フィリピンでは法律で離婚が違法とされています。これは、世界中でフィリピンとバチカン市国の2カ国のみとされており、カトリック教会の影響が大きいとされています。
そのフィリピンですが、2020年3月に「離婚を合法化するために家族法を改正」するための法案が国会で審議されているという動きがありました。
一方、片方の配偶者が外国人で、その配偶者の国で適法に離婚が成立した場合のフィリピン人配偶者の再婚に関する扱いに関しては、近年の法改正で明文化されています。
今日は、これら家族法について、また、関連してフィリピンの問題などについてもふれたいと思います。
離婚を合法化するための家族法改正案
家族法改正法案はどうなっているのか
2020年3月に審議された「離婚を合法化する」家族法改正法案では、提案理由として「離婚を合法としない家族法の規定のために、経済的、身体的に弱い立場にある多くの女性が離婚、再婚ができずに苦しんでいる」ことがあげられています。
しかし、一方で、フィリピン国民の53%が離婚の合法化に賛成、32%が反対、15%がどちらともいえないという回答であり、離婚の合法化に全ての国民が賛成しているわけではなく、特にカトリック教会を中心に離婚の合法化に対する根深い反対意見がみられます。(2018年の調査会社による調査結果)
なお、ドゥテルテ大統領も2018年に離婚の合法化に否定的な立場を示しています。「離婚合法化のための家族法改正法案が提出、女性の人権保護、社会進出が背景に」(ジェトロ 2020/03/03)
しかし、このニュースは、その後続報はみられません(新型コロナの影響もあるかもしれません)。また、法案の詳細は不明で、離婚が合法化されても、離婚要件や手続きなど厳しい条件となっている可能性も考えられます。
この関係で、今後、何か新しい情報があれば追記したいと思います。
法案が通っても施行されない場合がある
フィリピンでは大統領の権限が大きく、議会で法案が通っても大統領がサインしないため施行されない場合があります。
例えば、当ブログ「コロナ禍で「貧困」と「施し」「ボランティア」」で取り上げたように、2019年の「労働のみの請負契約や、短期の雇用契約で解雇と再雇用を繰り返すことを厳格に禁止する法案」は、上院、下院を通過したにもかかわらず、ドゥテルテ大統領が署名しなかったため施行されていません。
シングルマザーと非嫡出子の多さ
世界保健機関(WHO)がフィリピン保健省(DOH)及びフィリピン大学と共同で発表した2007年の報告書によると、フィリピンの1,400万人の独身の親のうち、95%が女性となっています。「Filipino single mothers bear the brunt of COVID-19」(Worldvision.org)
また、2017年のフィリピン人口統計では、同年に登録された出生総数のうち、46.7%は非嫡出子(法律上の婚姻関係にない男女から生まれた子ども)でした。最も多かった出産の年齢層は20〜24歳で、出産する母親の年齢の中央値は26歳、父親の場合は29歳でした。「Births in the Philippines, 2017」
フィリピンでは出産年齢が若く、子供の数が多いとともに、「非嫡出子」「シングルマザー」が多い、という実態がみえます。
離婚禁止と未婚率の高さ
フィリピンにおける未婚率やシングルマザーが多さには、離婚が認められていない(つまり再婚が困難である)ことが、その理由の一つとされています。
ちなみに、フランスは、カトリックの影響が強い国で(カトリックが41%、プロテスタントが2%、その他のキリスト教1%)で、法的に離婚がとても難しく、当事者間の合意だけでは離婚ができず、弁護士を立てて裁判所を介する必要があり、その手続きに1年以上かかることもあるなど、手間も費用もかかります。
こうした背景もあり、欧州において未婚カップルや婚外子の割合が高い国となっていました。一方、「1958年には、35%のフランス人が日曜日のミサに出かけていたが、2004年にはわずか5%にまで低下している」、また、「2010年の時点で、キリスト教徒の割合は44%に過ぎない」という調査があるようにキリスト教離れも進んでいます。「結婚しないのには訳がある! フランス人の同棲の現状–びっくりフランス事情」(マイナビニュース2015/12/05)「フランスの『カトリック消滅』」(SBCr Online 2015/9/17)
こうした状況における若者の結婚離れに対して、フランス政府は離婚制度を変えるのではなく、「事実婚を法整備し、非婚カップルや婚外子にする差別的な見方や取り扱いをなくし、多様な子育て環境を整える」という政策をとっています。「先進諸国における婚外子増加の背景 フランス スウェーデンの「家族」をめぐる歴史から」(第一生命保険)
結婚無効手続きの負担
フィリピンでは、離婚に代わり、後述する結婚無効や取り消しという手続きがありますが。仮にその要件に合致したとしても、裁判によって決定するまでのプロセスは複雑で時間もかかり、費用も、約150,000〜200,000ペソとフィリピンの平均年収に相当するような負担が生じるため、手続きを行えるのはごく一部に限られています。 「Divorce law by country」(Wikipedia)
私の同じ年のフィリピン人の友人(女性)も別れた配偶者がいますが、離婚(結婚無効手続き)はしておらず、現在は新しいパートナーと一緒に事実婚の状態で暮らしています。一般庶民にとってはやはりハードルはとても高く、法的に婚姻状態にあったも実態としては離婚状態にあるカップルは大勢いるのではないかと思われます。
法務省委託調査から
法務省による平成28年度(2016年)調査「委託調査の成果物」で、「フィリピン,マレーシア及びインドネシアにおける身分関係法制調査研究業務の委託【PDF】」という報告書が公表されています。以下にその報告書からフィリピンについて抜粋して紹介したいと思います。
フィリピンの統治制度
フィリピンの国民議会、立法、行政
国民議会は二院制をとり、上院(Senate)と下院(House of Representatives)により構成されます。行政府は、国家元首である大統領及び副大統領で成り、いずれも直接投票により選出されます。
司法制度
フィリピンの司法権は、最高裁判所と下級裁判所からなります。下級裁判所は、 3つの階層に別れ、第一審裁判所として自治体裁判所(Municipal Trial Courts)、13 の地域裁判所(Regional Trial Courts)、そして控訴裁判所(Court of Appeals)で構成されています。
自治体裁判所は、首都圏裁判所(Metropolitan Trial Courts; MeTC)と自治体裁判所(Municipal Trial Courts in Cities ; MTCC)の2つがあります。 控訴裁判所は、自治体裁判所や地域裁判所からの控訴事件を扱い、 不服ある場合には最高裁判所へ上告をすることになります。
この他に、シャリーア裁判所(Shari’a Courts)、公務員弾劾裁判所(Sandiganbayan)、租税控訴裁判所(Court of Tax Appeals)等の特別裁判所があります。
フィリピン国内におけるムスリム(イスラム教徒)の自治権
フィリピン国民の 82.9%はキリスト教徒(ローマカトリックが総人口の 80.9%)、5%がムスリム(イスラム教徒)です。 (地域的特徴があり、ミンダナオではイスラム教徒が人口の2割以上を占めている)
フィリピン周辺は、14 世紀にアラブ人のムスリムにより住民のイスラーム改宗が進み、ムスリム王国が成立しました。その後のスペイン及びアメリカの植民地時代にもこれらの国への支配が及ばず、独立後もミンダナオ島及びその近隣の諸島には、現在までムスリム法が引き続き適用されてきた地域があります。
こうした状況のもと、1989 年に「ミンダナオ自治基本法」が成立し、1990年にミンダナオ島の一部 に、「ムスリム・ミンダナオ自治地域」(ARMM)が発足し、外交関係や安全保障以外の一定の範囲で自治権が認められるようになりました。
フィリピン共和国憲法(1987年憲法)は、政教分離の原則を規定していますが、フィリピンの家族法にはローマカトリックの教会法の影響が強く認められ、婚姻関係を完全に終了させる「絶対離婚」の制度はありません。
これに対して、イスラーム教を信仰するムスリムについては、イスラーム法にフィリピンの慣習法が融合したフィリピンのムスリム身分法が適用され、フィリピン婚姻法の一夫一婦制や離婚禁止等の規定などは適用されません。また、司法についても宗教裁判所である「シャリーア裁判所」が設置されています。
フィリピン法 家族に関する法律の概要
家族に関する主たる法源は、次のとおりです。
- 民法典(The Civil Code of the Philippines, Republic Act, No.386, 1949)
- 児童少年福祉法 (The Child and Youth Welfare Code, Presidential Decree No.603, 1974)
- ムスリム身分法(The Muslim Code of Personal Laws, Presidential Decree No.1083, 1977)
- 家族法(The Family Code of the Philippines, Executive order No.209, 1987)
- 国際養子縁組法(The Inter-Country Adoption Act of 1995, Republic Act No.8043)
- 国内養子縁組法(The Domestic Adoption Act of 1998, Republic Act No.8552)
- 女性と子どもに対する暴力を禁止する法律(The Anti-Violence against Women and their Children Act, Republic Act No.9262)
- 里親法(The Foster Care Act of 2012 Republic Act No.10165)
婚姻の成立要件
家族法第1条は、婚姻の定義を、「男女が法に従い夫 婦生活及び家族生活を設立するための、男女間の永続的結合に関する特別な契約である」と定めています。 「婚約」に関する規律はなく、また「内縁・事実婚」に関する規定も置かれていません。
実質的成立要件
婚姻の実質的成立要件は以下のとおり。
- 当事者が男性と女性であり、それぞれが婚姻を締結しうる意思能力を有していること
- 自由意思に基づく婚姻の合意があること
- 男女とも18歳以上であり、家族法第37条及び第38条で規定する婚姻障害に該当しないこと
- 当事者の年齢が18歳以上21歳未満の場合には、婚姻につき父母又は後見人の同意があること
- 当事者の年齢が21歳以上25歳未満の場合には、婚姻につき父母又は後見人の助言を得ていること
婚姻の形式的成立要件
婚姻の形式的要件は以下のとおり。
- 権限ある婚姻吏(solemnizing officer)により式が挙行されること。 (宗教に基づく場合は神父などの宗教役職者、役所で行う場合は弁護士など国から権限が認められている者)
- 当事者が居住する市役所等の地方公共団体から交付された有効な婚姻許可状があること。( 例外規定あり)
- 婚姻吏の面前に当事者双方が出頭し、かつ、法定の年齢に達した2人以上の証人の前で、相互に夫妻として受け入れる旨の宣言をすること。
これに加え、当事者双方は婚姻に先立ち、認可を得た婚姻カウンセラーによる婚姻カウンセリングを受けなければならなりません。(各自治体で「結婚前セミナー」が行われます)
夫婦の財産
婚姻前に夫婦財産契約を締結することができ、「剰余共同制」や「別産制」(※)を選択することができます。財産契約を締結しない限り、「完全共有制」が適用されます(家族法第 106 条)。
※日本の民法は「別産制」をとっています(フィリピンと同様に民法第756条により婚姻の届出前に契約によって定める(契約財産制)ことを認めている)。
「別産制」とは、夫婦平等の原理により、夫も妻もひとしく自分の特有財産を管理・収益する権利を取得し、夫婦の財産の峻別 を図る制度です。「夫婦別産制とはなんですか」(本橋総合法律事務所)
これに対して(完全)「共有制(共同制)」というのは夫婦の財産については共有とするもので、「剰余共同制」はドイツ民法などにみられ、婚姻時の財産(当初財産)と婚姻終了時の財産(終局財産)の差額を剰余として、夫婦間で清算し分配する制度です。「ドイツにおける夫婦財産制の研究」(立命館大学)
現実的には、共働きにしてもどちらかが主婦(夫)であったにしても、給料はシェアするかもしれませんが、日本の民法における家族財産の考え方はあくまで稼いだ者の財産ということになります(そのうえで、「同居・協力・扶助義務(民法第752条)」という生活維持費を負担する義務を定めています)。
しかし、フィリピンではそうではなく、(あまり意識して生活している人はいないかもしれませんが)基本的には稼ぎは最初から夫婦の共同財産になります。
婚姻の解消(離婚)
フィリピン法では、かつては「絶対離婚」の制度を有していましたが、1950 年の民法典制定に伴い、その制度を廃止し、それに代わり「法定別居制度」を導入し、同制度は現行家族法に受け継がれています。このため、現在のフィリピン法は離婚を認 めておらず、婚姻の解消に関して家族法が規律するのは、以下の「婚姻無効」、「婚姻取消」、「法定別居」の三種となります。
婚姻無効
無効事由は以下のとおり。なお、無効の申立てに関し出訴期限(事実発生日から提起することができる期間)は設けられていません。
- 当事者が 18 歳未満の場合、父母又は後見人の同意がある場合も無効である。
- 婚姻挙行権限のない者によって婚姻が締結された場合。ただし、当事者の一方又は双方 が、その者に権限がなかったことにつき善意であった場合にはこの限りでない。
- 婚姻許可状なく婚姻が締結された場合。(例外規定あり)
- 重婚又は一夫多妻婚の場合
- 人違いの場合
- 家族法第53条によって無効とされる婚姻(※)
- 近親婚の場合(具体的な例示は法を参照のこと)
- 婚姻のために自己又は相手の配偶者を殺害した場合
※(婚姻無効及び婚姻取消しの判決は、民事登録されることを要する。当該登録がなされない場合には、第三者に対する効力が生じない(家族法第52条)。当該登録がなされないまま無効・取消判決を獲得した当事者が再婚しても、当該再婚は無効となる(家族法第53条))
家族法第36条の「心理的不能」
家族法第36条では、「婚姻時、『夫婦間の本質的義務』を履行できないほどの『心理的不能』があるものによってなされた婚姻は、婚姻後にその事実が明らかになった場合であっても無効である」と規定されています。
この「本質的義務」とは同法に定められている「夫婦間の義務」(第67条から第71条)や「子の身上に関する権利義務」(第220条、第221条)などに規定されているものとされています。
また、「心理的不能」には、著しい未熟、尋常ならざるほどの低い知性、同性愛が含まれますが、単なる医学的意味だけでなく、「本条における義務に従うつもりがない」ことも含むとされることから、本条は、フィリピンにおいて、事実上離婚規定としての役割を担っているとされています。
しかし一方で、一連の最高裁判所の判断により、「心理的不能」についての解釈が厳格になされています。そのため、(結婚無効は)離婚類似の制度としての意義はそれほど大きいものではないようです。
つまりアナルメント(Annulment)といわれる婚姻無効裁判においては、『夫婦間の本質的義務』を履行できない事実と、配偶者の「心理的不能」の有無が争点になるようですが、それは簡単ではないようです。
このように「結婚無効」の手続きは手間や費用がかかるだけではなく、以上のような法的審理をクリアしなければなりません。(当然裁判で認められないケースもある)
ただし、外国人配偶者と外国において適法に離婚した場合の手続きは別に法律に明記されており、フィリピン人同士の場合と比べると考慮されていると思われます。(後述の「外国人配偶者との離婚について」の項目を参照のこと)
婚姻の取消し
婚姻の取消事由は以下のとおり。
- 当事者が 18 歳以上 21 歳未満であり、父母、後見人又はその他の法定代理人の同意なく婚姻した場合。ただし、当事者が21歳に達し自由意思により同居し、夫婦として生活して いる場合を除く
- 当事者の一方に精神障害がある場合。ただし、精神障害のある当事者の精神状況が回復し、その後自由意思で他方と同居し夫婦として生活している場合を除く
- 一方の詐欺により婚姻した場合。ただし,当事者がその事実を完全に知った後も自由意思 で一方と同居し夫婦として生活している場合を除く
- 一方の暴力、強迫、及び不当な影響力の行使により婚姻した場合。ただし、強迫が止んだ 後も自由意思で一方と同居し夫婦として生活している場合を除く
- 婚姻継続のための身体的能力を欠き、それが継続的で治癒しないものである場合
- 一方が伝染性の性病に罹患しており、それが重大で治癒しないものであること
なお、上記3の詐欺については、「婚姻当時、妻が夫以外の男性の子を懐胎していたことを隠していた場合」「当事者が、疾病の性質にかかわらず、婚姻時に伝染性の性病に罹患していたことを隠して いた場合」「薬物中毒、アルコール中毒、同性愛を婚姻当時に隠していた場合」や、性格、健康、地位、資産及び貞操につき詐称していた場合も、詐欺同様に婚姻取消しの原因となるとされています。
なお、これらの取り消しに関しては、それぞれ請求期限が定め られています。
婚姻無効及び取消しの効果
日本の民法の場合は、「無効は、初めから効力が生じていなかったとみなされます。 一方、取消しの場合は、取り消されるまでは有効ですが、いったん取り消されると事実発生日にさかのぼって無効となります。取消を主張しなければ、有効のままとなります。」フィリピン法においても同様と思われます。
婚姻無効及び取消等の登記がなされた場合は、再婚をすることができます。また、 夫婦の間に嫡出子として出生した子の扱いや財産関係の清算についての定めなども設けられています。
法定別居
法定別居の要件
家族法第55条は法定別居について規定しています。法定別居とは俗に、「ベッドと食卓を別にするこ と」と呼ばれ、婚姻関係を残しつつ別居を認める制度で、相対離婚としての意味を持ちます。法定別居は裁判所の判決をもってのみ認められ、法定別居事由は以下のとおりとなっています。
- 申立人、子又は申立人の連れ子に対する身体的暴力及び重大な虐待行為
- 申立人の宗教の変更又は政治的見解の変更を強要するために、身体的暴力又は心理的圧 力を加えること
- 申立人、子又は申立人の連れ子に売春や不貞を勧めたこと
- 相手方が服役6年以上の確定判決を受けたこと。刑の免除がなされた場合も含む
- 相手方の薬物中毒、アルコール中毒
- 相手方の同性愛
- 重婚。重婚をなしたのが国内であると海外であるとを問わない
- 不貞行為又は性的倒錯
- 申立人の殺害を企てたこと
- 合理的理由のない1年以上の遺棄(置き去りにすること)
法定別居の効果(家族法第63条)
- 夫婦は別居する 権利を有することになるが、婚姻関係はなお維持される。したがって、再婚をすることはできな い
- 夫婦共有財産は解消されるが、有責配偶者は当該共有財産から獲得された利益の持分を得るいかなる権利も有しない。当該持分は没収される
- 未成年子の監護権は無責配偶者に与えられる
- 有責配偶者は無責配偶者の財産について、相続権を喪失する。さらに無責配偶者がなした遺言につき、有責配偶者に有利な条項は法律上撤回されたものとみなされる
この法定別居の実効性(実際にどの程度利用されているかなど)は定かではありません。
外国人の婚姻及び離婚
本国法主義(日本国民法とフィリピン家族法)
日本の民法もフィリピン家族法も当事者の「本国法主義」を採用しています。そのため、婚姻に関する実質的成立要件については各当事者の本国法によるものと解されています。
つまり、日本人配偶者には日本法が適用され、フィリピン人配偶者にはフィリピン法が適用されます。例えば結婚可能年齢が異なる場合は、それぞれの国の法律に基づくということになります。「国際結婚の手続き(どこの国の法律が適用されるか)」(行政書士法人なんば事務所 )
婚姻の形式的成立要件
「フィリピン国外において挙行された婚姻は、挙行地国の法律に従っており、その国において有効であるときは、我が国においても有効とする」(家族法第26条第1項)と規定されており、日本で行われた婚姻はフィリピンにおいても有効とされます。
フィリピン国外でなされた婚姻の無効・取消し
婚姻の無効・取消についても、婚姻挙行地の法律に基づいた効果が認められます。(家族法第26条第2項)
フィリピン国外でなされた離婚
フィリピンではフィリピン人同士の離婚が認められていません(ムスリム間での離婚を除く)。
このため、フィリピン家族法第26条第2項では、フィリピン人と外国人との婚姻が有効に成立している場合であって、その後、外国において外国人配偶者によって離婚が有効に成立し、外国人配偶者が再婚する資格を得た場合は、フィリピン人配偶者もフィリピン法に従い、再婚する資格を取得すると規定しています。
このことから、同条項に基づく訴えをフィリピン国内の裁判所に提起し、同外国判決を承認する旨の判決を得て、フィリピン人は、同国内で再婚する資格を得ることが可能となります。
(下記「外国人配偶者との離婚」の項目を参照のこと)
外国人配偶者との離婚
最近の裁判事例
婚姻無効裁判は「アナルメント」(Annulment)と呼ばれていることはよく知られていますが、最近、日本人の裁判が報道されています。詳細は記事中からは分かりませんが、大田区で離婚手続きを行ったにもかかわらず、下級審ではフィリピン人配偶者が再婚できないという判決が下され、それを覆す控訴審の判決がでたというものです。「CA upholds validity of divorce between Filipina, Japanese spouse」(PILIPPINE NEWS AGENCY 2020/11/05)
日本人の離婚手続き
【フィリピンで役立つ!フィリピン法律あらかると第十一回】の「フィリピン人との結婚と離婚について」では離婚の状況によるケースごとに例示されています。
「 双方が離婚したい場合」は、日本法に基づき離婚をすることができ、日本に在住している場合には市役所等に離婚届を提出すれば済みます。フィリピンに在住している場合、大使館は離婚届の受理権限がないため、日本人夫の本籍地の役場に直接離婚届を届けるか、日本に居所がある場合はその地の役場に郵送して届け出ることになります。
この場合、日本人配偶者とフィリピン人配偶者との間では日本法上は離婚が成立するので、日本人夫は再婚することが可能となりますが、フィリピン人配偶者は既婚の状態が続き、「外国離婚の承認裁判」で承認されるまで再婚できません。(次項の在日フィリピン大使館の案内を参照のこと)
「フィリピン人配偶者が離婚に同意しない場合」及び、「日本人配偶者が同意しない場合」については、上記記事をご参照ください。
外国離婚の承認裁判(フィリピン大使館HP)
在日フィリピン大使館のホームページには日本で離婚手続きをした場合におけるフィリピン人配偶者のフィリピンにおける手続き(外国離婚の承認裁判)の説明があります。 外国離婚の承認裁判
まとめ
つまり、日本国内で適法に離婚手続きを行った場合は、日本人配偶者は即離婚の効力を得る事ができます(再婚できる)が、フィリピン人配偶者はそれに加えて、フィリピン国内の「外国離婚の承認裁判」によって承認を得ることによって、はじめて離婚と同じ効力を得る(再婚できる)ことができるということになります。
聖書と離婚
すでに述べたように、フィリピンで離婚を認められていない理由としてはカトリックの影響(宗教的理由)があります。
今回は制度的な話がメインなので、ごく簡単にふれたいと思います。
聖書における結婚観は「それで人はその父と母を離れて、妻と結び合い、一体となるのである。」(創世記 2:24 口語訳聖書(以下同じ))という聖句を根源としているとされます。
旧約聖書においては、「その女に恥ずべきことのあるのを見て、好まなくなったならば、離縁状を書いて・・・」(申命記24:1)と男性による離縁を認める一方、「イスラエルの神、主は言われる、「わたしは離縁する者を憎み・・・」(マラキ書 2:16)と離婚に肯定的では無いことが認められます。
新約聖書の時代になると、イエスの言葉である「そこでわたしはあなたがたに言う。不品行のゆえでなくて、自分の妻を出して他の女をめとる者は、姦淫を行うのである」。(マタイの福音書 19:9)(不品行というのは原語のギリシア語ではポルノの語源になったポルネイア)のほか、「人は神が結び合わせたものを引き離してはなりません。」(マタイの福音書 19:6)など離婚に否定的とされる根拠となる聖句がみられます。
当時、女性(妻)や子供は男性の所有物とみなされ、社会的には人の数にも入れられないという背景がありました。離縁状も安易に出されるなど社会的風潮が乱れていたとも考えられています。
この聖句も男性しか(実質的には)離縁できないという当時の社会のもとでの言葉であり、男性からの視点となっており、現代から見れば「あまい」という見方もされるかもしれませんが、(以前お話した同志社大学の小原教授によるように)当時としては(この聖句に限らず)イエスの女性に対する言動は男性ら(社会)にとってはかなりインパクトのあるものだったと考えられます。
私が公務員だったころ(もう20年以上前)、友人が「男女共同参画」のセクションにいました。「男女共同参画」という名称ではありますが、当時やっと社会認識されつつあったDV(ドメスティック・バイオレンス)などの問題を扱っており、夫の暴力などで苦しんでいる話を聞いたことがあります。(その後、シェルター(一時保護施設)であるとか、戸籍や住民票の閲覧制限など行政上の対応が整備されえていきます。)
今日でもDVの問題は大きな課題です(近年は夫に対するDVなどあらたな問題も提起されています)。夫の暴力にあっている女性が相手から結婚の同意が取れない場合、離婚裁判は時間もかかり、立証が困難なケースもあります。また、離婚できなければ当然再婚もできないことになります。なにより精神的に追い詰め苦しめられます。
フィリピンにおいては昨年、ミンダナオ島のイスラムの法律にもとづき48歳の男性が13歳の女児を妻として迎えた「児童婚」がニュースで報じられました。「13歳女児、同じ年齢の子を持つ48歳男性と結婚 「学校には通わせる」と新郎(フィリピン)」(livedoor news 2020/11/17)
旧約聖書には「まだ人と婚約しない処女である女に、男が会い、これを捕えて犯し、ふたりが見つけられたならば、女を犯した男は女の父に銀五十シケルを与えて、女を自分の妻としなければならない。・・・」(申命記2:28,29)とあります。
キリスト教では新約聖書において、このような旧約聖書の(形式的な)律法は廃止されたとされています。しかし、この現代においてもこの聖句と同様に「強姦犯人が被害者を妻にすれば罪が許される」という制度を持った国があります。
「強姦犯との結婚強要され16歳少女自殺、モロッコ」(AFP BB news 2012/3/16)
「14歳少女レイプの容疑者、被害者と結婚で無罪に マレーシア」(AFP BB news 2016/8/4)
「自分をレイプした男と強制結婚させられた「最下層カースト」少女が殺害」(courrier 2020/07/20)
そのため、このような悲惨な事件が起きています。最初の2つのモロッコとマレーシアはイスラム教ですが、イスラム教は旧約聖書を教典としており正典のコーランもその影響を受けています。ネパールの場合は聖書とは関係のないヒンズー教で、(法律では廃止されたカースト制度が残っており)加害者は上位階層で、被害者(不可触民と呼ばれる最下層)に対するレイブの罰として結婚を命じられたところ、それを受け入れられない加害者の家族が被害者を殺害したというものです。
近年、こういった制度に対しては法改正の動きもみられます。「レバノン、「被害者と結婚でレイプ犯免責」法廃止 中東で相次ぐ」(BEUTERS 2017/8/17)
男女が夫婦として生涯をとげることは理想ではありますが、現実社会では結婚・離婚制度によって悲惨な事件が生み出されたり、冒頭のフィリピンにおける家族法改正法案理由にあるように弱い立場にある女性が苦しんでいる現状があります。
中絶の問題も同様に宗教と深い関係にあります。フィリピンでは厳格に中絶は犯罪であり(最高6年の禁固刑)、このため違法な中絶が行われ、その合併症で約 1,000人の女性が死亡しているとされています。(この数字は氷山の一角と思われます)「DFAT COUNTRY INFORMATION REPORT THE PHILIPPINES」(法務省)
経済的理由などによる中絶に対しては、社会でサポートするという考え方は(理想論の面はありつつ)望ましい方法の一つとは思われますが、出産によって母体に危険が及ぶ場合や強姦や児女といったケースなど非常に難しい問題もあります。
法制度というのは倫理観に密接に関わっていますが、フィリピンでは特にキリスト教教義の影響がとても大きいものです。それを踏まえ、宗教的倫理を理解したうえで、よりよい方法は何かと探っていく必要があります。
おわりに
今回は、フィリピンにおける離婚などについて取り上げました。日本とフィリピンの違いという点で、以前から投稿しようと思っていたテーマで、私が離婚を考えているということではありませんので念の為。
さて、本日1月16日と17日に英語の民間試験の延期問題で紛糾した「大学入学共通テスト(旧センター試験)」が実施されます。私は大学入試に関わっていた事があるのですが、ちょうど英語のリスニングテストが導入された年でした。「受験生の一生が関わる入試でミスなど許されない」というマスコミ注目の中での実施でした。
幸い私の会場ではトラブルはありませんでしたが、何かあったら困るので前日は会場である学校に寝泊まりするなど大変神経を使ったものでした。
大きなトラブルなど無いことを願っています。