすることになると考えられ、帰国時点に遡って転入扱いする必要はないと思われます。

(※)「職権消除しょっけんしょうじょ」 職権消除は市区町村が住民基本台帳法第8条による権限に基づき、住民票に記載されている情報と実態が一致していない場合に住民票を消除することです。

住民基本台帳法

(住民票の記載等)
第八条 住民票の記載、消除又は記載の修正(以下「住民票の記載等」という。)は、第三十条の三第一項及び第二項、第三十条の四第三項並びに第三十条の五の規定によるほか、政令で定めるところにより、第四章若しくは第四章の四の規定による届出に基づき、又は職権で行うものとする。

「一時帰国」だと「転入届」は受け付けられないの?

以上の説明を踏まえて、一時帰国の場合、役所に転入届が受理されない(拒否される)場合について見てみます。

「一時帰国」の意味

まず「一時帰国」という言葉の定義について考えてみます。

辞書では、一時帰国は「外国で暮らす人が諸事情により一時的に母国に戻ること」(デジタル大辞泉[小学館])という意味です。

住民基本台帳法には一時帰国という言葉は出てきませんし、役所の案内等でも説明はありません。

辞書の定義を補足するならば、「国外の『住所(生活の本拠)』で暮らす人が、その住所を残したまま、諸事情により一時的に帰国して滞在すること」といったところでしょうか。

海外に住所を残したまま」と「一時的」がポイントとなります。

「一時帰国」と「生活の本拠」

国内で、自宅の改築や災害などにより一時的に転居する仮住まいや、避暑など、ある季節だけ別荘に滞在する場合、あるいは海外旅行で短期間外国に滞在する場合などは、その滞在が一時的なもので、元の「住所(生活の本拠)」戻る前提であれば、特別な理由がない限り、一般的には「住所(生活の本拠)」は動かさないものと考えられます。

また、日本と海外でも生活の本拠が一つとするならば、海外に「住所(生活の本拠)」を残したままの一時帰国であれば、当然ながら日本に生活の本拠はなく、滞在地は居所となります。

ただし、日本に滞在する期間が長くなれば、その滞在地が「住所(生活の本拠)」となる可能性もあります。

(例えば、東日本大震災に伴う福島原発事故では、福島の自宅を残し、将来的に帰宅する意思を持ちながらも、避難先に長期滞在する場合、住民票を移すか移さないかの基準はなく、本人の意思に委ねられています。)

所得税法では、居所であっても一年以上居住する場合は居住者として扱われますが、住民基本台帳法における行政実例では、(住所居所かが不明確であった場合など)滞在期間が1年間以上であれば、「住所(生活の本拠)」と考えられていると推察されます。

もちろん、これまで述べてきたように、期間は生活の本拠の絶対的要件ではなく、他の要素も含めて判断されるべきものです。

このように「一時帰国」という言葉自体に、「海外の住所(生活の本拠)へ戻る」、「日本での滞在は一時的なものである」「海外に住所(生活の本拠)を残している」「日本には住所(生活の本拠)は移さない」「日本の滞在地は居所である」といったニュアンスが込められているとも捉えられます。

「一時帰国」の住所に関する判例

一時帰国という言葉は出てきませんが、「約6か月の日本滞在後に海外に戻った場合、国内に住所はない」という判決があります。

海外に生活の本拠を置く者の日本での居住地に関する判例

「甲町の兄方に同居していた者が、単身渡米した後、妻子を呼び寄せ、いつたん帰国し約六ヶ月間兄方に同居したが、後再渡米した場合のその住所は、甲町にはない。」(行政昭 7.2.24)〔選挙法〕〔要領〕

「一時帰国」の住所に関する行政実例

国民健康保険法の質疑応答で、一時帰国という言葉が使われている行政実例があります。

海外に生活する者が一時帰国した場合の住所について


海外に生活の本拠を有する日本人が日本に一時帰国した場合に、住民登録の義務が生じるのか。また、その判断基準如何。
(例、米国に住所を有する日本人が肉親の財産処分及び財産処分等の目的のために3か月程度滞在する予定で帰国した。)

回答]
家族と離れて単身で日本に帰国した者は、その滞在期間が1年以上にわたる場合を除き、原則として海外の家族の居住地に住所がある。
(平成3年6月7日 (厚生省保険局国民健康保険課あて電話回答)〔要領〕

この行政実例では、「原則として」とあることと、「家族と離れて単身で」という条件付きである点に留意する必要があります。

この内容に似た「案内」をしている自治体があります。

婚姻や印鑑登録、肉親の財産処分等のために一時帰国している場合で、その期間が1年未満であるときは、住所は国外にあるものとして取り扱いますので転入届は原則受理できません。(沖縄県 うるま市)

「家族と離れて単身で」という文言がありませんが、「原則」という言葉は入っています。

また、一時帰国の例ではありませんが、住所地に1年に1、2回くらいしか帰らない者についての行政実例があります。

1年に1、2回くらいしか帰らない者の住所に関する行政実例

 住民票には届出されているが、1年に1、2回くらいしか帰らず、長く出ている者は除外してよいか。
 住民票の届出は行なっているが、記録された当該市町村の住所地には、年に 1、2回程度しか帰ってこない者は、他に特別な事情がない限り、一般的には当該住所を有するものとは認められない。(質疑応答)〔要領〕

日本人であれば、どんなに短い期間であっても、いつ何時も日本に『生活の本拠』があると言えるか?

一方で「日本人であれば、どんなに短い期間であっても日本に住所(生活の本拠)があると主張できるべきだ」という考えもあるかもしれません。

日本国憲法には「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する(第22条第1項)」と規定されており、これは、居住移転の自由の保障であり「自分の住所や居所を自由に決定し、移動することができる自由」を指し、国内旅行の自由も含まれます。53

しかし、判例でも「住所」と「居所」は区別されており、「継続性も含め客観的居住実態がある生活の本拠であれば、住所として保障される」のであって、「客観的居住実態としては住所(生活の本拠)ではなく居所であるにもかかわらず、本人の意思のみによって「住所(生活の本拠)」と認められる事が保証される」という事ではないと考えられます。

役所の対応について

ここでは、一時帰国において、役所で転入届が受理されない場合があることについて、その背景を考えてみます。

窓口での確認とは

これまでの説明のように、海外からの転入における「1年問題」に関して、1年以上という期間は「住所(生活の本拠)」の絶対的な要件ではありません。

また、「海外からの転入」に関して、何も記載のない市町村の方が多いことから、「1年以上の滞在予定」を確認することを求めるような「国(総務省)からの通知(依頼)」はないと思われます。

住民基本台帳事務処理に関する国の通知は「住民基本台帳事務処理要領54 があり、大阪市で作られた「大阪市住民基本台帳事務処理要領55 がネットで公開されています。

窓口で届出を受理するにあたっては形式的審査実質的審査が行われますが、特に、「海外からの転入」に関する記載はありません。

「住民基本台帳制度に基づく各種届出」(総務省)

届出の受理に当たっては、形式的審査(届出書に届出をすべき事項等が記載されているかどうか等の確認)と、実質的審査(本人確認のための書類等の提示又は説明を求め、届出をし又は付記した事項が、届出書の記載の内容その他の事情を総合的に判断し、事実に反する疑いがあるときは、法第34条第2項の規定により調査し、その事実を確認する等)をしなければならない。(事務処理要領)

住民基本台帳制度に基づく各種届出」(総務省)

一部の市町村が「1年」の確認を行う理由

もともと「1年」に関する案内窓口での確認をしていた役所は、今より少なかったと思われます。

これらの市町村では、職員による自主的な発案のほか、議会・議員や外部からの意見、住民からの問い合わせ、過去のトラブルなどの事例など、何らかのきっかけにより、独自の基準や取り組みを行っている可能性が考えられます。

住民基本台帳関係の事務等に係る窓口業務は民間委託される場合もあるなど56、かなりマニュアル化されている事務ですが、「1年以上」に関する判断を伴う届出者とのやり取りや、それに係る処分に関する業務は職員が対応しなければなりません。

市町村にとっては、あえて、手間をかけることになります。

届出と申請の不受理

転入届国外転出届はその名の通り届出です。

申請届出については、行政手続法によって事務処理の決まりなどが定められています。

行政手続法Q&A(総務省)

Q24 届出をしようとしたら、役所が受け取らないと言っているのですが、どうしたらいいですか?

A届出」とは、役所に対して一定の事項を通知する行為であって、そのことが法令で義務付けられているものです(そのため、役所からの処分(例えば、許可をする/許可しない)を前提としている「申請」は除かれます。)。
 届出に必要な書類がそろっている、定められた様式で届出が記入されているなど、法令が定める形式上の要件を満たす届出が提出先とされている役所に届いたときは、「届出をする」という手続上の義務は完了したことになります。
 したがって、役所は、形式上の要件を満たす届出が正しい提出先に到達したら、その届出がなかったものとして取り扱うこと(例えば、届出を受け取らない、返却するなど)はできません。
 ただし、形式上の要件を満たす届出が正しい提出先に到達しても、その届出の内容に誤りがある場合など、その届出の根拠となる法令の要件を満たしていないものは、届出としての法律的な効果は発生しません。

行政手続法Q&A」(総務省)

しかし、届出」といっても種類によって性質が異なり、申請との違いなど、法的な位置づけは「最高裁判所」で争われることがあるように難しい問題です。57

実際のところ転入届に関しては、不受理とするケースもあります。

  • 旧オウム真理教(アレフに改称)信者の転入届不受理が最高裁判所で違法とされた事件58
  • 転入届があり、住所について市町村が保有する住居表示および地番情報のリストを確認したところ、届出に記載された住所が存在しておらず、居住の事実がないことを確認したため、当該届出の受理を拒否したもの〔兵庫県の自治体〕59
  • 転入届があったが、担当課において、当該届出人からの届出については留意すべき取扱いとなっていることを職員が認識していたことから、聞取りを慎重に行う中で居住の事実も確認できなかったため、当該届出の受理を拒否したもの〔埼玉県の自治体〕60
  • 大阪市と八尾市の境界にまたがって建築されたマンションに居住し、八尾市に住民登録されていた者(原告)が、大阪市(被告)の敬老優待乗車証の取得目当てで、同じ部屋に居住したまま、大阪市(被告)に転入届を提出し、当該届出が不受理とされたため、当該不受理処分の取消し等を請求したが、同市の住所認定は適法であったなどと判断され、原告の請求が棄却された事例【2011年(平成23年)6月24日 大阪地裁】61

また、選挙においては、候補者だけでなく選挙人の住所が問題となることもあります。一軒屋で41人も居住者がいるなど不自然な転入が問題となるケース62や、以下のような判例もあります。

町議会選挙において架空転入の疑いにより当該選挙が無効となった判例

昭和56年執行の滋賀県虎姫町(現・長浜市)の町議会選挙において、選挙時登録の際に架空転入(476人(有権者の約1割))が疑われる事情があったにもかかわらず、選挙管理委員会の調査が不十分であったとして、当該選挙が無効となった事件【1985年(昭和60年)1月22日 最高裁】

このような案内をしている自治体もあります。

区では、転入(居住)できる物件(住居)の把握に努めています。区で居住できることを確認していない物件(商業ビル・シェアハウスなど)に転入される場合は、居住できることが確認できる「契約書等」を提出していただくことがあります。(中央区)

また、最近は窓口で本人確認を厳密に行っていますが、これは、他人が本人になりすまして住民票を移動させるという事件が問題となったことにもよります。

「転入届」と「国外転出届」が短期間で繰り返えされる場合

前述したように、海外からの転入に際し、届出の段階では、届出者の「居住の意思」と「短い期間の居住実態」があるという申し出しかありません(転入の事実が発生してから14日以内に届け出る必要があります)。

転入届を受理したところ、結果的に「住所(生活の本拠)」ではなかったということはありえます。

仮に居住実態があったとしても、あまりに短期間での転出と転入(あるいは転入と転出)であったり、それらが繰り返されるような場合は、その間の居所生活の本拠とされない可能性があります。

例えば、一時帰国とは逆で、国外転出と転入の期間が短いケースですが、年末の12月31日に海外転出して年明けの正月休みに転入すると、賦課期日(1月1日)に住民登録されていないため住民税が課税されません。さらに、翌年の1月1日に日本に住所があり、課税される場合も、前年が非居住者であったため、原則としてその年の課税所得は0円となり、低い税額で済みます

一般常識的にも、このような場合、その期間だけ日本に「住所(生活の本拠)」がないと考える人は少ないでしょう。

同様に短期間の一時帰国の場合も、居所であって「住所(生活の本拠)」ではないと考えられるケースはあり得ます。

なお、そういった場合、仕事のスケジュール変更によるものなど、所得税法の住所の推定のように、当初の予定が客観的事実に基づくものか、単に本人の意思によるものかどうかによっても、判断が影響されるかもしれません。

これら本来の「生活の本拠」であるかないかという問題とは別に、役所が一時帰国など海外との転入・転出の確認を行うことについては、逆選択フリーライドといった問題が背景にあることも考えられます。

逆選択防止の理論

1.逆選択とは

逆選択は保険などで使われる用語で、例えば、医療保険や生命保険では、通常、既往症が確認されます。

一定の既往症があっても加入できる場合もありますが、もし、まったく確認されなかったらどうなるでしょう。治療が必要な人など支払う保険料に対して受け取る給付が大きくなり、また、そのような人ほど保険に入ろうという意識が高くなるでしょう。しかし、情報を持たない保険会社は等しく受け入れるしかありません。

そのため、保険料は値上がりし、健康な人ほど不公平感を持ったり、「割に合わない」と加入しなくなり、保険が成り立たなくなる可能性があります。

2.国保制度と逆選択

海外からの転入の場合、原則として国民健康保険(国保)に加入することになります。(届出者が会社員で健康保険の被保険者であれば、日本国内でも健康保険に引き続き加入することになります)

日本では、もともとは会社員などが加入する健康保険だけでしたが、原則として国民の全てが何らかの公的保険に加入するという皆保険制度を実現するために国保制度が創設されました。

国保は健康保険と比べると所得の低い世帯が多くなる傾向にありますが、仮に無収入であっても、公費負担による軽減措置があり、額は低いですが保険料は発生し、保険料を払わず加入できる人はいません。(生活保護受給者は国保の対象外です)

一時帰国の間だけ国保に加入した場合、月の途中の転入・転出であれば、(原則として)全く保険料を払うことなく、保険医療機関で治療を受けた場合も、窓口の一部負担金のみの負担で、残りは保険者(都道府県及び市町村)から支払われることになります。

その場合、入院治療など医療費が高額になっても一定の限度額以上は高額療養費によって負担する必要はなく、当該年度にかかる賦課期日(1月1日)に住所がなく、国内収入もなければ、負担する限度額も低い額となります。

また、仮に保険料が発生したとしても、当該保険料算定における賦課期日に非居住者であれば、保険料算定において簡易申告(※) をすることで、国内収入がなければ、海外で給与収入等があっても低い保険料で済みます。

一時帰国治療目的であったり、保険料に対する医療費リスクが高い場合など、保険者側からみると、逆選択と捉えられるかもしれません。

3.最高裁判事の意見

なお、前述の不法滞在外国人に住所を認めた最高裁判決では、2人の裁判官が「原告に住所を認めなかった市の処分は適法である」とした原審を支持する意見を述べています。そのなかで逆選択について触れています。

(平成14(受)687 損害賠償請求事件 平成16年1月15日 最高裁判所第一小法廷)最高裁判事の意見<抜粋>

この地域保険としての性格は、制度発足以来変わるところがなく、国民健康保険制度の健全な維持運営のためには、住民の強制加入と、大数の法則、収支均等の原則を基本として算出される保険料等の徴収が不可欠であり、また、疾病等が発生した場合に初めて加入するという、保険事故の偶発性を排除するいわゆる逆選択を防止する必要もある。
国民健康保険の被保険者を定める法5条の「住所」は、客観的居住の事実を基礎とし、これに当該居住者の主観的居住意思を総合して認定するべきであるが、国民健康保険の上記のような地域保険としての性格に照らし、この居住には継続性・安定性が要求される。(平成14(受)687 損害賠償請求事件 平成16年1月15日 最高裁判所第一小法廷)

平成14(受)687 損害賠償請求事件 平成16年1月15日 最高裁判所第一小法廷

このように、公的保険においても「保険事故の偶発性を排除する逆選択を防止する必要性として、居住には継続性・安定性が要求される」と述べています。

少し難しい言い方ですが、保険制度の基本原則として保険を使う疾病や怪我は偶発的なものでなければならず、「保険を使うリスクが高い」者が恣意的に加入しその偶発性が損なわれるような事を防ぐ必要がある。そういったいわゆる逆選択を防止するためにも「加入の条件となる住所の認定にあたっては、一定の継続性と安定性が必要とされる」という意味になるかと思われます。

4.皆保険制度の国保

一方、国民皆保険制度を担う国保は、そもそも逆選択的な社会における一定のリスクを包括した制度という一面もあるともいえます。

健康保険に入っていた人が怪我や病気などで働けなくなって退職した場合は、(任意継続を選択しなければ)収入がなく、比較的医療費がかかる状況で国保に加入することになります。

また、定年で退職し、働かずに年金のみの生活になると国保に加入することになり、年齢とともに医療費も増えていきます(原則として75歳になると後期高齢者医療制度の対象となります)。

このため、かつては退職者医療制度というものがあり、健康保険国保の負担のバランスを取っていましたが、現在は新しい制度間の調整方法がとられています。63

5.国保における逆選択防止のための給付制限

なお、国保の創設期には、実施市町村未実施市町村があり、治療が必要な人が実施市町村へ転入するという逆選択が生じることから、転入から6か月未満の期間においては「逆選択防止のための給付制限を行うことができる」という通知がありました。64

この通知では、短期間の滞在者は住所認定をしないケースも示されています。

国民健康保険法施行事務の取扱について(昭和34年(1959年)1月27日)(保発第四号)

第三 市町村の被保険者に関する事項
(一) 資格
(中略)
(住所の認定)
二 住所の認定については、定住の意思と定住の事実の両面より判断して、生活の本拠を確定すべきであるが、この場合、住民登録、戸籍、米穀通帳、選挙人名簿等の資料を調査し、住所認定の適正化を図られたいこと。従つて、転入の当初より他所に移転することが明らかであり、かつ、在住の期間がきわめて短期間に過ぎない者の取扱については、国民健康保険の性格に照らし、住所を有する者と認定しないことが適当であること。

第六 療養の給付に関する事項
(中略)
(五) 療養の給付の制限
(市町村の逆選択防止のための給付制限)
一 国民健康保険未実施市町村が存在する間は、国民健康保険実施市町村に対する転入によりいわゆる逆選択が起りうることが予想されるので、施行法第二四条において、市町村は、昭和三六年三月三一日までの間は、条例の定めるところにより、当該市町村の区域内に住所を有するに至つたため被保険者資格を取得した者に対して、資格取得の日から起算して六箇月をこえない期間、当該資格取得の日前に発した疾病若しくは負傷又はこれにより発した疾病に関し、療養の給付の一部を制限することができることとしたこと。
(以下略)

現在の規定ではこのような逆選択防止にかかる給付制限の項目はありません。

(※)「簡易申告」 申告が必要な年度の1月1日に国外に居住していた人について、適正な国民健康保険料(税)の賦課(課税)と国民健康保険の給付を行うために、前年中(1月1日~12月31日)の日本国内での収入の有無を申告するための手続きです。

「一時帰国」で住民登録をする人は「フリーライダー」?

もともと社会学の学術用語でしたが、ビジネスや行政でもフリーライド(タダ乗り)やフリーライダー(フリーライドをする人)という言葉が使われることがあります。

前述のとおり、住民は「市町村の行政サービスを受ける権利」を有するとともに「負担を担う義務」を負います。

憲法第30条では「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」とされており、正統な理由なく税金を収めない、いわゆる悪質滞納者は、しばしばフリーライダーとされます65

日本で暮らす上では、税金を使って整備した道路や橋などの公共インフラを利用したり、ごみ処理といった恩恵を受けています。また、警察や消防、自衛隊などの公的な組織のお陰で安心して暮らすことができます。

昔は数もそれほど多くはなく、地元にお金も落としてくれることから歓迎され、多少の問題は寛容に許容されていた観光客ですが、近年はオーバーツーリズムによる騒音や交通機関の混雑といった地域住民とのトラブルだけでなく、ごみ処理や環境破壊への対応、保全に係るコストといったフリーライドの問題が提起されることもあります。66

本来であれば「住所(生活の本拠)」が無いと思われるにもかかわらず、住民税国民健康保険料(※)を払うことなく、行政サービスや給付など恩恵だけ受けるのであれば、フリーライドではないか、という疑問が生じる余地があります。

※「国保」は公費補助(保険給付の50%や低所得者の保険料軽減補助)がされています。

役所の対応

このような「フリーライド」は商標法不正競争防止法のように、法律で明確に規定され禁止されている場合もありますが、住民基本台帳法国民健康保険法で何か規定されているわけではありません。

ですから、これらを理由に役所が国外転出届転入届を受理しないということはなく、あくまで、「生活の本拠」であるか否かが問われることになります。

しかし、この場合、「賦課期日を挟んだ短期間の海外転出」や、「短期間の一時帰国」など「住所(生活の本拠)」の実態が届出と異なる可能性のあるケースが結果的にフリーライドとなる場合があることから、自治体が窓口で確認を行う背景となっている可能性は考えられます。

最後にもう一度市町村の案内を読み返してみる

では、冒頭の役所の案内をもう一度読み直してみましょう。

まずは海外転出に関する案内です。前述のように、賦課期日を挟む転出・転入のような短期間の海外転出は、認め難いということもあるかもしれません。行政実例をもとにした「1年」という期間を明記してありますが、基本的には「必要ない」という表現になっています。

海外に1年以上出張等で引っ越しをされるときは、転出の届出が必要です。(中央区)

行政実例に基づき、1年以上海外で居住する場合は海外に生活の本拠があると推定されることを説明しています。「1年未満の場合には海外に生活の本拠がなく、日本に生活の本拠がある」とは述べていません。

国外へ転出される方は、転出の届出が必要です。観光やビジネス、短期留学といった短い期間(見込み1年未満)の出国では届出は必要ありません。(吹田市)

こちらも、1年未満の場合は「住所(生活の本拠)」を日本に残すことはあり得るので、国外転出届が「必要ない」といっています。「1年未満は海外に生活の本拠がなく、日本にあるので国外転出届は出せない」とは述べていません。

海外が生活の本拠となる場合には、国外転出届が必要です。(海外が生活の本拠となる場合とは、海外で働く、海外の学校に入学する等の理由で出国して、1年に数回日本に戻るような場合(海外にいる期間の方が長い場合)です。)(荒川区)

「海外が生活の本拠となる場合には、国外転出届が必要です。」というのは、そのとおりで、正しい説明です。「働く」と「留学」が例に挙げられているのは、相手国において1年以上滞在すると見込まれる契約やビザ等の客観的事実がある前提と考えられます。1年に数回戻るようなという表現は、前述の行政実例が参考にされているのかもしれません。
海外に生活の本拠を移した場合は、年に数回戻るような場合でも、海外に生活の本拠が残ると述べています。
これも、「1年未満であれば海外に生活の本拠はない」と断定されているわけではありません。

1年以上海外で暮らし、生活の本拠地が海外に移る場合は転出の手続きが必要となります。1年以下で戻ってくる場合、必要ありません(船橋市)

1年以上の場合は、行政実例および所得税法同様に、住所の推定について述べられています。1年以下の場合に言及されていますが、「必要ありません」という表現であり、「転出届が出せない」と述べているわけではありません。

次に、海外から転入の場合です。こちら案内は、一時帰国に関係します。

前述の厚木市のように、「転入から1年未満で、再度国外等への転出を届け出た場合、転入日に遡って、住民登録の取り消しをさせていただく場合があります」と、取り消しにまで言及している自治体もあります。

海外から中央区に引っ越しをしたときは、14日以内に中央区の窓口で転入の手続きが必要です。(中央区)

このように、特に一時帰国の場合について触れられていない市町村も多くあります。

以下は一時帰国での短期間の住民登録に関し、比較的厳しい姿勢を示している市町村です。

海外から帰国し、概ね1年以上にわたって国内に居住する場合には、転入の届出が必要となります。
※海外に生活の本拠を有する日本人が日本に一時帰国した場合には、その滞在期間が1年以上にわたる場合を除き、原則として海外の居住地に住所があるとされておりますので、あらかじめ御承知おきください。(川崎市)

行政実例をもとに1年という期間を明示していますが、「原則として」という言葉が入っています。

国内に1年以上滞在される予定の方は、転入の手続きをしてください。休暇による一時帰国など生活の本拠地が国外である場合には、住民登録は行えません。(調布市)

「1年以上」は、行政実例をもとにしています。「生活の本拠地が国外である場合には」というのは、海外に生活の本拠を残しているのであれば日本には生活の本拠はないということですから、2拠点生活を始めるのでもない限り、当然のことを述べているといえます。

海外から帰国し、江戸川区内に生活の本拠を定めた方(一時帰国を除く)
(注)外国に生活の本拠を有する方が一時帰国する場合、住所は外国にあるものとされておりますので、転入届は受付できません。(滞在予定期間がおおむね1年以上になる場合を除く)(江戸川区)

「江戸川区内に生活の本拠を定めた方」が転入届の対象というのはそのとおりです。

ここで使われている一時帰国という言葉は「日本に住所を移さない」意味を前提にしていると思われます。

「滞在予定期間がおおむね1年以上になる場合を除く」は、行政実例をもとに、1年以上であれば住所(生活の本拠)であるという扱いとしています。

外国から帰国し、1年以上にわたり日本国内に滞在予定の方は、帰国の日から14日以内に転入届をしてください。ただし、外国に住所を移している方が一時帰国している場合で、一時帰国の期間が1年未満であるときは、住所は外国にあるものとして扱いますので、転入届の受付はできません。(境港市)

こちらも、行政実例に基づき、1年以上の場合は住所(生活の本拠)があるとされています。「原則として」といった文言は省かれています。

おわりに

最後に、まとめと私の所感・意見をまじえて締めくくりたいと思います。

「国外転出」「海外からの転入」に関する役所の手続きにばらつきがある

海外からの転入に関する各市町村の案内では「一時帰国の場合、1年以上の滞在予定がなければ転入できない」と案内しているところもあれば、そうでないところもあります。

住民基本台帳に関する事務は、法律に基づき各市町村が判断します。そのため、全国共通ではなく、解釈や対応にばらつきが生じることがあります。

その場合、転入や転出にかかる処分や不作為に不服があれば、審査請求や裁判を行うことができます。つまり、行政の判断は絶体的なものではなく、最終的には裁判所によって決定されます。

住所の重要性

住民は自治体の構成員であり、主権者としての重要な役割を担います。また、行政サービスを受ける権利を有するとともに、そのための費用を負担する義務を負います。

このため、市町村はその区域に住所を有する住民を確定させるために、住民基本台帳を正確に記録し、整備する必要があります。

このように、住民基本台帳法における住所は市町村との強い関係性が求められることから、居所は住所とは認められず、また、(国内には)一つのみとされています。

住所の定義
地方自治法や住民基本台帳法に住所の定義は書かれていません。しかし、民法と同様に、各人の「生活の本拠」とされています。

「生活の本拠」とは、全生活の中心であり、日常生活がある程度の継続性をもって営まれている場所を指します。ただ、現代社会では、生活スタイルが多様化しているため、「生活の本拠」は一つの要素や画一的な基準で決まるものではなく、個々の状況に応じて、個別に判断されます。

具体的には、実際にその場所で生活している事実(客観的居住の事実)を基礎とし、その場所を生活の中心とみなす本人の意思(主観的居住意思)を総合的に判断して決定されます。

所得税法や公職選挙法における住所

所得税法の「居住者」は、国内に「住所を有している」か「現在まで引き続き1年以上居所を有している」者とされています。

また、職業や家族、国内の資産の有無など、継続して1年以上居住するかしないかを推測するに足る客観的事実などにより、国内に住所を有するか、有しないかについて、住所の推定が行われます(居住の意思だけでは推定されません

公職選挙法では、選挙人名簿に登録される要件として、転入等により住民票がつくられた日から引き続き3か月以上、その市区町村の住民基本台帳に記録されている人とされています。これは、一定期間を設けることで、その場所が「住所(生活の本拠)」であるという生活実態が判断できると考えられているためです。

外国人の住所要件

外国人の場合、在留資格の期間が「3か月」を超える中長期在留者は住民登録が認められます。法律上は「3か月」が住所の有無を判断する上での要件となっているわけではありませんが、実質的には、その期間をもって「住所がある」と認められているといえます。

期間に着目すると、日本人の場合、1年以上の滞在予定がない一時帰国で「住所(生活の本拠)」が認められず、一方で、3か月超の在留期間がある外国人には、たとえ母国に生活の本拠があり、将来的に帰国する予定があるにもかかわらず住所(生活の本拠)が認められるとすれば、「なぜその違いが生じるのか」という疑問が湧くかもしれません。

国民健康保険加入資格に関して、外国人が住民登録の対象となった法改正時において、従来は1年以上日本に滞在する見込みがある者を「住所がある」としていたものを、3か月を超える在留資格で認められることになったことで、それまで加入できなかった外国人が新たに対象となるというケースも生じました。

一方、「1年」という行政実例の解釈変更は行われていないようです。どのように考えたらいいのでしょうか?

「3か月?」「1年?」

 そもそも、判例において、期間は住所(生活の本拠)の絶対的な要件ではなく、基準もありませんが、「継続性」が「生活の本拠」を成り立たせるうえで必要であることは判例からも確かです。

3か月を超えて滞在する外国人に住所(生活の本拠)を認めている以上、日本人であっても同様に住所(生活の本拠)が認められると考えるのが自然といえます。

また、転入届などにより引き続き3か月住民登録をしている住民について、公職選挙法上は「住所がある」とされることを考慮すると、住民基本台帳法上の住所との整合性がとれます

(厳密にいえば、3か月超と3か月以上の違いはありますが、そもそも明確な期間の基準はないので、ここでは3か月程度として考えて差し支えないと思います)。

「1年以上」という基準は、法的拘束力を持たない行政実例に基づくものです。

では、「1年」とは何かですが、基本的には、主に複数の住所がある疑義などにおいて、どちらかに住所があるかを判断するにあたっての行政内での一つの基準であるといえます。

また、転入届、転出届を受理する時点での目安ともいえます。

所得税法においても、「居所であっても1年間居住する場合は住所がある者と同様に居住者とされ、また、住所がある者と推定される」期間です。また、判例からも、1年という期間は住所(生活の本拠)と認められる一つの要素と考えられます。

一時帰国での滞在での転入は認められるか

一時帰国では、海外の住所(生活の本拠)に戻る前提であるならば、国内における仮住所や旅行先への滞在などと同様に、基本的には滞在場所は居所として扱われると考えられます。

さらに、地方公共団体と住民との間で、権利義務を含めた関係性が構築できないほどの短期間であれば「住所(生活の本拠)」と認められない可能性が高くなると思われます。

しかし、「住所(生活の本拠)」と認められるに足る期間に関しては明確な基準が判例にもないため、行政判断によります。

それが行政裁量の範囲でどこまで認められるかは議論があるかもしれませんが、行政実例に基づき「1年」と定めて運用している市町村があるということになるかと思います。

現実的な手続き

転入届が出された時点では「生活の本拠」であるか否かの客観的居住の事実の判断が難しいため、基本的には届出者の意思に基づく事務処理にならざるを得ない面があります。

また、転入届を受理した後に、1年に満たなかったからといって、転入時に遡って転入届の取り消しを求めたり、職権消除を行うことは、手続きも煩雑な上、期間を理由とする法的根拠が無いため、あまり、実務的に現実的ではありません。

しかしながら、一時帰国の場合などは、フリーライドや国保の逆選択の問題もあることから、問題意識を持つ自治体は今後、増えていく可能性が考えられます。

役所の対応として、比較的現実的な方法としては、一時帰国における住所に関する周知と、転入時における窓口での確認や告知を行うとともに、短期間で海外転出届が出されたり、繰り返された場合、仮にその時は受理するとしても、再度の告知の上、次の転入転出時に厳正な対応を取るというように、段階を踏む方法などが考えられます。

いずれにしても、窓口業務というのは様々なケースに応じて対応する必要があり、海外からの転入や一時帰国といっても、一人ひとり事情が異なります。

日本と海外のどちらが生活の本拠であるかは、本来であれば期間だけではなく、どのような在留資格で海外に居住しているのか、仕事や地域との社会的関係性、国内および海外の居所が持ち家なのか借家なのか、自己名義なのか、居候や同居なのか、家財道具や財産、家族状況、収入など日本と海外双方の状況を勘案して総合的に判断されるべきものです。

海外と日本の二重拠点の場合

母国に「生活の本拠」をもつ外国人と同様に、日本人であっても日本と海外の両方に「住所(生活の本拠)」を持つ二拠点生活については、生活スタイルや個別の状況によってはあり得るかもしれません。

転入および転出は、「住所(生活の本拠)を移す、あるいは新たに設けるというように何らかの「事情変更」が行われているわけですから、相応の理由や事実関係が求められます。

一方、二拠点生活は、一度住所を定めれば、以降は現状維持です。役所との間で問題が生じるのは、基本的には、転入、転出といった現状変更が起きたときですから、住民票の移動を伴わないこのようなケースで問題になるケースは少ないといえます。

結び

いずれにせよ、役所の手続きをする際は、法律や制度をよく理解したうえで行うことでトラブルを回避できたり、少なくなるのではないかと思います。

今回の記事が何らかの参考になれば幸いです。

次回は「住民票サービスは適法か違法か」「日本に身寄りのない海外在住者が日本と二拠点生活を送りたい場合」などについて、お話したいと思います。

  1. 【YouTube動画】「『あなたのような人』は原則受理しません◀海外からの一時帰国、転入届はできますか?」(週末海外ノマド「ダイスケ」) ↩︎
  2. なぜ地方分権が必要なの?」(愛知県) ↩︎
  3. 『国と地方の役割分担』について」(総務省) ↩︎
  4. 自治事務と法定受託事務」(総務省) ↩︎
  5. 国民年金制度及び業務の概要について」(厚生労働省) ↩︎
  6. 行政手続法Q&A Q3「処分」とは何ですか?」(総務省) ↩︎
  7. 「本判決については、住民基本台帳法による転入届(転居届)の不受理が処分であることを明示する判決として紹介されている(塩野「行政法Ⅰ」第4版285頁)。」「『転居届』は『届け出』か『申請』か」(地方自治研究機構) ↩︎
  8. 行政不服審査法の概要」(総務省) ↩︎
  9. 行政不服審査法の概要」(総務省) ↩︎
  10. 行政不服審査法関連3法の概要」(総務省) ↩︎
  11. 行政訴訟での勝利は至難の業」(しらかば法律事務所) ↩︎
  12. 法律と法令の違い」(宝塚花のみち法律事務所)
    行政基準(行政立法・行政規則)」(新潟大学法学部) ↩︎
  13. 行政規則」(コトバンク) ↩︎
  14. 税法上の「住所」とは何ですか:⑴ 法規命令と行政規則」(弁護士法人 本町国際綜合法律事務所) ↩︎
  15. 行政機構図(2024.8現在)」「所掌事務一覧」(内閣官房) ↩︎
  16. 行政実例」(コトバンク) ↩︎
  17. 議会局「軍師」論のススメ 第8回 「行政実例」は水戸黄門の印籠なのか?」(ぎょうせい オンライン 2020/05/21) ↩︎
  18. 住民基本台帳制度の意義等について」(総務省) ↩︎
  19. 「法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。」(地方自治法第十条) ↩︎
  20. 住民基本台帳制度の意義等について」(総務省) ↩︎
  21. 「市町村は、別に法律の定めるところにより、その住民につき、住民たる地位に関する正確な記録を常に整備しておかなければならない。(住民たる地位に関する記録)」(地方自治法第十三条の二) ↩︎
  22. 住民基本台帳制度の意義等について」(総務省 令和3年7月19日)
    「各人の生活の本拠をその者の住所とする」(民法第22条) ↩︎
  23. 住民基本台帳制度の意義等について」(総務省) ↩︎
  24. 住民基本台帳制度の意義等について」(総務省)
    「住所意思は、住所決定の独立的要素をなすものではなく、生活の本を決定する標準の一つとして考慮せらるべきであるが、この場合、その住所意思を実現する客観的事実が形成されていなければならない。」(福岡高昭24.4.15)〔要領〕」
    「住所は、生活の本拠と認むべき客観的事実の存否により決すべきであつて、住所意思は、住所決定の絶対的要素ではなく、他の事情とともに考慮さるべき一標準にすぎない。(名古屋高昭27・10・16)〔要領〕」
    「住所の認定は、生活の実質的関係に基づいて具体的になすべきである。(最高昭38.11.19)〔要領〕」 ↩︎
  25. 税務上の「住所」概念の研究-民法上の「住所」概念の不確かさと「借用」の困難性-」(国税庁 税大ジャーナル)
    公法上の意思表示に求められる判断能力の程度に関する試論」(自治総研通巻547号 2024年5月号) ↩︎
  26. 「我妻栄『新訂民法総則』」「民法の解説(居所)」(金子総合法律事務所↩︎
  27. 民法の解説(仮住所)」」(金子総合法律事務所↩︎
  28. 住所・住民概念について」(総務省) ↩︎
  29. 住所・住民概念について」(総務省) ↩︎
  30. 租税法上の『住所』の認定を巡る諸問題」(国税庁 税大ジャーナル) ↩︎
  31. 税務上の「住所」概念の研究」(国税庁 税大ジャーナル) ↩︎
  32. 「居住者・非居住者の課税上の問題点」「住所と住民票との関係」(税理士法人 日本タックスサービス) ↩︎
  33. 税法上の『住所』とは何ですか」(弁護士法人 本町国際綜合法律事務所) ↩︎
  34. 租税条約に関する資料」(財務省)」 ↩︎
  35. 選挙権と被選挙権」(総務省) ↩︎
  36. 立候補を目指す方へ」(総務省) ↩︎
  37. 6月のシャワー週1~2回? 市議の居住実態、県選管認めず当選無効」(朝日新聞 2024/03/14)
    ↩︎
  38. 裁決書(平成24年4月15日執行の志木市議会議員一般選挙における当選の効力に関する審査の申立て)」 ↩︎
  39. 6月のシャワー週1~2回? 市議の居住実態、県選管認めず当選無効」(朝日新聞 2024/03/14)
    当選の効力に関する審査の申立てに対する裁決書」(千葉県柏市 令和6年3月15日)
    当選無効」(昭和35年3月22日 最高裁判所判決 昭和35(オ)84) ↩︎
  40. 武富士事件と租税法上の住所の意義―住所の判定要素と関連理論の考察―」(国税庁 税大ジャーナル2009.2 )
    武富士事件再考(住所の認定以外の否認方法の検討)」(国税庁 税大ジャーナル2024.6)
    税法上の「住所」とは何ですか」(弁護士法人 本町国際綜合法律事務所 2024/10/11) ↩︎
  41. 相続税法上の住所概念の解釈が問題となった最高裁判例(「武富士事件」)(最判平成23年2月18日裁時1526号2頁)」(アンダーソン・毛利・友常法律事務所 2011年5月) ↩︎
  42. 相続税の納税義務者の定義が新たに定められた話【平成29年法改正】」(税理士法人チェスター)
    相続税のないシンガポールへ移住したい…相続人・被相続人の海外移住5年→10年で計画が頓挫した富裕層たち」(THE GOLD ONLINE 2024/10/08) ↩︎
  43. ワーキング・ホリデー制度」(外務省) ↩︎
  44. 【ワーキングホリデーのタックス・リターン】税法上の居住者とは誰?
    ワーホリはタックスリターンをする必要はあるのか?」(JAMS.TV) ↩︎
  45. 【2024年最新】フィリピンがデジタルノマドビザの発給を決定!開始はいつ?」(PTNトラベル 2024/07/07)
    Philippines Digital Nomad Visa Requirements & Application 2024」(Onward Ticket) ↩︎
  46. 平成24年7月9日の法改正で外国人の手続き等は何が変わりましたか?」(鎌倉市)
    改正住民基本台帳法等が施行され、外国人登録法は廃止されました」(大田区) ↩︎
  47. 規制改革推進のための3 か年計画(平成19年6月22日閣議決定)」(内閣府規制改革会議)
    規制改革推進のための3か年計画(平成19年6月22日閣議決定)」<抜粋>
    規制改革推進のための3か年計画(改定)(抄)」(総務省) ↩︎
  48. 『適法な在留外国人の台帳制度についての基本構想』の概要」(総務省)
    外国人台帳制度に関する懇談会(平成20年12月)」(総務省) ↩︎
  49. 海外で国内法に違反する行為をした場合に国内法を適用できるのか?」(参議院法制局) ↩︎
  50. 個人住民税における二地域居住の論点について」(総務省)
    増田寛也元総務相、二地域居住者へ『第2住民票』提言『国が促進なら公的な証明書必要』」(産経新聞 2024/08/18 )
    デュアルライフ(二拠点生活)を始めるにあたり住民票はどこに置くべきか
    空き家等の活用を通じた二地域居住の推進↩︎
  51. 『二重の住住民登録』をめぐる議論について」(日本災害復興学会 復興 (14号) Vol.7 No.2 2016.02.11)
    二地域居住へ「福島の経験」 「二重住民票」で両方の行政サービス」(産経新聞 2023/10/02)
    移動社会化における市民権保障に向けて―『二重の住民登録』はなぜ実現しなかったのか↩︎
  52. 東日本大震災における原子力発電所の事故による災害に対処するための避難住民に係る事務処理の特例及び住所移転者に係る措置に関する法律
    原発避難者特例法の概要」(総務省) ↩︎
  53. 居住移転の自由」(コトバンク) ↩︎
  54. 住民基本台帳事務処理要領について(昭和42年10月4日法務省民事甲第2671号・保発第39号・庁保発第22号・42食糧業第2668号(需給)・自治振第150号法務省民事局長・厚生省保険局長・社会保険庁年金保険部長・食糧庁長官・自治省行政局長から各都道府県知事あて通知)↩︎
  55. 大阪市住民基本台帳事務処理要領」(大阪市)
    住民基本台帳制度に基づく各種届出
    住民基本台帳事務等における本人確認事務処理要領↩︎
  56. 住民基本台帳関係の事務等に係る市町村の窓口業務に関して民間事業者に委託することができる業務の範囲について(通知)
    地方公共団体の窓口業務における適正な民間委託に関するガイドライン↩︎
  57. 転居届は届け出か申請か」((一社)地方自治研究機構) ↩︎
  58. 市区町村による住民登録拒否事件」(weblio辞書)
    旧オウム真理教(アレフに改称)信者の転入届不受理および同信者の子どもの就学拒否に関する質問主意書」(衆議院) ↩︎
  59. 住民基本台帳制度に基づく各種届出」(総務省) ↩︎
  60. 住民基本台帳制度に基づく各種届出」(総務省) ↩︎
  61. 住民基本台帳制度に基づく各種届出」(総務省) ↩︎
  62. 『当選させるために450人引越しさせますんで』本当にあった不思議な選挙シリーズ」(選挙ドットコム 2017/3/27)
    きっかけは村長選で村長の親族が架空転入で不正投票 なのに住民投票で是非を問うのは議会の解散 人口1500人の村で異例の展開のわけ」(TBS NEWS 2023/12/30) ↩︎
  63. 新しい高齢者医療制度について」(厚生労働省保険局 平成20年9月25日) ↩︎
  64. 国民健康保険法施行事務の取扱について
    国民健康保険の保険給付の制限に関する要綱↩︎
  65. フリーライダー」(ウィキペディア) ↩︎
  66. 再燃するオーバーツーリズム 観光地で暮らす人の生活は」(NHK 2023/09/13) ↩︎
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメント一覧 (2件)

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次